ウクライナ軍がATACMS短距離弾道ミサイルを初使用、ベルジャンシク飛行場を攻撃
10月17日、ウクライナ軍がザポリージャ州のアゾフ海沿岸の港湾都市ベルジャンシクにあるロシア軍が使用中の飛行場を攻撃しました。攻撃ヘリコプターなどが配備されている航空基地です。
ウクライナTV局5カナル(チャンネル5)、ベルジャンシク攻撃
現在ベルジャンシクは最前線から約100kmの位置にありますが、攻撃方法はアメリカ製のATACMS短距離弾道ミサイルと見られます。現場付近でATACMSと特定できる残骸の部品が多数発見されており、使用は確実です。ついに初めてウクライナの戦場でATACMSが投入されました。
残っていた使用期限切れのクラスター弾頭型ATACMSの供与
使用されたのはATACMSのM39A1(別名ATACMSブロックⅠA)で射程300km、M74対人・非装甲目標用クラスター子弾を275個(300個という資料もある)搭載した古いタイプと推定されます。最後の製造から20年以上経過(貯蔵期限は13年)しており、全て廃棄されたか単弾頭型M57E1に改修済み(延命作業込み)と思われていましたが、実は一部在庫が残っており、アメリカはこれを改修せず使用期限切れの状態のままでウクライナに引き渡しました。
※ATACMSの貯蔵期限(shelf life)は製造から10~13年。ただし期限が切れたら直ぐに廃棄するのではなく、延命改修作業を行い数字をリセットして、また新たに10~13年の貯蔵期間を得る。
なおさらに古いATACMSの最初期モデルのM39(別名ATACMSブロックⅠ)は射程165km、M74対人・非装甲目標用クラスター子弾を950個搭載です。こちらの可能性もあります。
発見されたATACMSの残骸
ATACMSのロケットモーターと尾部の操舵翼ユニット、および内蔵されているM74対人・非装甲目標用クラスター子弾の残骸が発見されています。クラスター弾頭型なので子弾を収納したカーゴ部分を切り離した親弾の部分は爆発もせずそのまま丸ごと落ちて来ます。
ロケットモーターの部品に書かれた数字から、この部品は1996年10月製(10/96)と1997年9月製(09/97)であることが分かります。少なくとも2本以上のミサイルが撃ち込まれています。見付かった残骸は今回使用分の全てではないでしょうから、おそらくもっと多い筈です。
※ATACMSブロックⅠの生産は1997年7月に停止され、ブロックⅠAの生産は1997年8月に開始(2003年終了)。このため1996年10月製はブロックⅠの可能性がある。最初期型の27年前の在庫が残っていた?
M74対人・非装甲目標用クラスター子弾は戦車など装甲車両のような硬い目標への打撃は出来ません。橋など構造物への打撃にも使えません。後方の飛行場や野積みの弾薬集積場や物資集積場などを狙う使い方になるでしょう。
今後、単弾頭型ATACMSの供与に移行した場合
ATACMSのクラスター弾頭型は残っている在庫数が少ない筈で(アメリカ軍はクラスター弾を全廃する方針で途中だった)、今後は現在のアメリカ軍の保有分の主力である単弾頭型の供与に進むのかどうかが注目されます。ATACMS単弾頭型はハープーン対艦ミサイルと同じ500ポンド(約230kg)の半徹甲爆風破砕弾頭を搭載しており、クリミア大橋への攻撃やセヴァストポリ港に停泊中の艦艇への攻撃に投入することが可能になります。
※対戦車誘導クラスター弾型のATACMSブロックⅡ(BAT誘導子弾)は本格量産に入る前の2002年に計画中止、アメリカ陸軍と海兵隊のATACMS現役保有分は単弾頭型のみ。ただし対人・非装甲目標用クラスター型のATACMSブロックⅠとブロックⅠAの一部が戦時緊急使用のみで使える予備用で残っていた。
ATACMS短距離弾道ミサイル(マッハ3)はストームシャドウ巡航ミサイル(マッハ0.8)と比べて速度差が4倍近くあり、高速力によって迎撃突破率が高く即応性も高いのが特徴です。本質的に弾道ミサイルとは巡航ミサイルよりも格上の兵器です、ただしその分だけ高価で数が用意できないので、敵の高価値目標に厳選して投入が行われることになります。
追記:ウクライナ軍参謀本部がATACMS発射動画を公開
※アメリカとウクライナが戦場でのATACMS使用を公式に認める。