「金正恩シンガポール訪問」で注目すべき7つのポイント
史上初の米朝首脳会談の日が迫ってきた。会談が成功するかどうか、会談の焦点である北朝鮮の非核化と北朝鮮が交換条件として求めている体制保障についてどのような「ビッグディール」が行われるのか、世界の関心はこの一点に注がれているが、これ以外にも注目すべきポイントは多々ある。
(参考資料:訪米した金英哲副委員長が持参した「金正恩親書」――トランプ大統領の早期訪朝を要請か!)
トランプ大統領はこれまで内外で様々な国の首脳らと会談を行っているので、誰もがそのスタイルや手法については慣れ、そこそこ熟知しているが、金正恩委員長のそれについては未知で、従って金委員長の一挙手一投足に関心が集まることになるだろう。
板門店での韓国の文在寅大統領との首脳会談、訪中しての習近平主席との首脳会談で金委員長のパフォーマンスを目の当たりにしているが、同胞国の韓国、友好国の中国の首脳との会談と、国交のない敵国の首脳とでは接し方、対応も当然異なってくる。そこで、注目すべき7つのポイントを挙げてみる。
1.専用機がノンストップでシンガポールに入るのか
金正恩委員長の専用機は1960年代に開発、製作され、70年代に改良されたイリューシン(IL)62M型で、飛行距離は約1万km。平壌からシンガポールまでは4,700kmでノンストップによる飛行は可能だが、旧式であるため整備問題で不安を抱えている。2014年11月に崔龍海党副委員長がロシア訪問の際、利用したが、機器にトラブルが発生し、引き返したこともあった。先の二度目の訪中時は大連まで運行しているが、飛行距離は短く、およそ1,000kmであった。
また、燃料も補給する必要もある。シンガポールまでは中国の上空を通るので中国のどこかを中継地にする可能性も考えられる。今回、一度もテストフライトをしてないことからぶっつけ本番で飛ばすことになる。
2.板門店会談と同様に12人のボディーガードを連れていくのか
文在寅大統領との板門店会談では屈強なボディーガードを12人も引き連れていた。ランチのためリムジンに乗って北側のエリアに戻る際、車を囲みながら伴走するボディーガードの警護ぶりは韓国のみならず世界を驚かせた。
休戦状態にあるとはいえ、最前線、それも敵地(平和の家)に入ることから徹底した身辺警護となったが、文大統領が二度目の会談のため北朝鮮側のエリア(統一閣)に入った際には伴走車が2台だけで、ボディーガードは数えるほどだったことを考えると、北朝鮮の警戒ぶりは過剰であったことがわかる。今回も同じ人数を連れていくのか、それとも米国と同じ警護員の数にするのか、興味深い。
3.随行人に金桂寛外務第一次官が含まれるのか
金正恩委員長の随行人は南北、中朝首脳会談の時のメンバーが中心となるだろう。
ポンペオ国務長官のパートナーである金英哲統一戦線部長、李洙ヨン党国際部長、李容浩外相、板門店で米国側と詰めの協議を行った崔善姫外務次官及び崔寛一対米局長、そしてシンガポールを事前視察し、米国側と儀典関連の調整を行った金ファミリーの「執事」と称される金昌宣党中央委員会部長らが同行することになるだろう。
問題は、先月17日、「リビア方式のような一方的な核放棄強要なら再考する」との談話を発表し、一時トランプ大統領の首脳会談中止発言を招いた金桂寛第一次官がメンバーに加わるかどうかである。
核・対米交渉に長け、ボルドン大統領補佐官から「問題人物」と警戒されている金桂寛第一次官は2016年11月に金委員長が在北朝鮮キューバ大使館に訪問した際に同行したのを最後に公の場に姿を現してない。
4.背広にネクタイ姿で現れるのか
金委員長は国内での重要な行事では党服を着用している。また、南北首脳会談でも中朝首脳会談でも、そしてポンペオ国務長官に会った時も党服を着ていた。しかし、背広も持っており、公の場に背広姿で登場したこともあった。
一昨年5月に行われた36年ぶりの党大会で初めてネクタイにスーツ姿で現れたことが話題となったのはまだ記憶に新しい。普段スーツ姿であっても、党大会には通常は党服に着替えて出てくるのがあるべき姿だが、金委員長の場合は逆パターンで、誰も予想してなかった。
父の金正日総書記は一度も背広姿を見せることはなかった。しかし、金委員長がスタイルを真似ている祖父・金日成主席は1955年にインドネシアで開かれたバンドン会議に詰め入りの党服ではなく、背広姿で現れた。また1994年に訪朝したカーター元大統領と会談した際も背広姿であった。
シンガポールでの米朝首脳会談を北朝鮮が普通の国に変身したことをアピールする絶好の機会と捉えているなら、背広に着替えて現れるかもしれない。
5.トランプ大統領に両手で握手するのか
金委員長は韓国の文大統領(66歳)、中国の習主席(65歳)との首脳会談では相手が年長者であることから朝鮮半島の礼儀作法に倣い、握手する際に左手を添え、両手で相手の手を握って見せた。また、西洋式にハグまでして親近感をアピールした。
文大統領や習主席よりもさらに年上の御年72歳のトランプ大統領に対しても同じように礼節を重んじてしかるべきだが、直前まで激しく罵り合い、戦争一歩手前までいった宿敵にどう接するのか注目される。
また、トランプ大統領には「リビア方式に従わなければ、カダフィの二の舞になる」と威嚇したボルドン大統領補佐官が随行するが、「人間の屑」「吸血鬼」呼ばりするなど拒否感を示しているボルドン補佐官と握手を交わすかも注目の的となりそうだ。
6.英語で挨拶するのか
金委員長は10代の頃、スイス・ベルンのインターナショナルスクールや公立学校で6年間(1994-2000年)留学し、学んでいたが、その際にドイツ語と英語をマスターしたと言われている。しかし、金委員長が英語圏の外国人と接する機会は稀で、米国人はNBAの元スター選手ロッドマン氏とポンペオ長官ぐらいに限られている。
いずれも公の場では通訳を挟んでいたが、通訳抜きで語る場面も少なからずあった。ポンペオ長官との会談を終え、見送る途中、廊下を歩きながら会話を交わしていたが、通訳は後ろを歩いていたのでおそらく直接英語でやりとりしていたのだろう。
世界が注目する公式の首脳会談ということもあって、ポンペオ長官の時と同じ通訳を連れて行くものとみられるが、親近感を示すため最初に会った時に、あるいは二人きりで散歩する際には英語を使う可能性も十分考えられる。
7.共同記者会見に応じるのか
南北首脳会談では終了後、金委員長は文大統領と並んで共同記者会見に臨んでいた。但し、記者の質問は一切受け付けることはなく、一方的に原稿を読み上げ、立ち去っていた。
今回もトランプ大統領との共同記者会見に応じ、記者らの質問を受け付けるのかが見物だ。
一度も経験したことのない西側記者らの質問攻勢に耐えられるとは考えにくいが、質問者の人数が制限され、事前に質問が提出されているならば、応じる可能性もゼロではない。仮に応じた場合、人権問題についてどう答えるのか興味深いが、現実問題として、共同記者会見に応じる可能性は極めて低いだろう。