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『新潮45』杉田論文は「相模原事件の植松と同じ」という批判に植松被告はこう言った

篠田博之月刊『創』編集長
津久井やまゆり園に献花に訪れた人たち(写真:ロイター/アフロ)

 相模原障害者殺傷事件の植松聖被告の精神鑑定はようやく終了し、9月6日に彼は立川拘置所から横浜拘置支所に移送された。当初は7月末には終わると本人に説明されていたにもかかわらず、鑑定が延びたのは、診断が難しかったためであるらしい。鑑定結果が提出されれば、裁判へ向けた動きが始まるのだろう。

 植松被告が横浜へ移送されてから9月21日に接見した。ちょうど杉田水脈論文に端を発した『新潮45』騒動が起きていた時期で、しかも杉田論文の「LGBTには生産性がない」という主張に対して、多くの人が「それでは相模原事件の植松と同じだ」と批判をしていた。

そこで植松被告に、それについて感想を訊いた。

――今、LGBTをめぐって騒動が起きているけど知っている?

植松 はい。

――「LGBTには生産性がない」という主張について多くの人が「それでは植松被告と同じだ」と言ってるけど…

植松 それ、迷惑なんですよ。

 たぶん「植松と同じだ」という言い方を何度も耳にしていたのだろう。即座に憤然として「迷惑なんですよ」と言ったのにはいささか驚いた。杉田論文があまりにひどいというたとえとして「植松と同じ」という表現がなされていたのだが、当の植松被告の方は「一緒にするな」ということらしい。植松被告にまでそんなふうに言われたのを聞いたら杉田議員もいささかショックを受けるかもしれない。

 ちなみに植松被告は、障害者への強制不妊手術についても「反対です」と言っている。ただ、こちらは即答でなく、資料を読み込んでから考えた末の意見表明だった。もともと彼はナチスのユダヤ人虐殺にも反対だと言っているし、彼なりの線引がなされていて、「それでは植松と同じだ」というふうに自分が負の記号として使われるのを心外だと思っているらしい。

 

 さて、その日はもうひとつ、植松被告に、彼が2016年2月に衆院議長に届けた封筒に同封されていたイルミナティカードについていろいろ聞いた。事件当初報道されたが、その後、取りざたされなくなったが、彼は、犯行予告とも見える手紙のほかに、イラストとイルミナティカードを同封していたのだった。もちろん警察もそれについては、気にして、取り調べで植松被告に何度も確認したらしい。

 イルミナティカードについては私も詳しくないし、ネットで知識を得た程度だが、説明によると、アメリカで作られたトレーディングカードゲームのためのもので、そこに描かれたイラストが、後のアメリカの9・11同時多発テロや日本の福島原発事故などを予言していたのでは、と一部で話題になったらしい。

 ただ彼が届けたイルミナティカードは、ネットからプリントアウトしたものだったようだ。彼がこう言った。

 「ひとつはカリスマチックリーダー(トランプ大統領)、あとはジャパン(遺影)、津波(3・11)など3~4枚同封したと思います」

 そのほかに同封したイラストとは…

「イラストは蛇と観音でした。蛇は厄除けといった意味もあるので描きました」

 イルミナティカードを、何を伝えるために同封したのか訊いた。

「日本はこのままでよいのか、という意味で同封したのです」

 植松被告は、主観的には社会改造といったことを考えて事件を起こしているから、その意味ではイルミナティカードの同封は理にかなっている。ただ、どうしてカードに興味を持ったのかという質問への答えはこうだった。

 「それは前の年の夏にテレビの『やりすぎコージー』で取り上げていたからです。フリーメーソンのこともやっていました」

 テレビで見て思いついたという説明だったので、警察でもあまり問題にはされなかったらしい。ただ、植松被告はフリーメーソンや陰謀論に多少関心はあるようだ。今年7月26日、相模原事件2年のその日に、元オウムの死刑執行があったことを、突然意味ありげに語り始めた時には「え?」と思わず訊き返した。

 「植松被告に会ってみたい」という研究者や障害者問題関係者に接見を依頼されることも最近増えてきたが、8月下旬にはそういう人を案内して立川拘置所に何度か接見に行った。その時、植松被告が、それまで見たことのなかったほど感情的になったのを見て驚いたこともあった。それについては『創』11月号(10月9日発売)に詳しく書いたのでご覧いただきたい。

 相模原事件に関わるようになって、いろいろな人と出会い、いろいろなことを考えさせられた。植松被告自身がどこまで考えていたかは別にして、この事件は、我々が考えるべきなのにそうしないで棚上げしてきた多くの問題をまさに「パンドラの箱」を開けるようにさらけ出した。植松被告は、意思疎通ができるかどうかで人間を選別したのだが、この「意思」というのをどう考えるのかというのも、つきつめると難しい問題だ。7月に刊行した『開けられたパンドラの箱』では、最首悟さんが、そのあたりの考察を試みている。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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