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『なつぞら』第1週を見て、「期待できる」朝ドラを実感!

碓井広義メディア文化評論家
北海道十勝の牧場(GYRO PHOTOGRAPHY/アフロ)

新しい朝ドラ『なつぞら』が始まりました。第1週の全話を視聴しての率直な感想は、「ぜひ見続けたい!」です。主演の広瀬すずさんがまだ本格的に登場していないにもかかわらず、ドラマの幕開け、序盤戦として大健闘していました。

初回の冒頭は昭和30年の北海道十勝です。18歳のヒロイン・奥原なつ(広瀬)が、アニメーターとして歩んだ自分の半生の物語であることを宣言しました。

一人の「無名の少女」が、まだその仕事が世間で認知されていない頃、「アニメーター」になる話。何より、この明快さがいいじゃないですか。少なくとも、日清食品の「創業者の妻」の人生よりは興味深い。

続いて、なつが昭和20年3月に体験した東京大空襲が、アニメで表現されていたので驚きました。さらにスピッツの曲が流れるタイトルバックも、朝ドラでは珍しいアニメ仕立てです。このドラマ全体の“基調”を数分間で伝えた、見事なオープニングでした。

第1週は、なつ(子役の粟野咲莉、好演)が十勝の酪農家で暮らし始めた昭和21年が舞台。主な登場人物たちの顔見世でもあります。

なつの父親の戦友で、彼女を連れて北海道に戻ってきた柴田剛男(藤木直人)。妻の富士子(松嶋菜々子)、富士子の父である泰樹(草刈正雄)、そして子供たちなどです。

剛男は、戦場で生と死が紙一重の修羅場をくぐってきました。なつを引き取ったのも単なる善意ではなく、生き残ったことの“後ろめたさ”を含んだ行為だったと告白します。

こういう厚みのある人物像がドラマを面白くするんですよね。その意味で、第1週で最も強い印象を残したのが泰樹(草刈)でしょう。

初めは、なつを邪魔者として扱うかのように見えた泰樹ですが、実は、なつのことを親身に思えばこそだったことがわかってくる。その象徴的シーンが第4話にありました。

牛の世話をする大人たちを観察し、自分も一人前の働き手になろうとする、なつ。そんな姿を見た泰樹は、帯広の和菓子屋「雪月」に牛乳と卵を届ける際に、なつを同行させます。

店主の小畑雪之助(安田顕)が、それを材料にしてアイスクリームを作ってくれました。夢中で食べるなつに向かって、泰樹が言うのです。

「それはお前が搾った牛乳から、生まれたものだ。ちゃんと働けば、必ずいつか、報われる日が来る。自分の力を信じて働いていれば、きっと誰かが助けてくれるもんだ。お前は、この数日、本当によく働いた。お前なら大丈夫だ。だから、もう無理に笑うことはない。謝ることもない。堂々と、ここで生きろ」

大森寿美男さん(朝ドラ『てるてる家族』など)の脚本と、草刈正雄さんの説得力のある演技ががっちりと噛み合った、とてもいいシーンでした。見ていて、不覚にも、ちょっと泣けました。

早くも名場面と名セリフが登場した『なつぞら』。大いに「期待できる」朝ドラと言えそうです。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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