全体では34.3%…「防衛・安全保障への対策」はどこまで国民に望まれているのか
「防衛・安全保障」を強く望む層とは
昨今の日本周辺事態の情勢変化を受け、これまで以上に注目を集めているのが「防衛・安全保障への対策」。国民にはどこまで望まれているのか。その実情を内閣府が2024年3月に発表した、定点観測的に調査を行っている「国民生活に関する世論調査」(※)の内容から確認する。
最初に示すのは直近年分の政府への要望の一覧。提示された選択肢の中で「防衛・安全保障」は34.3%の人が要望している。順位としては8番目。上位には先行記事で挙げた「物価対策」「景気対策」「医療・年金などの社会保障の整備」「高齢社会対策」などが並ぶ。
意外に思う人もいるかもしれないし、当然、むしろまだこれでも低いと感じる人もいるだろう。
この「防衛・安全保障」を求める声の大きさをいくつかの属性別で見たのが次のグラフ。回答者の居住地都市規模別や男女別・年齢階層別に区分したもの。
都市規模別ではほぼ同じで傾向だった動きは見られない。東京都区部がいくぶん高い程度か。有事の際に被害を受けやすいか否かの観点では、都市部の方が高い値を示すような気がするのだが。
男女別では男性の方が高いが、年齢階層別では年齢が上になるに連れて値が高くなる傾向がある。年齢が上の人ほど、防衛や安全保障に関する政府への要望意識が強いようだ。
属性別動向としては「男性」「高齢層」に高めの傾向が出ていると表現できるだろう。
昔と今とではどのような意識の違いがあるのか
それでは過去ではいかなる思いが寄せられていたのか。1998年以降の全体値の変動を示したのが次のグラフ。よい機会でもあるので、政府が担う施策として類似の項目である「外交・国際協力」を併記してグラフを作成する。
2006年の値が突出しているが、これは調査直前の2006年8月に北方領土近辺で、根室市のカニかご漁船第31吉進丸がロシア警備艇に銃撃の上拿捕され、漁船の乗組員1名が射殺、3名が拘束された(第31吉進丸事件)のを受けての動き。それをのぞけば多少のぶれはあるものの、防衛・安全保障と外交・国際協力ともに年々上昇しており、対外施策の重要性を認識しているようすがうかがえる。
2021年では防衛・安全保障の値が大きく跳ねているが、2021年分では新型コロナウイルス感染症への対策のため、過去の調査と比べると調査方法や設問様式に違いがあることから、イレギュラーが出ているのかもしれない(今設問においては選択肢の観点では過去と変わらず、調査方式に違いがあるのみ)。あるいは主に中国の強硬な軍事的圧力の実情報道が影響しているのかもしれないが。あるいはロシアとウクライナ・ヨーロッパ諸国との間に生じた緊張に影響を受けたのだろうか。
そして防衛・安全保障の値の2022年分が2021年に続き前年比で大きな増加を見せているのは、ロシアによるウクライナへの侵略戦争による影響とみてよいだろう。直近2023年では前年比で大きく落ち込んでいるが、前年までの急上昇の反動や、慣れによる緊張感の希薄化が影響しているものと考えられる。
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※国民生活に関する世論調査
直近分は2023年11月9日から12月17日にかけて、全国18歳以上の日本国籍を持つ人の中から層化2段階無作為抽出法で5000人を選んだ上で、郵送法によって行われたもので、有効回答数は3076人。回答者の男女比は1440人対1636人、年齢階層別構成比は18-29歳298人・30代352人・40代489人・50代584人・60代579人・70歳以上774人。
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