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快刀乱麻を断つ。なでしこリーグ200試合出場&ハットトリック達成のFW菅澤優衣香が見せた強さ

松原渓スポーツジャーナリスト
200試合で103ゴールを決めてきた菅澤優衣香(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 節目となる試合で、背番号9が眩い輝きを放った。

 前節、リーグ通算100得点を達成した浦和レッズレディースのFW菅澤優衣香が、9月6日、リーグ戦200試合目となった第8節のノジマステラ神奈川相模原戦でハットトリックを達成。試合は3-2で浦和が勝ち、4連勝で首位をキープした。

 

 試合はノジマが浦和を押し込む場面が長かったが、最後は代表FWの存在感を見せつけた。セットプレー、カウンター、自身で得たPK。3得点はいずれも、菅澤の強さを象徴するようなゴールだった。

【劣勢を覆した3ゴール】

 雷鳴が轟き、滝のような雨が降った後、湿気がまとわりつく蒸し暑さの中、相模原ギオンスタジアムで夕方5時にキックオフの笛が鳴った。

 試合は開始2分の右コーナーキックで早々に動く。後方から走り込んでMF猶本光が放ったミドルシュートを、ゴール前で菅澤が角度を変えてゴールネット右隅を揺らす。「練習していた通り」という相手の意表を突くセットプレーを成功させて流れを引き寄せると、さらにその4分後にも、DF佐々木繭のロングフィードからチャンスを作った。

 浦和は守備の要で、開幕から全試合フル出場だったセンターバックのDF南萌華がこの試合を欠場(詳細は発表されていない)。代わってDF高橋はなが同ポジションに入った。主力が欠けるこうした緊急時には、高橋のように複数のポジションでプレーできる選手が多いことは強みになる。そうした個々のユーティリティ性が、流動的に動きながらパスを繋ぐ質の高いポゼッションを可能にしている。この試合も、いつものようにボールの保持率を高めて主導権を握ろうとする狙いが窺えた。

 だが、ノジマの守備がそれを阻んだ。ノジマを率いる北野誠監督は、相手の長所を抑える守備の構築に長けており、特にボールを持てるチームにとっては手強い相手だ。開幕戦の日テレ・東京ヴェルディベレーザ戦(●0-1)では3バックと4バックを使い分けてカウンターからチャンスを作り、第5節のINAC神戸レオネッサ戦(△1-1)ではキープレーヤー対策を徹底し、交代策で流れを引き寄せた。攻守のバランスや守備の強度は試合を重ねるごとに向上しており、2連勝で迎えたこの試合では浦和のキーとなる中盤のスペースを消し、鋭いショートカウンターから流れを引き寄せた。 

 

 だが、22分、菅澤が鮮やかなゴールで劣勢を覆す。

 ノジマの最終ラインと駆け引きをしながら、自陣ゴール前でクリアボールを拾ったMF水谷有希からのロングパスを引き出すと、「うまくキーパーをかわして、あとは落ち着いて押し込むだけでした」と、イメージ通りの形で2点目。

 だが、リードを2点に広げてもノジマのペースは変わらない。中盤でボールを奪われる場面が多く、35分に1点を返されると、勝負の行方は再びわからなくなった。

 

 浦和の森栄次監督は後半、交代策でテコ入れを図る。FW安藤梢とDF長嶋玲奈の2人を投入し、5つのポジションを入れ替えた。右サイドバックのFW清家貴子をトップに上げて前線に起点を作る形は、流れを変えたい時の定石となりつつある。しかし、それでもノジマのプレッシャーを受けてしまう構図は変わらず、森監督は15分あまりで清家を右サイドバックに戻した。

 そして、互いに次の手を探り合っていた68分、ミスからノジマのルーキー、FW松田早和に決められ、2-2と追いつかれた。

 このゴールでノジマが勢いを増し、逆転ムードがスタジアムを包んだ。しかし、終盤の82分に菅澤がこの日3度目の決定的な仕事をしてみせる。長嶋のフィードに抜け出してGKと1対1になると、ペナルティエリア内で相手DFのファウルを誘ってPKを獲得。これを冷静に右に決めて勝ち越した。

 守備の時間が長く、浦和の選手たちもストレスを溜めていたのだろう。3点目が決まった後、菅澤はほっとしたような笑顔で駆け寄ってきたチームメートを逆に労うようにタッチをかわし、力強く両手を叩いてチームを鼓舞した。

 そして、結果的にこのゴールが決勝点となった。

「個々のミスやうまくいかないところもありますが、今はチームワークとして、一つひとつ勝っていくところをテーマにしています。内容はもちろん(課題が)ありますが、結果がうまく出てくれたので、非常にいいゲームだったと思います」

 森監督は試合後に90分間をこう総括し、「勝負強さも、今のチームには出てきたかなと思います」と、チームが成長していることへの喜びを語った。

 菅澤は今季8試合で9ゴール目となり、同じく今節ハットトリックを達成したベレーザのFW小林里歌子と並んで得点ランクトップの座をキープした。

【12年目の記録】

 首位を走る浦和の強さは、守備力、ボールを保持する力、そして勝負を決める「個」の強みをまんべんなく生かせていることだ。

菅澤優衣香(写真:keimatsubara)
菅澤優衣香(写真:keimatsubara)

 浦和はボールを持った瞬間に、まず菅澤の位置や動き出しを見ている選手が多い。長身で、外国人選手にも当たり負けしない菅澤が最前線にいることで、ポゼッションと同じぐらいカウンターやセットプレーが強みになっている。公式サイトで発表されている身長は、昨年よりも1cm伸びて169cmになった。だが、印象としてはもっと大きく見える。それは、ジャンプで周囲よりも頭ひとつ分上に出る高さや、ダイナミックなゴールが多いことも影響しているかもしれない。

 もちろん、菅澤を徹底マークして得点を阻止しようと試みるチームもある。だが、そこで中盤に降りて周囲を生かせるのも強みだ。前線にはFW安藤梢や清家、高橋ら、強靭なフィジカルとゴールへの嗅覚を持った選手たちがいるし、2列目には猶本、水谷、MF塩越柚歩ら、正確なキックやドリブル、パンチのあるミドルシュートで局面を打開できる選手がいる。浦和で4年目を迎える菅澤は、そうした選手たちとの調和の中で自身の持ち味を最大限に発揮しているように見える。

 なでしこリーグ1部でデビューした2009年から数えて、今季で12シーズン目になる。コンスタントに積み上げてきた得点は、200試合目となるこの試合で103得点まで伸びた。

 前節の新潟戦後に、菅澤はリーグ通算100ゴールの記録について聞かれ、「FWとして本当にうれしいことです」とコメント。ゴールに対するこだわりを聞かれた際にはこう答えている。

「(浦和に)入った当初はゴールへの意欲というか勢いは、今より全然ありませんでしたが、FWとしての責任感は年々出てきましたし、チームの助けとなることをFWとして、していかないといけないと思っています。今後もしっかりとチームの勢いを出せるように、自分自身が得点を決めていけたらと思います」

 今季は、ゴール後のパフォーマンスにも注目したい。仲間とタッチをかわした後に、人差し指で空を指すポーズや、仁王立ち、ジャンプしてガッツポーズなど、様々な形で喜びを表現している。サポーターやベンチにいる仲間たちへのメッセージを想像するのも楽しい。

 全18節のリーグ戦は、次節の伊賀FCくノ一戦で折り返し地点を迎える。最終順位が2位だった昨年は、折り返し地点で6勝3敗だったことを考えると、ハイペースで勝ち点を重ねている。だが、15年からリーグ女王の座を守っているベレーザと僅差で競っている点は昨年と変わらない。

「油断して勝てるチームは1つもありません。一つひとつ戦っていくことで、最後の1試合まで気を抜かずにしっかり勝ちにいけるチームが優勝できるチームだと思います」

 新潟戦後にそう語ったのは、守護神のGK池田咲紀子だ。昨年は終盤戦でチームが失速し、もう少しで手が届きそうだったタイトルは遠ざかってしまった。

 そうした経験も糧にし、浦和は残り10試合をどう戦うのか。頼れるエースとともに、進化する浦和のサッカーを堪能したい。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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