日本の天然ガス輸入量はすべてLNGで総量は世界第3位…天然ガス輸入量動向(2023年更新版)
パイプライン経由の輸入トップはEU
環境負荷の低さや埋蔵量の多さなどから昨今大きな注目を集めている天然ガス。その輸入の実情を、国際石油資本BP社が毎年発行しているエネルギー白書「Statistical Review of World Energy」の公開値を基に確認する。
天然ガスは環境負荷が小さいこと、石油と比べて埋蔵場所が広い地域に分散していること、そして技術の進歩によってこれまで「採掘困難、採算が取れない」とされていた「非在来型ガス」(例えばシェールガス…泥岩の一種である頁岩(シェール)に含まれる天然ガス)の多くが採掘可能となり、「確認埋蔵量」(現在の技術で経済的に採掘できる量)が増加していることから、大いに注目を集めている。日本でも他国同様、天然ガスの重要度は年々増加している。なおLNGとはLiquefied Natural Gas、つまり液化天然ガスの略で、天然ガスを運びやすく・貯蔵しやすくするため、凝縮して液化させたもの。
まずはパイプライン経由による、天然ガスの輸入量の上位国を確認する。直近の2022年ではEUが最大の輸入国となっている。なお天然ガスに関しては大部分の項目において2021年分からEU全体の値での公開となったため、それ以前の値は存在しない。
アメリカ合衆国は天然ガスのほとんどをカナダからパイプライン経由で輸入している。地の利を最大限に活かした輸入である。この「パイプライン経由」の天然ガス輸入だが、近辺に天然ガスの輸出国を持つ国の場合、その国からの輸入が多くなる。次のグラフはパイプライン経由の輸入第1位・第2位の国・地域における、輸入元の内情を見たもの。直上にある通りEUはノルウェー・ロシア・アルジェリアから分散する形で輸入を受けている一方で、アメリカ合衆国はほぼカナダ一国に頼っている。
政治的な対立や政情不安定化に伴う供給途絶リスクを考えた場合、よほど安全で安定した相手でない限り、輸入元は分散した方がよい(「全部の卵を一つのかごに盛るな」の考え方)。その観点で見ると、ガス供給源としてEUは地の利を活かして複数個所からバランスよく、アメリカ合衆国はカナダを全般的に信頼して供給を受けていることになる。ただしEUの場合、ロシアからの輸入比率が大きく、これがウクライナ情勢において、ドイツをはじめとするEU加盟国が外交上色々と苦慮する要因となっているのは、よく見聞きする通りである(これでも2021年時点での49.0%と比べれば大きく減ってはいるのだが)。
LNGは日本が多いが…
天然ガスを輸入する場合、ルートにもよるが、一般的にはパイプラインで輸入できるのならその方が安上がりで済む。しかし地理的問題などでそれがかなわない場合、LNGによる輸入となる。次のグラフはLNG化した天然ガスの輸入量だが、日本がトップ、そして中国が続いている。なおLNGの輸入量についてはEU内の主要輸入国別のデータが公開されているため、EU全体ではなく、主要輸入国別に勘案した上でのものとなっている。
日本に次いで多いのは中国、そして韓国、フランスの順。中国は毎年大きな伸びを示しており、2020年では日本に次いで第2位だったのが、2021年ではついに日本を抜いてトップになってしまった。ところが2022年では再び日本がトップに戻っている。中国の2021年における輸入量の突出ぶりはイレギュラー的なものだったようだ。
フランスやスペイン、イギリスなどのヨーロッパ諸国において、2022年に大きく値が跳ねているのが確認できる。これはこれまでパイプライン経由でロシアから輸入していたものの代替として、LNGを輸入した分が多数を占めているものと考えられる。
アメリカ合衆国が入っていないのが目にとまる。上記にある通り、その輸入量の多くをパイプライン経由でまかなっているのが原因。もっともそのパイプライン経由も漸減している一方で、消費量は増加を示している。自国内で生産できるガスが増加しているため、輸入量を減らせるようになりつつある次第である(多くはシェールガス)。
なお日本の天然ガス(LNG)輸入元だが、これだけ大量のガス(パイプライン経由のドイツ総量より多い)をまかなうため、多様な国からのものとなる。無論、リスク分散の観点によるところも大きい。
BP社の資料のうちガス輸出入関連のページでは、輸出した側の国が公開されている表の横軸に並んでいるが、その横軸の国に一番多く数字が配されている(=その国から輸入している)のはEU、次いで中国、そして日本。しかも日本はLNGのみでの値(今グラフではEUを加盟国すべてで合算している)。
これらはいかに日本が天然ガスの調達に苦心をしているかをうかがえるデータではある。
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