2億円の賠償求めて女性を提訴の伊東純也選手 裁判どうなる?捜査への影響は
サッカー・伊東純也選手が2億円の損害賠償を求めて女性を提訴した。伊東選手から性被害を受けたという女性の証言は嘘であり、虚偽の告訴による不法行為でスポンサー契約を打ち切られるなどの損害を受けたという。伊東選手はすでに女性を虚偽告訴罪でも逆告訴しており、これで刑事と民事の対応がそろった形だ。
なぜ新潮を訴えなかった?
こうした対応について、伊東選手側は「セカンドレイプと批判されることがあるが、そもそもファーストレイプがなかった」と断言している。ただ、騒動の発端となった肝心の週刊新潮については提訴していない。女性に勝訴しても現実には億単位の賠償金など支払われないだろうし、この種の事件では出版社に対して裁判を起こすのが通常だ。
しかし、新潮を名誉毀損で訴えたら、「真実性」すなわち性加害の事実が真実か否かだけでなく、「真実相当性」すなわち新潮が取材を尽くしたか否かなど、真実だと信じるに足りる相当な理由があったか否かまで争点になってしまう。「表現の自由」という憲法上の問題も生じるので、最高裁まで争いが続く。
これに対し、虚偽告訴を理由として女性の不法行為責任だけを問えば、新潮の「真実相当性」は全く争点にならない。性加害の事実を虚偽だと立証すれば足りるので、それだけ伊東選手側の負担が小さくなる。女性を新潮から分断することもできるから、これはこれで一つの戦術といえる。
捜査への影響は?
とはいえ、こうした提訴が刑事事件の捜査を左右することはない。刑事手続は民事裁判とは無関係に淡々と進められる。伊東選手を性加害の容疑で起訴するにしても、逆に女性を虚偽告訴の容疑で起訴するにしても、検察が証拠に基づいて有罪を立証しなければならないからだ。
捜査の結果、「虚偽か否か断定できない」ということになれば、検察は両者を「嫌疑不十分」で不起訴処分にすることになる。
ただ、刑事事件と違い、民事では「示談」という紛争解決手段がある。双方納得の上でお互いに告訴を取り下げ、処罰を望まないといった形で示談がまとまったら、警察や検察としても介入の余地がなくなる。そこで、示談交渉の推移を見極めるため、捜査の足を若干緩めるといった展開は考えられるだろう。
民事裁判はどうなる?
一方、民事裁判には警察や検察は関与しない。訴えを起こした「原告」が「被告」による不法行為にあたる事実を具体的に主張し、証拠に基づいて立証しなければならない。被告は必要に応じて反論し、反証することになる。
今回は伊東選手が原告、女性が被告だから、まずは伊東選手側に性加害が虚偽であることの立証責任がある。これを受けて女性側が反論、反証するという形だ。女性も伊東選手を「反訴」し、逆に損害賠償を求めることが可能だが、女性の代理人弁護士によると、現時点ではその意向はないという。
いずれにせよ、客観的証拠の有無やその内容が裁判の行方を大きく左右することになる。伊東選手が女性を提訴したのは、民事裁判の中で女性側が握っている証拠の中身を知ることができ、刑事事件への対応にも活かせるからではないか。
伊東選手側の立証が成功すれば、満額の賠償が認められるか否かは別として、伊東選手の勝訴だ。逆に失敗すれば、伊東選手は単なる敗訴では済まないほどの大ダメージを受ける。しばらくは双方の間で主張や反論の書面が取り交わされるから、民事裁判の結論が出るのはまだまだ先になるだろう。(了)