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地方移住をして愛される人、嫌われる人

大宮冬洋フリーライター
筆者が好き勝手に「わが町」を褒めまくるためのフリーペーパー。1000部のみ発行

東京・大阪・名古屋の三大都市圏や各県の県庁所在地がある都市は「都会」だとしみじみ感じるようになったのは、4年前に愛知県蒲郡(がまごおり)市という8万人規模の地方都市に引っ越してからのことだ。都会と地方の最大の違いは、自然が身近にあるかどうかよりも匿名性の有無だと思う。

各地から様々な人がやって来ては去っていく都会は、そこで生まれ育った人同士でなければ他者に対する関心は薄い。よく言えば、逃げ場がいくらでもある。あるグループでの人間関係がおかしくなっても別のグループで再起を図ればよい。町は大きくてにぎやかで商業施設も多いので、一人でも快適に過ごせる。その孤独な一人に注目する人はほとんどいない。

地方都市には選択肢や逃げ場がほとんどない。駅前のささやかな飲み屋街ではお店同士や常連客同士は知り合いであることが多く、噂はすぐに広がる。ちなみに筆者は車の運転が苦手なので、運動不足解消を兼ねて平日の昼間に駅前をブラブラと散歩している。すると、車を運転中の知り合いに様々な場所で目撃され、後日に「大宮さん、先週の金曜日に市役所近くをうつむき加減に歩いていましたね。どうしたんですか?」と心配されたりする。

地方では気の合う同世代も一握りだ。筆者のような「ヨソ者」に積極的に関わってくれる人は、同じくヨソ者もしくは一部の開放的な性格の人だけである。都会のように、「別の人間関係」などはありえない。例えるならば、町全体が一つの老舗店みたいなものだ。もしくは、新卒採用が基本の老舗企業に中途入社することを想像してほしい。「愛される人」であれば居心地がいいが、「嫌われる人」だと居場所がなくなる。

ただし、縁もゆかりもない地方に永住する人は多くないと思う。高校時代までは過ごして実家もある場所だったり、配偶者の地元だったり、勤め先が近かったりする。筆者の場合は、妻の職場と実家が車で30分ほどの隣町にあるため、JRの快速電車が止まる蒲郡駅前に住むことになった。この4年間はなんとか快適に過ごしており、町から愛されているという勝手な自己認識もある。「後輩」へのアドバイスと自分への戒めを兼ねて、3つの心構えを書いておきたい。

1、精神的にも経済的にも余裕を持って移住する

余裕がない状態で新たな人間関係を構築するのは難しい。「なんとかなるだろう」ではなく、慣れない場所でも自分ができるだけ気楽にいられるための基盤を確保したい。例えば、住むところ。実際にその場所に立って「ここなら自分でも楽しく暮らせそう。駅が近いし、家賃も安い割に部屋は快適」などと具体的に想像しよう。余裕を持って暮らしていて、明るくてケチではない人の周りには、同じような人が集うものだ。既婚者の場合は、この余裕を生み出す最も重要な基盤は夫婦関係であることは言うまでもない。

2、使える人脈は何でも使う

移住先が配偶者の地元である場合は、その家族も含めて、図々しいぐらいの勢いで彼らの人脈を活用しよう。飲み会などの集まりがあると聞いたら、誘われなくても参加表明だ。気が合いそうな人がいたら連絡先を交換し、今度は自分が幹事になってしまえばいい。配偶者とその家族は「あの人はヨソ者だけど、この町に馴染めるかな?」と気にかけているはずだから、きっと喜んでくれる。なお、昔からの友人がその町に住んでいる場合も同様。「友だちの友だちは皆友だち」ぐらいの感覚でいたい。

地方都市においては口コミがすべてである。リーズナブルで美味しい店、腕のいい医者、事故の多発地域、近づかない方がいい人や場所などの情報はネットで探すことはできない。夜になれば駅前も真っ暗になってしまう町では、人とのつながりが何よりも重要なのだ。

3、移住先の良い点を積極的に見つけて公言する

外国人に日本の良いところを挙げてもらうとなんだか嬉しい気持ちになる。町だって同じだ。都会と比べてもしょうがない。「晴れの日が多い」でも「居酒屋の魚料理のレベルが異常に高い」でも何でもいい。とにかく良いところを見つけて誉めまくろう。地元の人は「そんなに大したところではないよ」と謙遜しながらも決して悪い気はしない。そして、あなたにもっと良いところを教えてくれるかもしれない。

何よりも有効なのは、誉めまくっていると自己暗示にかかること。「すごくいい場所に住んじゃったかも」という気持ちが高まり、精神的な余裕が増えて、ますますご機嫌になり、友人知人も増えていく。好循環だ。

ただし、元にいた場所(筆者ならば東京の西荻窪)に戻ったときは発言に気をつけよう。「移住して本当に良かった。人混みがなくて超快適!」などと連発していると、「ごみごみした都会暮らしで悪かったね」と思われかねない。元の場所に帰ったときは、「やっぱり西荻は最高。文化度マックス!」と褒め称えるぐらいがちょうどいい。

以上の3つを守っていれば、地方暮らしはとても快適だ。ほどよい家賃と低い人口密度、豊かな自然は、想像以上に人の気持ちを落ち着ける。(夜は寝るしかないので)体質すら改善されるだろう。筆者は久しぶりに会う知人から「顔が明るくなったね。長生きしそう」などと言われている。

フリーライター

僕は1976年生まれ。40代です。燦然と輝く「中年の星」にはなれなくても、年齢を重ねてずる賢くなっただけの「中年の屑」と化すことは避けたいな。自分も周囲も一緒にキラリと光り、人に喜んでもらえる生き方を模索するべきですよね。世間という広大な夜空を彩る「中年の星屑たち」になるためのニュースコラムを発信します。著書は『人は死ぬまで結婚できる』(講談社+α新書)など。連載「晩婚さんいらっしゃい!」により東洋経済オンラインアワード2019「ロングランヒット賞」を受賞。コラムやイベント情報が読める無料メルマガ配信ご希望の方は僕のホームページをご覧ください。(「ポスト中年の主張」から2017年3月に改題)

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