国内で批判されてる舛添「都市外交」が海外で受けるワケ
舛添人気の秘密
「東京を世界一の都市にしよう」をスローガンに掲げる東京都の舛添要一知事(65)が31日、ロンドンにやってきた。シンクタンク・英王立国際問題研究所(チャタムハウス)での講演や記者会見で「都市外交」について尋ねてみた。
国際政治学者でもある舛添氏は「都市外交」が持論で、都知事に就任してから北京やソウルを公式訪問。インターネット上で「すっかり『裏外相』気取り」(日刊ゲンダイ)や「外交への色気など、やっぱり最後の狙いは国政復帰と首相?」(週刊文春WEB)と物議をかもしている。
日韓関係が最悪の状態に陥り、「生卵をぶつけられることも覚悟した」(都幹部)ソウル訪問で舛添氏はスマートホンのカメラを手にした学生に追っかけられるほど人気を集め、朴槿恵大統領との会談も実現した。
筆者が主宰する「つぶやいたろうジャーナリズム塾」4期生の笹山大志くんはソウル大学での舛添氏の講演を取材し、「明るくて、面白い政治家が韓国の必要性を訴えている。日本にも良い政治家がいるんだ」という韓国の若者たちに漂う空気をリポートしてくれた。
予想外の舛添フィーバーに対して、国内右派からは「屈服外交」といういわれなき批判が浴びせられた。
都知事選では過去の女性蔑視発言が取り上げられた舛添氏はかつてタレント学者として活躍、舌鋒は鋭いもののエキセントリックな印象が強く残っている。海外で成功を収める舛添氏の「都市外交」の秘密を探ってみた。
英語力とプレゼン力
舛添氏がチャタムハウスでの約1時間に及ぶ講演と質疑応答で日本語を使ったのは最後の「ありがとうございます」という1回だけだった。日中関係の微妙な質問にも逃げずに堂々と自分の考え方を述べた。英語もプレゼンテーションもかなりうまい。政治家でここまでできる人がロンドンに来たのは、この7年余で初めてだ。
ロンドンのボリス・ジョンソン市長と五輪公園で会談した舛添氏は「彼と私には髪型を除いて共通項がある」とチャタムハウスの聴衆を笑わせた。ジョンソン市長はブロンドのボサボサ髪がトレードマーク。舛添氏は髪の毛が薄い。
この手のユーモアは英国では絶対に受ける。
森記念財団の「グローバル・パワー・シティー・インデックス2014」でロンドンは世界一の都市に選ばれ、東京は4位。しかし、東京の総生産(GDP)は1兆1687億ドル(2011年度)にのぼり、メキシコや韓国を上回っている。都市人口は3780万人で世界一だ。
舛添氏は東京を世界一の都市にする3つの優先課題として(1)2020年の東京五輪・パラリンピックを史上最高の大会にする(2)世界中からヒト・カネ・情報を集めて経済を活性化する(3)生活しやすい都市のロール・モデルになる――ことを挙げた。
ロンドンで人気のレンタル自転車「ボリス・バイク」を話題に盛り込んだり、「ボリス。東京はロンドンを超える」と意気込んでみたり、サービス精神も満点だった。
「普通の人が10時間なら私は20時間働いている」
筆者は講演の質疑応答や記者会見で舛添氏を直撃した。
――ソウル訪問は大歓迎を受けました。都市外交の可能性とカギについて教えて下さい
舛添氏「東京は北京やソウルを含め11の都市や州などと友好を結んでいます。しかし、不思議なことに北京やソウルには18年間も都知事が訪問していません。パリには24年、モスクワには20年も行っていません」
「2国間で政治的な課題を抱えていることもありますが、都市外交で何かできるはず。国同士の外交を支援できます。もう一つの選択肢になれます」
――都市外交は非常に面白い考え方だと思います。東京を世界一の都市にする原動力になる可能性があります。その反面、過去の政治を見ると外交に力を入れ過ぎると足元をすくわれることもありますが、どのようにバランスをとられますか
舛添氏「今日皆さんが一生懸命に発信されても日本の新聞の都内版にしか出ない。ところが私が韓国の朴大統領に会うと全国版に出る。私が欧州にいることを東京以外の人はほとんど知らないというのが今の状況なんです」
「ソチの冬季五輪、韓国・仁川のアジア大会、ロシア・トムスクのアジア大都市ネットワーク21(アジネット)、東京と友好都市提携20周年を迎えたベルリン訪問は私でなくても都知事であれば全部行かないといけない」
「北京とソウルが18年、モスクワが20年、パリが24年間行っていないという非常識というか尋常じゃない状況は誰かが終わらせないといけない。だから北京とソウルに行ったわけです」
「社会保障を含めて、ものすごい勢いで都民の生活を守るためにやっていますから、今のような(足元をすくわれる)心配は無用だと思います。10時間しか普通の人が働かないところを私は20時間働いているんだから十分、外交をやる時間はあります」
「マイナス遺産」の教訓
日本がますます内向き、後ろ向きになる中で、舛添氏の外向き、前向き、積極的な姿勢に、舛添氏の「都市外交」が海外で受ける理由が少しだけわかったような気がした。
舛添氏が記者会見でくどいほど強調した東京五輪・パラリンピックで「マイナス遺産」をつくらないという考え方は本当に大切だ。債務危機に陥ったギリシャにはアテネ五輪の「マイナス遺産」があふれている。日本も新しい競技会場をどんどんつくればギリシャの二の舞を演じるのは必至だ。
ロンドン五輪・パラリンピックでは計画段階からレガシー(遺産)づくりが入念に計画され、競技会場の再利用、運動機会の普及、選手村の開発と分譲、都市再開発のグラウンドデザインが描かれた。そうしたアイデアを東京がロンドンの経験から学んだのは大きい。
舛添氏は著書『東京を変える、日本が変わる』の中で、都市外交を通じて「教え、教えられる」関係の構築を提唱している。五輪・パラリンピック開催の経験だけでなく、医療や介護、交通インフラ、環境対策について都市同士が互いに協力する。
都市外交はユニークな試みだ。この芽を踏み潰すのはもったいない。「東京都にはいろいろな可能性がある」(都幹部)。ソウル五輪、北京五輪の経験と知恵を吸収しながら緊密なネットワークを構築できれば、膠着した日韓関係、日中関係改善の一助となる可能性は十分にある。
(おわり)