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名誉NHK杯選手権者・羽生善治九段、強敵・永瀬拓矢九段を下して今期ベスト8進出!

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 1月14日。第73回NHK杯将棋トーナメント3回戦▲羽生善治九段-△永瀬拓矢九段戦が放映されました。棋譜は公式ページでも公開されています。

 結果は151手で羽生九段の勝ち。ベスト8進出を決めました。準々決勝では中村太地八段と対戦します。

強豪同士の激突

 羽生九段はNHK杯で過去に11回優勝。将棋界ではただ一人「名誉NHK杯選手権者」の資格を得ています。

 各棋戦で常に上位に進出している永瀬九段。NHK杯ではまだ優勝の経験がありません。

 今期、羽生九段は1回戦で渡辺和史六段に勝利。2回戦では豊島将之九段と対戦し、千日手指し直しの末に勝って、3回戦に進みました。

 永瀬九段は1回戦シード。2回戦は三浦弘行九段と対戦し、後手番で横歩取りに誘導。激しい戦いを制して勝っています。

 羽生九段と永瀬九段は本局までに公式戦で22回対戦し、羽生7勝、永瀬15勝。ほとんどの棋士に勝ち越している羽生九段ですが、永瀬九段には大きく負け越しています。ただし直近の王将戦リーグでは、羽生九段が勝っています。

現代最新の横歩取りに

 本局は羽生九段先手。後手の永瀬九段は横歩取りに誘導しました。

 羽生九段は「青野流」と呼ばれる、飛車を引かずに指し進める手法を採用します。

 永瀬九段は横歩を取り返したあと、22手目、飛車をぶつけずに五段目に引きます。ここから2回戦の▲三浦-△永瀬戦とは違う進行となりました。手の速さから、研究十分で自信を持って指し進めていることがうかがえます。

 羽生九段は飛角交換から2枚の角で攻めていきます。対して永瀬九段はすぐに中段に飛を打ちました。

羽生「飛車2枚と角2枚で、どちらが得してるかというところで」

 双方ともに指し手が難しい中、見応えのある中盤戦が続いていきます。

 60手目、永瀬九段は飛車を5筋から7筋に移動させます。対して羽生九段は8筋三段目に金を上がって受けました。この位置の金は近年、コンピュータ将棋(AI)の影響により好形と認識されることが多くなりました。

羽生「(勝負どころは)いや、たくさんありすぎてちょっとよくわからないですけど。中盤のところがたぶんいろいろ、分岐がたくさんあったような気がします」

 64手目。永瀬九段は飛車を7筋から5筋に戻しました。このあたりで少しずつ、羽生九段がリードしていったようです。

永瀬「中盤いろいろ、分岐が多いかなと思ったんですが。その中でわるい分岐を選んでしまって。中盤でかなり差がついてしまったような気がします。△7四飛車から△5四飛車では有効手を指せていないので。そこはわるくしてしまったかなと思いました」

 74手目。永瀬九段は桂を跳ねて勝負に出ました。対して羽生九段は角を成り込み、以後は優位を広げていきました。

羽生九段、永瀬九段の粘りを振り切る

 そう簡単には土俵を割らないのが永瀬流。苦しいながらも手段を尽くし、逆転の機会をうかがいます。

 123手目。羽生九段は中段の桂を歩頭に跳ねて王手をかけました。この桂を取れば王手飛車取り。きれいに技がかかってそれまでかとも思われましたが、自玉とは逆サイドに金を打ちつけ、粘り続けます。

羽生「途中ははっきりよくなったような気がしたんですけど、そこからの指し手がだいぶおかしい手を続けてしまったんで。最後はそうですね、負けでもおかしくないかなと思っていました」

 127手目。羽生九段は成桂で金を取るとき、手が震えていました。飛車を取らせる代償に、永瀬玉を受けなしに追い込んでいきました。

 永瀬九段は最後、羽生玉に迫っていきます。しかし詰みはありません。銀打ちの王手に対して151手目、羽生九段が玉を逃げたところで永瀬九段は投了。両者ともに一礼して、対局が終わりました。

 羽生九段は強敵をくだしてベスト8に進出。2018年度以来、5年ぶり12回目の優勝に向けて、またひとつ前進しました。

 羽生九段と永瀬九段の対戦成績は羽生8勝、永瀬15勝となりました。

 次回1月21日放映のNHK杯は3回戦、藤井聡太NHK杯選手権者(八冠)-久保利明九段戦です。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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