井上尚弥と最も拳を交えたボクサー黒田雅之「ガードの上からでもパンチが効きました」
ボクシングバンタム級4団体統一戦で、3団体統一王者の井上尚弥(29=大橋)が、WBO同級王者のポール・バトラー(34=イギリス)と対戦する。
井上がプロになる前から、度々スパーリングパートナーを務めていた元日本ライトフライ、フライ級王者の黒田雅之氏に、井上とのスパーやどのような試合展開が予想されるか話を聞いた。
井上尚弥との出会い
黒田雅之は現役時代、第34代日本ライトフライ級、第56代日本フライ級王座を獲得し、2度の世界挑戦を経験しているボクサーだ。
井上尚弥がプロデビューした時には、プロテストの相手も務めている。初めて井上とスパーリングをしたのは2012年、当時は井上はプロデビュー前だった。
「スパーリングをして驚きました。ボクシングIQが非常に高くて、特にメンタルが優れていました。スパーリングをやる度に別人のように変わっていきました。やっていくうちに自分は手札がなくなっていきました」
今年6月に黒田が引退するまで、延べ150R以上ものスパーリングをこなした。アマからプロ、世界王者となるまで拳を交わし続け、会うたびにその成長速度に驚かされたという。
井上の実力
井上は軽量級ながら一撃で相手をノックアウトするパンチ力を持っている。
実際にパンチを受け続けてきた黒田は「左利きではないかと疑うくらい左が強かったです。パンチもスピードも破格で、グローブごしに受けている感覚ではなかったです。まるで野球の硬球のようでした」と語った。
そのパンチ力の秘密は打ち方にあるようで「彼は対象物に対して一番力が入るあたり方で直角で当ててきます。そのため力の伝え方がうまくて体重も乗っています。ガードの上からでもパンチが効きました。本人はおそらく力感がなく力を入れて打っていないですが、パワーが伝わる打ち方になっています」と話していた。
打っている方の力感とパンチを受けている方の印象は変わってくる。力感があるパンチは、自分では強く打っているつもりでも相手からしたら読みやすい。逆に力感がないということは体全体で打てている証拠で、自分が思った以上に相手に効くパンチとなる。
そして、パンチ力以上に黒田が評価していたのはスピードとタイミングだ。
「意識の外からパンチが飛んできて、ワンテンポ早かったり遅かったり間をずらしてきます」
2018年10月のWBSS1回戦で、井上は元世界王者のファン・カルロス・パヤノと対戦した。通常サウスポーが相手だとガードが邪魔をして、ワンツーは当たらない。しかし、井上は序盤から1分ほどでガードの隙間から放ったワンツーの一撃で相手をノックアウトした。
予測できないタイミングで打ち込まれると、トップクラスのボクサーでさえパンチを防ぐことはできない。ましてや井上ほどのパンチ力を持った相手のパンチであれば尚更だ。
井上は同じ階級では、スパーリングの相手が見つからず、2階級上のボクサーでさえ相手にならないようだ。
バトラー戦について
井上はプロ4戦目で、元世界王者で当時日本王者だった田口良一と対戦している。
田口は井上と対戦する2012年に、当時日本王者だった黒田と対戦しており、引き分けている。その後黒田は階級を上げ初の世界挑戦にたどり着いた。
黒田が防衛を続けていれば、井上と対戦する可能性は十分にあった。
もし当時対戦が決まっていたらどうしていたか聞いてみると「スパーリングをやっていたからこそ、試合はしたくなかったですね。何度もシュミレーションして、作戦を考えましたが、勝つイメージが湧かなかったです」と話していた。
黒田にバトラー戦について聞くと「ボクシングは相手あってのことですので、100パーセントはないですが、99パーセントの確率で井上が勝利するでしょう。予想は中盤でのKOですが、序盤での決着も十分にあり得ます」と語った。
今後の井上については「体も成長してフェザー級くらいまではいくと思います。納得がいくところまでやってほしい」と話していた。
井上の実力は今や全世界のボクサーの中でトップクラスだ。今回のバンタム級の4団体統一戦に勝利すれば、さらに評価は上がり注目を集める存在となるだろう。
試合は12月13日有明アリーナで開催され、dTVで独占生配信される。日本ボクシング史上初となる4団体統一に期待したい。