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ハンセン病回復者、かづゑさんに思いを寄せて。斉藤とも子「ずっと関心を寄せていたことでした」

水上賢治映画ライター
「かづゑ的」でナレーションを担当した斉藤とも子   筆者撮影

 いきなり本題に入るが、「ただただこの人に出会ってほしい。そのひと言に尽きる」ーー見終えた後、この人の人間性に、この人の人柄に、この人の辿ってきた人生に、この人の生き様に圧倒されてしまうのが、熊谷博子監督のドキュメンタリー映画「かづゑ的」だ。

 「三池 終わらない炭鉱の物語」をはじめ炭鉱に関わる人々を追った作品で知られる熊谷監督だが、本作で向き合ったのは、ハンセン病回復者の宮﨑かづゑさん。

 瀬戸内海の長島にある国立ハンセン病療養所・長島愛生園で暮らす彼女は、10歳で長島に来てから、約80年、この地で生きてきた。

 病気の影響で手の指や足を失っていて、視力もほとんど残っていない。

 でも、そんなハンデもなんのその、自分で買い物にも行けば料理もする。好奇心旺盛で78歳でパソコンをマスターし、84歳で初の著書「長い道」も出版した。

 また、かづゑさんは本人が作品内で語っているようにこれまで想像を絶する苦しみや差別を受けてきた。

 でも、彼女に悲壮感はない。困難をも生きる糧にするかのような反骨心で、キリっと前を向く。どこにそんな力があるのかというぐらい、その小さな体には気力がみなぎっている。

 とにかくかづゑさんに出会って、彼女の人生と生き方を知り、彼女の言葉に耳を傾けてほしい。

 ドキュメンタリー映画「かづゑ的」を前にすると、そう願わずにはいられない。

 その作品においてナビゲーターとなるナレーションを担当したのは俳優の斉藤とも子。

 2016年から取材をスタートさせた熊谷監督が撮影期間のかづゑさんの伴走者だとすれば、斉藤は映画「かづゑ的」の中での伴走者という重責を担った。

 どんな思いでかづゑさんと向き合い、その思いを言葉に込めたのか?彼女に訊く。全八回。

「かづゑ的」より
「かづゑ的」より

熊谷博子監督との出会い

 作品の話に入る前に熊谷監督との関係性を訊くと、よく知る仲で作品も多く見てきたという。監督との出会いをこう振り返る。

「はじめて熊谷監督にお目にかかったのは、日本ジャーナリスト会議の授賞式でのこと。

 2005年ですからかれこれ20年近く前になります。

 わたしは著書の『きのこ雲の下から、明日へ』が市民メディア賞をいただき、熊谷監督は『三池 終わらない炭鉱(やま)の物語』で特別賞を受賞されていらっしゃいました。

 その授賞式後に用意されていた懇親会で初めてお会いしました。

 共通の知り合いがいたこともあって、すぐにうち解けて熊谷監督のお子さんがまだ小さかったからだと思うんですが、懇親会の後、不二家にお茶をしにいった記憶があります(笑)。

 その出会いをきっかけに、別のテレビドキュメンタリーで熊谷監督からナレーションのオファーをいただいたり、わたしはわたしで熊谷監督の作品が公開されると劇場に見に行ったりといった感じで。しょっちゅうお会いするというわけではなかったんですけど、その時々にお会いするような形のお付き合いが今日まで続いています」

ハンセン病についてもっと深く知りたいと思っていました

 そういった中で、今回のナレーションの話が届いたという。

「熊谷監督から直接お電話をいただきました。『ナレーションをお願いできませんか』と。

 お話を聞くと、ハンセン病回復者の宮﨑かづゑさんという女性のドキュメンタリーとお聞きして、もう『ぜひ、わたしでよろしければやらせてください』とこちらからお願いしました」

 ご存じの方も多いと思うが、斉藤はこれまで俳優として活動する一方で、沖縄の知られざる歴史や原爆の被害者などに関することに、作品として携わるのみならず、個人としてもかかわってきた。

 実は、ハンセン病についても関心を寄せていたという。

「ハンセン病についてもっと深く知りたいと思うきっかけになったのは、本を読んでのことでした。

 はじめに医師で作家でもあった神谷美恵子さんが書かれた『生きがいについて』を読んで、その後、遠藤周作さんの書かれた『わたしが・棄てた・女』を手にして……。

 言葉にならないというか。それまであまりに知らないできてしまったので、もっと知らないといけないと思いました。

 そこからハンセン病をテーマにしたテレビのドキュメンタリーや映画があればなるべく見るようにしたり、東京の国立療養所多磨全生園に訪れたりと、自分のできる範囲内でできることをして、関心を寄せ続けていました。

 でも、残念ながらハンセン病の元患者さんに直接お会いすることはできていなかった。

 そこまで深くかかわることもできないままできていました。

 ずっとどこかで自分ができることはないかと考えていたんです。

 ですから、熊谷監督からこのお話をいただいたときは、さきほどいったように『わたしでよろしければぜひ』と思いました」

(※第二回に続く)

「かづゑ的」ポスタービジュアル
「かづゑ的」ポスタービジュアル

「かづゑ的」

監督:熊谷博子

ナレーション:斉藤とも子

撮影:中島広城 映像技術:柳生俊一 録音:奥井義哉

整音:小長谷啓太 編集:大橋富代 音楽:黒田京子

助監督:土井かやの 宣伝美術:安倍大智

公式サイト https://www.beingkazue.com/

ポレポレ東中野、ヒューマントラストシネマ有楽町にて公開、ほか全国順次公開

筆者撮影以外の写真はすべて(c)Office Kumagai 2023

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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