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【加計学園問題】再調査で真相は明らかにならない

安積明子政治ジャーナリスト
真の被害者は文科省かもしれない(写真:アフロ)

加計学園が愛媛県今治市に2018年4月に開設する獣医学部を巡り、「総理のご意向」問題に新たな展開がありそうだ。それまで頑なに再調査を拒否してきた官邸が6月9日にその態度を一変させ、追加調査に応じることを決定した。

内閣府の藤原審議官から「会いたい」と

焦点は6月2日に民進党が明らかにした文科省内の連絡メールだ。

これによると、2016年9月26日午前に内閣府で国家戦略特区を担当する藤原豊審議官が浅野淳行専門教育課長と会いたい旨の連絡が入り、調整後に同日午後6時から永田町合同庁舎7階の特別会議室で会合が開かれた。参加したのは内閣府からは藤原審議官と参事官、文科省からは浅野課長と補佐の合計4人だった。

彼らの間で話し合われた内容は、翌27日に「取扱注意」とされた「打ち合わせ概要」として作成され、14名の関係者に共有された。問題はこの概要に記載された「これは官邸の最高レベルが言っていること」という文言で、もしこの文書が真正なものであるのなら、安倍晋三首相が獣医学部開設に関与したことが明らかになる。

民進党はこのメールの他、高等教育局専門教育課が2016年11月8日私学部に送ったメールの共有者を再調査の対象に含め、部内の共有フォルダーのみならず個人フォルダーや紙の資料も提出することを要求。期限を6月12日正午とした。

ところが同日午後3時に開かれた「加計学園問題疑惑チーム」の会合では、文科省は事実上のゼロ回答。「個人フォルダーを調査するのはプライバシーを侵害する恐れがある」という理由などで早期公開を渋ったのだ。

被害者であるはずの文科省の動きが遅い

さらに文科省は、対応方針を決めてから調査にかかる予定という悠長ぶりを見せて、民進党の議員たちの怒りを買った。しびれを切らした櫻井充共同座長は「答えてもらえないのなら、委員会は止まる。参議院ではまだ法案が残っているが、それでもいいのか!」とぶちまけている。

同じく文科省の動きの鈍さに呆れ果てた福島伸享衆議院議員は、ならばこのまま文科省に突撃すべきだと提唱した。自分たちで直接フォルダーを調査すれば、すぐに事実が判明する。

だがそれでは文科省の面目はまる潰れになる。すっかり困惑した文科省は、今井雅人共同座長の提案によって一時本省に戻り進捗状況を確認することになった。

午後4時前に戻ってきた文科省は、フォルダーが全体で6万にも上ること、調査範囲を私学行政課や設置室にも広げていること、追加のヒアリングを行っていることから、時間がかかることを報告したが、今井共同座長は「調査結果の公表後に、我々は質疑を行わなければならない。発表して国会を閉じて終わりというわけにはいかない」と釘を刺した。

しかし文科省はまだ従順だ。今回の事件においても、「被害者」の側面があるからだ。

「メモをせずに記憶で仕事する」内閣府

一方で今回の「主犯」ともいうべき藤原審議官を抱える内閣府は、9月26日の会議について「文科省の問題だから内閣府がメモを残す必要はない」と主張。あくまでこの問題は「他人事」というスタンスを貫いた。

これには元財務官僚の玉木雄一郎衆議院議員が、「それは行政官として義務違反。幹部同士の話し合いだから、必ず残すべきものだ」と批判。さらに「今だって、後ろの席でメモをとっているじゃないか」と指摘すると、メモをとっていた内閣府の職員が思わず苦笑する場面もあった。

しかし「我々はメモをとる必要がなかった」との主張を譲らない内閣府の塩見英之参事官は二コリともせず、「メモをとらず、記憶に基づいて仕事をしていた」と繰り返すのみ。これには呆れた福島議員が「内閣府は(文字を持たなかった)インカ帝国か!」と突っ込んだが、塩見参事官としては到底笑えない。そのポーカーフェイスの裏には、耐える表情があったに違いない。

さて民進党、共産党、社民党と自由党の野党4党は、12日の夕方に国対委員長が会談し、6月13日正午までに文科省に再調査結果を報告するように求めることで一致した。また前川喜平前文科事務次官の証人喚問や衆参両院での予算委員会の集中審議を与党に求めることも確認している。

だがその通りにはなかなかいかないだろう。そのひとつが6月6日から11日までに行われたNHK世論調査の結果だ。

内閣支持率は前月比で3ポイント減の48%で、不支持率は6ポイント増の36%。実は官邸はこの調査結果を最も注目していたのだ。

「結果が悪ければ、国会をなるべく早く閉じたい」

国会を閉じさえすれば、加計学園問題を審議されることはなくなるからだ。そうして世論がおさまるのを待てばよい。だがそれで、国民の疑念は消えるのか。

通常国会は6月18日に会期末を迎えるが、現在のところ小幅延長説が有力だ。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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