Yahoo!ニュース

コロナワクチン残存分は全廃棄へ 健康被害救済対象も縮小 一般国民に周知せず

楊井人文弁護士
(写真:イメージマート)

 これまで全額公費負担で行われてきた新型コロナワクチン接種が4月1日から原則有料に変わる。国主導の接種事業が終了し、万が一、接種による健康被害が生じた場合でも、給付額や対象者が縮小される。この救済制度の変更点について、厚生労働省は一般国民に周知していない。

 また、厚労省が、医療機関の保管分も含め、余ったワクチンを4月1日以降すみやかに全て廃棄し、使用しないよう、各自治体に指示を出していたこともわかった。

厚労省、PMDAの資料をもとに筆者作成。支給額修正あり【追記】参照。3月31日までに死亡した方は改正前の支給額(死亡一時金4530万円、葬祭料21万2000円)が引き続き適用されます。
厚労省、PMDAの資料をもとに筆者作成。支給額修正あり【追記】参照。3月31日までに死亡した方は改正前の支給額(死亡一時金4530万円、葬祭料21万2000円)が引き続き適用されます。

 コロナワクチン接種は2021年から約3年間「特例臨時接種」との位置付けのもと、接種勧奨が行われてきたが、3月31日で終了する。4月1日以降の接種は、秋冬ごろに予定されている「定期接種(B類)」(65歳以上)を除いて、高齢者も含め「予防接種法に基づかない接種」(いわゆる任意接種)として扱われる。季節性インフルエンザのワクチンと同じ扱いで、定期接種の期間も含め、接種勧奨は行われず、努力義務も適用されない(厚労省資料)。

 コロナワクチンの接種で健康被害が生じた場合の補償範囲も、大きく変わる(注:3月31日以前の接種で生じた健康被害者には従来の給付額が適用)。

 従来は通院治療も補償対象だったが、4月1日以降の接種による健康被害者への補償は原則として入院治療に限定される。

 後遺障害が生じた場合の障害年金の給付額も従来の半分近くになり、労働が著しい制限を受ける機能障害など(予防接種法施行令別表第二の3級)が残ったケースでも救済対象から除外される。

 死亡した場合に遺族(配偶者以外は生計を同一にしていた場合に限る)に支払われる一時金も、従来(4530万円、死亡日が4月1日以後の場合は4670万円)の5分の1以下の約778万円に減額される。亡くなった接種者によって生計を維持していた遺族に限り、遺族年金が給付される。

 いわゆる任意接種でも、秋冬の定期接種でも、救済の範囲や金額は基本的に同じだ。ただ、審査機関や手続きが異なる。秋冬の「定期接種」による健康被害は国の健康被害救済制度の対象だが(手続き)、それ以外の「任意接種」による健康被害は厚労省所管の独立行政法人・医薬品医療機器総合機構(PMDA)の救済制度を利用することになる(手続き)。

【4月4日修正・追記】

 4月1日からの支給額が変更(増額)されたため、遺族に支払われる一時金を特例臨時接種は「4530万円」から「4530万円、死亡日が4月1日以後の場合は4670万円」に、定期接種Bまたは任意接種は「約754万円」から「約778万円」に修正しました。上記の表も支給額を修正しました。なお、死亡一時金・葬祭料の支給額は、死亡日が3月31日以前か4月1日以後かで変わります。それ以外(医療費・医療手当・障害年金・遺族年金等)の給付は4月分から変わります(事務連絡参照)。

武見敬三厚生労働大臣(2024年3月19日、定例記者会見)
武見敬三厚生労働大臣(2024年3月19日、定例記者会見)

厚労相がお悔やみ・お見舞いを表明

 コロナワクチンはこれまでに約1億人が接種し、接種回数は4億3600万回を超えた(首相官邸特設サイト)。ただ、接種が本格化した後も、感染拡大は繰り返し発生し、流行規模も大きくなった(NHK特設サイト参照)。

 他方、健康被害の救済申請は1万件を超え、認定件数も過去最多となっている。

 厚労省は、医師ら専門委員の審査会を4つに増設して審査の迅速化を図り、これまでに約6800件の健康被害を認定。死亡事案の認定も523件に上り、過去44年間の他のワクチンの累計(死亡認定151件)を大きく上回った。現在も毎月数百件単位の新規案件が受理されている(詳しくは厚労省の審査会のほか、筆者の分析レポートも参照)。特に重大な死亡・後遺障害案件はまだ半分も終わっておらず、審査は当分の間、続くとみられる。

 武見敬三厚労相は3月19日の記者会見で「新型コロナワクチン接種後の健康被害でお亡くなりになられた方々にお悔やみ申し上げ、健康被害を受けた方々にはお見舞いを申し上げたい」と初めて表明した。ただ、これを報じたメディアはなかった。

筆者作成
筆者作成

残存ワクチン「必ず廃棄」指示 救済制度変更は周知せず

 厚労省は、救済制度の変更点について自治体向け資料では説明したものの、一般向けサイトQ&Aサイトでは周知していない。リーフレットでも制度の存在のみ触れ、補償内容の変更点は周知していない(3月30日現在)。

 厚労省は、これまで接種事業を担ってきた各自治体に、残ったワクチンについて「令和6年4月1日以降は例外なく接種に使用することはせず、必ず廃棄」するよう指示した。医療機関が保管しているものも廃棄させ、報告を求めた。注射器・注射針等は譲渡・売却を認めるが、ワクチンは有効期間内であっても認められない(3月11日付事務連絡)。

 4月1日以降に接種を行うときは、国が購入したワクチンが余っていても使えず、医療機関が業者から新たに仕入れる必要がある。

 モデルナは3月29日、今後コロナワクチンを市中に供給する方針を明らかにした。今後コロナワクチンを市中に供給する方針を明らかにした。

残存ワクチンの廃棄を指示した厚生労働省の事務連絡(2024年3月11日)。赤線は筆者
残存ワクチンの廃棄を指示した厚生労働省の事務連絡(2024年3月11日)。赤線は筆者

弁護士

慶應義塾大学卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHoo運営(2019年解散)。2017年からファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年『ファクトチェックとは何か』出版(共著、尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。2022年、衆議院憲法審査会に参考人として出席。2023年、Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット賞受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

楊井人文の最近の記事