20歳にして取り扱い注意なヒロイン役が似合う女優に。祷キララのミステリアスな魅力
危険なヒロイン役を一手に引き受けている印象が。今回も物議を醸すヒロイン役に
主演を務めた2013年の安川有果監督作品「Dressing Up」をはじめ、一筋縄ではいかない異色のヒロインを一手に引き受けている印象すらある、祷キララ。テレビドラマ「シロでもクロでもない世界で、パンダは笑う。」の好演も光った彼女だが、最新作「ファンファーレが鳴り響く」でもまた物議を醸すであろうヒロイン役に挑んだ。
今回の光莉役は、手掛けた森田和樹監督のたっての希望。「祷さんが話しているところやその瞬間にみせる表情などを想像しながらセリフを書いた」と明かすように森田監督のあてがきで、彼からの熱烈なラブコールを受けての出演になった。
「実は、そのことを知ったのは映画が完成した後。つい最近なんです(笑)。監督曰く『私が出演してきた作品を観て、イメージしながら書いた』とのこと。
はじめに初期のプロットを読ませていただいたとき、私は生半可な気持ちでは引き受けられない役だと思いました。だから、複雑といいますか。森田監督が私にどんなイメージを抱いていて、光莉が生まれたのか、知りたいような知りたくないような…です(苦笑)」
美しい容姿からは想像できない異常性を秘めた光莉という役
物話は、吃音症の高校生の神戸明彦と、クラスメイトの七尾光莉が主人公。学校でいじめを受けている明彦に対し、光莉はやり返さないのかしばしば問い、いじめる連中を殺そうと提案してくる。
こうして出会い、ついには罪を犯してしまう二人の当てのない逃避行が描かれる。
祷の演じた光莉は女子高生。周囲から一目置かれる存在で、どこか近寄りがたい。ただ、その美しい容姿からは想像できない、ちょっとした異常性を秘めている。共感を得やすいキャラクターとはとても言い難い女性だ。
ただ、祷自身はそれほど遠い存在とは思えなかったという。
「はじめは確かに光莉の行動や行為は常軌を逸していると思いました。でも、脚本をきちんと読みこんでいくと、そうなってしまう理由がある。こういう経緯をたどってしまったら、と思うと、他人事とは思えなかったというか。
私もいくつかの偶然の出来事や出会いが重なったら、足を踏み外していたかもしれない。ある種のダークサイドに陥ってしまっても、不思議ではない。光莉の存在や、ここで描かれる物語を『異常』とか『過激』で片付けたくないなと。確かに光莉は多くの人から共感を得られる人物ではない。でも、一歩間違ったら自分もそうなっていたかもしれない。なので、遠い存在に思えませんでした」
単なるモンスターではなく、きちんとひとりの人間として演じたい
だからこそ、単に異常で片付けられないよう、入念な役作りをしていった。
「どの作品でも変わらないんですけど、いろいろなことを考えて光莉を紐解いていきました。もちろん、自分ひとりではできません。監督やほかの出演者の方とのやりとりで得たこともすごく多かったです。
たとえば、通しで本読みをしたんです。何となく空気をつかむためにやってみようと。笠松(将)くんが明彦のセリフを読み、私が光莉のセリフを読んでいったんですけど、やっていくと、はっきりとその光景が浮かんだりする瞬間がある。そういうことが光莉を演じるにあたってすごく助けになりました。
ただ、こういう設定だから、こういうしゃべり方で、こういう振る舞い方にしようとか、入念に準備してひとつのキャラクターを作り上げていくようなアプローチじゃないほうが光莉に関してはいいんじゃないかと思ったんです。
光莉というキャラクターを構成する上で一番過激に映る、一般的なモラルから外れる部分、ここに引きずられると一気に人物像が嘘になってしまう気がしたんです。血の通った人間に見えなくなってしまう。
光莉を単なるモンスターではなく、きちんとひとりの人間として演じたい。その中で、私が大切にしたのは、光莉の立場になれるかということ。光莉の立場に立つことを自分が納得できるかどうか。ほんとうに心から彼女の気持ちに寄り添えるか。そこが肝だと思いました。
そうした見地に立って、ひとつひとつの行動や言動を読み解いていくと、彼女の心の軌跡が伝わってきた。父の死が彼女の心に暗い影を落としていますけど、これもそばに誰かいてくれたら乗り越えられたかもしれない。でも、彼女にはいなかった。そこにいくつかの問題も重なって、大人への怒りや憎悪が増幅していってしまう。
この彼女の気持ちの部分を丹念に汲み取ろうと思いました。自分が『サイコパス』とか『理解不能』と放り出して、歩み寄らなかったら、光莉はそう映ってしまう。単にモンスターというひと言で片付けたらいけない人間だと思いましたから、光莉の気持ちを大切に演じることを心がけました」
罪を犯すシーンより、登下校など普段の高校生の姿を大切にした
その心がけがあってのことだろう。光莉の猟奇的な部分のみならず、ごくありふれた人間の延長線上にある日常を大切に演じているように映る。
「そうですね。もちろん、罪を犯すシーンというのは心して挑まないといけない。でも、たとえば登下校のときや教室でのふるまい、ほかの子となんらかわらない姿をきちんと見せたいという意識はありました。
だから、完成した作品を観たとき、私の中で1番印象的だったのは、人を殺めるといった、ショッキングな出来事が起きるシーンより、中盤の光莉が初めて明彦に自分のプライベートなことを打ち明けるシーンで。
強気で明彦を引っ張っているようにみえた光莉が、ここでは明彦に同意を求めている。光莉が普通の女の子に戻る瞬間が映っているような気がして、自分でもうまく表現できたのではないかと。
等身大の高校生らしい瞬間や迷いがちょっと見え隠れする瞬間がある。そこに気づいていただけたらと思います」
学校において、光莉はクラスでいうと上位にランクする。一方、明彦は最下位にみなされている。いわば対極にいた二人が結びつく。
「後半に『私たちって、やっぱ似てるんだよ』というセリフがあるんですけど、この二人はどこか共通するところがある。
光莉はクラスで一目置かれる存在で、それはそれでたぶんきっと周囲からは浮いていた。周囲に溶け込んでいるとはいえない。明彦は、浮きたくて浮いているわけではないですけど、結果的にクラスから除外されている。いずれもクラスには居場所がない。
おそらく光莉って、自分と気が合う人間が見つかったことがなかったと思うんです。明彦に対しても、そんなに気が合うとは思っていない。でも、今置かれた境遇は似ている。そこを察知したからつながったのかなという気がします」
光莉と明彦の計画性のない無軌道な逃走劇は、幸せな結末とはいかない。だが、ひとすじの光を映画は映し出す。
「ほんとうに二人は許されないことをしてしまう。その罪は一生消えるものではない。それは肯定できることではないけど、最後に垣間見える明彦の心境は信じてあげたい。それは光莉の心境でもあるとわたしは思っています。
私自身は、ひとりの人間が人間性を取り戻した瞬間をみた気がしました」
どういう反応があるのか正直、怖いです
この作品をどう受け止めるか?正直、賛否の意見が出てくることは否めない。
「観てくださった方がどういう感想を抱くのか、正直、怖いです。
私自身は出演者として深く関わっているから、冷静に判断できないところがある。確かに許されないことを光莉はしていますけど、演じた立場としては理解できるところがある。でも、フラットに観た人が、光莉を受け入れてくれるかはわからない。
この映画をまっさらな状態で観てくださった方が、どう感じるのか。予想できない。
作品のキャッチコピーとして『青春スプラッタームービー』となっていて、そのイメージは間違いではない。でも、私は良い意味で、そのコピーを裏切っていると思うんです。
確かにスプラッター・シーンはある。でも、いわゆるスプラッター・ムービーのシーンとは違うというか。楽しめるシーンとして撮ってるわけではない。人物の感情や心情、気持ちのぶつかり合いがのっかっている。そこにはいまの親子関係や学校の問題、社会情勢が反映されている。そういうことがあることを読み取っていただけると、うれしいなと思っています」
作品を経るごとに『祷キララ』というイメージが作られていっているようで、自分としては不思議な気分
それにしても、彼女には一見するとなにを考えているかわかなかったり、孤高の存在であったりと、ミステリアスを携えたエキセントリックな役が続く。この現状を本人はどう受け止めているのだろうか?
「自分自身の性格とはかけ離れているんですけどね(笑)。でも、今回の森田監督もそうですけど、いろんな作品を経るごとに『祷キララ』というイメージが作られていっているようで、自分としては不思議な気分です。
でも、そのある種のパブリック・イメージが観てくださった方の心に強く残って覚えていただいたり、次の作品へとつながったりしていると思うのでありがたいです。
闇を抱えているような役や、家庭が幸せといえない女の子の役が多いけど、私の中ではどの子もぜんぜん違うんです。抱えてるものも性格も。
ですから、傍から見ると同じような役に映るかもしれないですけど、私はどの役も同じタイプにくくれると思ったことはない。だから、毎回、新鮮な気持ちで臨めています。
今回の光莉も、私の出演したほかの作品を観てくださった方は、ほかの役に重ねるかもしれない。でも、私としては演じながら、新しい自分を見つけたというか。自分の心の奥底に『こんな感情があるんだ』という部分に触れた瞬間もあったし、人間の新たな面を知る瞬間もありました。それぐらい深い部分までいけたのではないかと思っています。
ですから、私の中では今までやってきたどの役とも似ていない。そこが伝わってくれたらうれしいなと思っています」
「ファンファーレが鳴り響く」
新宿K’s cinemaほか全国順次公開中
監督・脚本:森田和樹
出演:笠松将、祷キララ、黒沢あすか、川瀬陽太、日高七海、上西雄大、大西信満、木下ほうかほか
ポスタービジュアル及び場面写真はすべて(c)「ファンファーレが鳴り響く」製作委員会