Yahoo!ニュース

ドコモ主催のeスポーツリーグで「チーム譲渡」騒動。何が起きたのか

山口健太ITジャーナリスト
ドコモ主催のeスポーツリーグが1年目を終えた(PMJL公式サイトより)

NTTドコモが2021年1月に立ち上げたeスポーツリーグ「X-MOMENT」は、携帯キャリアが主催する国内でも最大級のプロリーグとして注目を浴びました。その1年目はどうだったのか、タイトルの1つである「PUBG MOBILE」について振り返ってみます。

PUBG MOBILEのリーグでは、賞金総額の3億円に加え、選手がプロとして生活していくために年間350万円の給与が保証される点も話題になりました。1部リーグの優勝チームは世界大会に出場できる一方、2部リーグや自由参加のオープントーナメントにより、実力があれば「プロゲーマー」になる道も用意されています。

ドコモとしては国内のeスポーツ市場を確立させるという狙いもあったようです。また、モバイルとゲーミングは相性が良く、その中でもeスポーツタイトルは高い処理能力、画面描画やタッチ入力の応答性、低遅延の回線など要求水準は高いことから、ハイエンド端末が活躍します。1年目はサムスン電子の協賛により、「Galaxy Note20 Ultra 5G」が公式の競技端末でした。

PUBG MOBILEは最大100人のプレイヤーが生き残りをかけて戦うバトルロイヤルゲームです。単なる撃ち合いだけでなく、「安全地帯」の収縮や拾える物資などのランダム要素があり、立ち回り次第では実力差があっても逆転できるのが見どころの1つです。

前半戦ではリーグ開始前から世界大会などで活躍していた「REJECT」がリード。2位とのポイント差は大きく、ドコモ関係者は「チームとして大きな投資をしており、順当な結果だ」と高く評価していました。一方、後半戦はチームの実力差が縮まり、どのチームが勝つか分からない混戦状態に。しかし前半戦のリードを守り切ってREJECTが優勝しました。

続く2022年は、1部リーグの下位2チームと2部リーグの上位2チームが入れ替わります。2部リーグではREJECTの兄弟チームである「REJECT ACADEMY」が2位になったものの、ここで問題が発生しました。リーグの規約では「1オーナー1チーム」となっており、このままではREJECT ACADEMYは1部リーグに昇格できないというのです。

1部リーグ(左上)と2部リーグ(右下)の総合ランキング(PMJLの配信動画より)
1部リーグ(左上)と2部リーグ(右下)の総合ランキング(PMJLの配信動画より)

この規約は、PUBG MOBILEのゲーム性を考えればやむを得ない面がありそうです。同じオーナーの2チームが参加した場合、手加減なしで戦うことを宣言したとしても、協力を疑われる場面が必ず出てくると思われるからです。12月9日には、REJECT ACADEMYのチーム「譲渡先」を募集することを発表しました。

REJECT ACADEMYがチームの譲渡先を募集(REJECTのプレスリリースより)
REJECT ACADEMYがチームの譲渡先を募集(REJECTのプレスリリースより)

それではなぜ、2部リーグ(PMCL)から1部リーグ(PMJL)への昇格ができない可能性があるにも関わらず、参戦したのでしょうか。この点についてはドコモ側、チームや選手側ともに、事前に了解した上での参戦だったといいます。1部リーグでは年齢が18歳以上との制限もあったことから、2部リーグは選手育成の機会としてもとらえていたようです。

両チームのオーナーである株式会社REJECTは、次のように経緯を説明しています。

参加時に、万が一PMCL上位2チームになった場合はPMJLへの昇格にあたり、選手の一部もしくは全部を他チームに移籍させる可能性があることは、会社としても選手としても、事前に理解していたものです。

また、育成機関としてのアカデミーという側面もあり、実際に8月にはアカデミーからReiji選手をPMJLメンバーとして昇格させています。アカデミーメンバーにも当社の設備を利用させたり、メンタルトレーニングを実施したり、PMJL選手との交流を持たせることで、選手同士の学びを促進し、強いチームの育成には効果があったものとの理解です。

国内最大級のプロリーグに参戦することは、若い選手にとって将来につながる実績になることは間違いないといえます。問題はチームの譲渡先が見つからなかった場合で、ドコモによれば規約により2部リーグで3位だったチームが繰り上げで昇格するとのこと。ぜひとも譲渡先が見つかってほしいところです。

2022年2月16日追記:

PMJL SEASON2の出場選手リストが発表されました。元REJECT ACADEMYの4選手は、BEENOSグループによる新チーム「BEENOSTORM」として参加しています。(チーム発足のプレスリリースはこちら

モバイル版PUBGは2タイトルが共存。2022年はどうなる?

PUBG MOBILEはスマホで誰でも手軽にプレイできるタイトルということもあり、他のスマホゲームと同じくカジュアルに見られがちです。しかしドコモのプロリーグが立ち上がったことで、プロの選手が活躍できる場が用意され、ビジネスとして成立したのは大きいといえるでしょう。

2021年はコロナ禍の状況がめまぐるしく変わる1年でしたが、リモートでも試合を開催・観戦できるeスポーツの強みをいかんなく発揮していたように思います。途中で地震が起きるなどのハプニングはあったものの、緊急事態宣言の解除後はオフライン会場に舞台を移すなど、状況が変化する中でもよく運営されていた印象です。

リーグ開始当初はリモートだったが、緊急事態宣言の解除でオフライン会場に(PMJLの配信動画より)
リーグ開始当初はリモートだったが、緊急事態宣言の解除でオフライン会場に(PMJLの配信動画より)

気になるのは、11月に新たなタイトルとしてリリースされた「PUBG: NEW STATE」の存在です。PC版のPUBGに近いゲーム性がモバイルで再現されており、操作感は大きく変わっています。一方で、これまでのPUBG MOBILEも継続して運営されています。

ドコモのリーグにおける競技タイトルは、2022年も引き続きPUBG MOBILEとのこと。モバイルのPUBGは2つのタイトルが共存する形になり、今後はNEW STATEが盛り上がってくる可能性もある中で、何らかの連携をしていくのかも注目ポイントになりそうです。

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

山口健太の最近の記事