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日本代表が帰国しても、大会は続きます!…ワールドカップ取材日記8【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
帰国会見時の田中。大会期間中に「孤独」だったことも吐露。(写真:中西祐介/アフロアスポーツ)

ラグビーワールドカップのイングランド大会が9月18日~10月31日まであり、ニュージーランド代表が2大会連続3回目の優勝を果たした。日本代表は予選プール敗退も、国内史上初の1大会複数勝となる3勝を挙げ、話題をさらった。

以下、日本テレビのラグビーワールドカップ2015特設サイトでの取材日記を抜粋(8)。

【10月13~16日】

ここからほぼ毎日、ほぼ何の変哲もない日々を過ごすこととなります。朝起きて、近くのカフェ(Wi-fiが無認可とおぼしきアパートの部屋よりも強力)で長い原稿を何本も書く。疲れたら部屋に戻って、寝る。この繰り返し。変わったことといえば、15日にラグビー発祥の「ラグビー校」へ行ったことでしょうか。お土産を数点、購入。

以下、箇条書きで気になったことを列挙します。

・部屋…隣には年齢が離れた日本人の男女が2人で宿泊している様子。こちらを外国人だと思っているのか、備え付けられたキッチンで会うと「Good morning!」と挨拶される。突然すぎて「H…Hi」と返す。また、この施設では4日に1度ほど衣服を洗濯してくれると判明。女性オーナーが「もう1人の男」と呼ぶ日本語の話せない韓国人男性に洋服を託すと、1~2日後に物干し台とともに洗濯物を渡される。

・近所…ビクトリア駅構内に「わさび」という日本食のファストフード店あり。ここのチキンカレーが日本風でうまい。ただ、11日に部屋に泊めてくれた全国紙記者の方(ビクトリアの知人宅で滞在し、各地で他競技の取材など)に、近所の商店街のある露店を教えていただく。そこでは、日本人女性がそぼろ弁当を提供してくれる。この日、先輩記者には昼食をごちそうになり、「ふーくん(数年前の交際相手からの呼び名。なぜ、この人が知っているのか!)は、絶対に今度のジャパンについて本を書くべきだ。使える手は何でも使え」と力強いメッセージも受け取る。

・ラグビー…日本代表の帰国会見の映像をYou tubeで拝見。1人ひとりの挨拶にはドラマがにじんでいたか。例えば、家族への謝辞を述べる際に田中史朗選手は目に涙をためる。近鉄ライナーズ所属のトンプソン ルーク選手は「あ、スミマセン。関西弁が出てしまって」。安定。後にFacebookを観ると、「3つ質問していいのに2つしか質問しないとは。集まったマスコミは何をやっている」との意見あり。

【10月17日】

トゥイッケナムスタジアムで決勝トーナメントが始まりました。負けたら終わり。誰が言ったか、でも真実かもしれません。「ここからが本当のワールドカップ」。この日はウェールズ代表と南アフリカ代表との激突です。

調子が上がらぬまま大会に入り、初戦で日本代表に逆転負けを喫した南アフリカ代表は、あの日以降、明らかに生まれ変わっているようでした。攻守とも1対1で相手を圧倒する、その周辺でさらに簡潔な1対1を仕掛ける…。本来の持ち芸を再確認している印象です。

この日もそうです。例えば序盤、自陣での守備局面。

ウェールズ代表が用意された陣形で球を左右に動かすさなか、起点の肉弾戦へ圧力をかけたのは南アフリカ代表のフランカー、スカルク・バーガー選手です。そのまま相手のノット・リリース・ザ・ボールを誘います(球を手離さない反則)を誘いました(なおバーガー選手はこの日、マン・オブ・ザ・マッチに輝きました)。

しびれるシーソーゲーム。粘りの守備と球を動かす戦法のウェールズ代表に対し、南アフリカ代表も変わらず縦、縦を繰り返します。なかでもポラード選手は、相手のカバーが薄い場所へキックを蹴り込み、どうにか敵陣でプレーできるよう試みます。

23―19とリードして迎えた試合終盤。

残り時間が少ない折にリードする側が取るべき手段は、敵陣でのボールキープであるはずですが…。弾道は届かず、相手に攻撃権が渡ります。ピンチか。否。ここで、南アフリカ代表はタックルまたタックル。ターンオーバーを奪い、ノーサイドを迎えます。

そういえば、かつて南アフリカ代表のアドバイザーも務めたエディー・ジョーンズ日本代表ヘッドコーチ(10月末まで)はよく、「南アフリカ代表は攻撃より守備、相手を痛めつけるのが好き」と話していたものです。ウェールズ代表の粘りを前にしても、デュプレア選手は冷静でした。

記者会見終了後、メディアセンターのテレビではもう1つの準々決勝が流れます。ニュージーランド代表対フランス代表。場所はカーディフ。常時優諸候補のオールブラックスことニュージーランド代表にとっては、人呼んで「まさかの敗退」を喫した2007年大会の準々決勝と同会場、同カードです。

選手入場。

試合前にオールブラックスが披露する「ハカ」は、特別な時のみに発動する「カパ・オ・パンゴ」。

80分後、62―13。

【10月18日】

ファン専用の無料のシャトルバスでトゥイッケナムスタジアムに訪れます。ワールドカップの準々決勝を取材するためです。

メディアセンターには13時頃。到着。カーディフはミレニアムスタジアムでの準々決勝がやっていました。

どうした? 優勝候補のアイルランド代表。

ポール・オコンネル主将や司令塔のジョナサン・セクストンを怪我で欠き、本来の持ち味を発揮していたのは後半開始から25分ほどに映りました。それ以外の場面ではアルゼンチン代表のタックル、大外での突破、キックとキックチェイスが目立ちました。アルゼンチン代表は接点で反則や反則と見られるプレーを重ねながら、アイルランド代表はそれ以上にリズムが狂っていましたでしょうか。43―20。

プレスシートで観戦したオーストラリア代表とスコットランド代表の激突は、本物の接戦でした。

雨が降り出したのは、32―27とオーストラリア代表リードして迎えた後半34分頃でした。

オーストラリア代表のパスの軌道を読んだスコットランド代表のセンター、マーク・ベネット選手が、インターセプト。そのままトライを決めます。スクラムハーフのグレイグ・レイドロー主将がコンバージョンを決め、32―34と勝ち越しました。

しかし、ノーサイド直前。スコットランド代表が自陣でのラインアウトで捕球ミス。直後、前に落ちたボールをその場で待ち構えた選手が捕球する「ノックオン・オフサイド」の反則を判定されます。

この日はキックチャージから失点を招くなど終始苦しんでいたスタンドオフ、バーナード・フォーリー選手が、ペナルティーゴールを決めます。35―34。ノーサイド。しびれる接戦でした。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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