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新潟女児殺害事件の犯罪心理学:子供達を守るために

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
写真はイメージ(花が咲くおだやかな越後線:筆者撮影)

■新潟女児殺害事件

新潟市内の住宅街(新潟市西区小針付近)で、小学校2年生の女の子が殺害されました(2018年5月7日)。学校からの帰り道、自宅のすぐそばで連れ去られたようです。その日の夜、ご遺体が何者かによって自宅そばのJR越後線の線路上に置かれ、電車がご遺体を轢いてしまいました。

今、多くの警察やマスメディア関係者が現場付近に集まっています。地元は騒然となり、学校にも地域にも不安が広がっています。

■子供連れ去り事件

どんなに賢い子も、どんなに用心深い子も、犯罪者に狙われてしまえば、連れ去られてしまいます。

いきなり力づくという場合もあります。知人による犯罪もあります。そうでない場合も、子供に危害を加える犯人は、しばしば子供の扱いが上手い人達です。今までのケースでは、子供に人気のあった優しいおじさんや、子供のために活動していたような人さえいます。

彼らは子供を巧みにだまします。あるいは、あっという間に子供と「友達」になってしまう場合もあります。普通の子供達は、笑顔のおじさんおばさんとは笑顔で元気にあいさつするでしょう。やさしく声をかけられたら、会話もすることでしょう。それは、悪いことではありません。

「不審な人」「怪しい人」「知らない人」にはついていくなと教育されていても、子供にとっては不審でも怪しくもなく知らない人でもないこともあるのです。多くの場合、犯人は見るからに怪しい「不審者」などではないのです。

子供の扱いに慣れている人は、1分もかからずに子供と「友達」にもなれるのです。

今回の被害者が通っていた小学校では、低学年の子供に防犯ブザーを持たせてたと報道されています。しかし、子供が危険を感じる前に連れ去られることもあります。危険を感じても、突然のことで悲鳴さえ上げられないこともあります。防犯ブザーを適切に使うことも、実際はなかなか難しいことです。

報道によれば、この小学校では住民ボランティアによる通学路の見守りを強化する働きもありましたが、それでも事件は起きてしまいました。友達と一緒に帰っても、集団下校しても、多くの場合最後は一人になります。子供は危険にさらされています。

けれども、だからといって、他人を信用するなと教育し人間不信にさせることは、子供を孤立させ、かえって様々な危険が生じることにもなりかねません。

また、過剰反応して子供の日常生活が壊されてもいけないでしょう。

■犯人像は

平日昼間に自由に動ける人、おそらく自動車を自由に使える人、さらに夜10時過ぎに自由に外出できる人でしょう。異常で凶悪な犯罪を犯した人だからといって、見た目や普段の様子も、異常で乱暴な怖い人とは限りません。

ある程度の能力の高さや様々な意味での力がなければ、このような犯罪は起こせません。

今までのケースでは、子供を殺した人でも評判の良い人は大勢いました。連続女性殺害事件の犯人が、みんなに愛される好青年であったこともあります。

一方、やはりこれは異常な犯罪です。殺人の動機として、怒り恨み金目当てなどは、言うまでもなく悪いことですが、気持ちが分かる部分もあるでしょう。しかし、子供に対する異常な欲望や子供に対する殺意は、やはり共感できるものではありません。

犯人は、おそらく以前から子供に対する異常な欲望を持ち、その歪んだ欲望が大きくなり、何かのきっかけ(好みの女児を見つけた、家庭や仕事上のことで挫折したなど)により、犯行に至ったのではないかと思います。

■なぜ自宅そばの線路上に

行きずりの犯行で、草むらや廃屋などでの犯行であれば、犯人は遺体はそのままにしてすぐに現場から立ち去ることが多いです。一方、殺害現場が自宅や自家用車の中であれば、何とか遺体を処理しなければなりません。

遺体を運ぶ力があれば、普通はできるだけ遺体の発見を遅らせる様な場所に遺体を遺棄します。そうすれば殺人事件の発覚が遅れ、捜査が遅れます。遺体が白骨化すれば、犯人逮捕につながる証拠も薄れます。

しかし、今回の犯人はそのような通常の行動をとっていません。とてもあわてていて、パニックになっていたとも考えられますが、そうであれば、線路脇の草むらに遺体を遺棄して逃げても良いでしょう。

そう考えると、異体を線路上に置いたのも、異常な動機を考えざるをえません。犯人は、遺体を「加工」したかったのかもしれません。人体が電車に轢かれたらどうなるかに、興味関心があったのかもしれません。

犯人は、ご遺族や地域に衝撃を与えるために、遺体を線路上に置いたのかもしれません。

あるいは、さらに常識とは離れますが、犯人は遺体を自宅や地域に返そうとしたのかもしません。

(このような推測をすること自体が、ご遺族や地元のみなさんの苦痛になるかと考えると心が痛いのですが)

■今、必要なこと:子供達を守ろう

一日も早い犯人逮捕を願っています。同時に、ご遺族の支援と、今いる子供達を守ることを考えなくてはなりません。子供も、家庭も、学校も、地域社会も、不安定になっています。

すでに被害者の小学校では全校集会が開かれましたが、まず校長が、冷静に全体へ向けた説明をする必要があります。その上で、担任が各クラスで話し、子供達への個別対応をしていくことが求められています。

被害者と親しかった子達は衝撃を受けているでしょう。また、顔も名前も知らなかった子達の中にも、ショックを受けている子がいます。さらに別の学校にも、不安を感じている子がいます。越後線を利用しているだけの子達の中にも、強い不安を感じている子がいると聞きます。

その小学校にはスクールカウンセラーが派遣され、常駐すると報道されていますが、外から突然やってきた人間が、いきなり心の深い部分を支援することは困難があります。以前からいる先生方が、落ち着いて対応できるような支援を側面からしていくことこそが必要です。

医療的な対応が必要な子には専門医が必要ですが、専門家以前に、子供の周囲にいる大人達の態度が大切です。子供を守るために、子供を支えるべき家族や学校教職員を支援するのが、私達やマスメディアの役割だと思います。

新潟市内では、あちこちで子供を送り迎えしたり、子供を見守るために街角に立つ大人達がみられます。防犯は大切です。正しい「犯罪不安」を持ち、適切に怖がることは必要です。

しかし、不安に押しつぶされ、あいまいな情報に振り回され、疑心暗鬼の中で相互不信を強めてはいけません。それでは、犯罪に負けたことになってしまいます。街角に立つ大人達は、ぜひ笑顔で子供達に接しましょう。世の中には悪い人もいるけれど良い人もいる。みんなの力で、子供と学校と地域を守っていく姿勢を、子供達に見せたいと思います。

追記(2018.0510.16:10)

たった今、地元ローカルのテレビスタッフとともに現場を歩いてきました。警察官と大勢のマスコミ人。町は重苦しい空気に包まれています。私の心も悲しみに押しつぶされそうになりました。でも、そこに学校から帰ってくる子供達がいます。幼い子供を抱いた母親が通ります。みんなで、子供を、親を、町を、守らなければなりません。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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