ラグビー日本代表のW杯での歴史的快挙から2年。ジョーンズHCの「戦略的交替」を振り返る
あの日から2年が経とうとしている。
世界的名将エディー・ジョーンズならラグビーワールドカップ(W杯)で長きにわたり、勝つことができなかったラグビー日本代表に勝利をもたらしてくれるはず――そんな思いで2012年から4年間、エディー・ジャパンの全試合を取材してきたが、まさか、その24年ぶり2勝目が南アフリカ代表戦となるとは思ってもいなかった……。
2003年大会からラグビーW杯を取材してきたが、今から思えば、驚きとともにもっとも思い出に残る瞬間だった(前日、電車の人身事故の影響でロンドンからの帰宅が深夜の4時になり、試合当日も仕事が忙しく、歴史的快挙の余韻にゆっくり浸れる暇はなかったが……)。
2015年9月19日、日本代表が南アフリカ代表にイングランド・ブライトンで34-32と勝利した「スポーツ史上最高のアップセット」がどうして起きたのか――個人的にもさまざまな媒体で書いてきたが、後に気づいたことが一つあった。それは日本代表のエディー・ジョーンズHC(現イングランド代表HC)の選手起用の巧さだった。
◇「総キャップ600」に近い、ベテランを重視した選手起用だった
まず南アフリカ代表戦における日本代表の試合登録メンバーは下記の通り。かねてより「W杯で結果を残すためには一人40キャップ(計600キャップ)が必要」とジョーンズHCが公言していたように、この試合はそれに近い数字(総キャップは574)となっていた。
さらにFWは8人中5人と、ゲームをコントロールするハーフ団は過去にW杯を経験したメンバーで固めた。具体的なポジションを見ても、LOトンプソン、大野と経験豊富な2人を起用し、右PRは山下→畠山という起用の試合も多かったが畠山が先発、また右WTBは直前の強化試合では最年少の藤田だったが、「大舞台に強い」(ジョーンズHC)と山田を起用した。
「南アフリカ代表(当時の世界ランキング3位)はW杯史上最も勝率が高く(25勝4敗、勝率86.2%)、大きくてフィジカルが強く、経験も豊富なチームです。日本代表(同13位)は逆で、W杯の勝率が最も低く(1勝21敗2分け、勝率4.2%)、世界でも最も体の小さいチームですが、過去の日本代表と比べても最も経験値の高いメンバーで構成されている。非常にいい機会です」(ジョーンズHC)
◇ジョーンズHCが得意とする「戦略的交替」とは?
ジョーンズHCは、常に23人で戦うことを考えており、現在、イングランド代表を指揮しているが、テストマッチで勝利した後、定型句のように「今回は23人を正しく選んだ」と言っている。
そして現在、ジョーンズHCの右腕としてイングランド代表のDFコーチを務めるポール・ガスタードはこう証言している。
「ジョーンズHCは先発15人だけでなく、控えの8人を最初からどの時間帯でどう使うかを考えており、相手側もどのようなタイミングで交替させてくるかも予想している。もちろん、予期せぬハプニングにも対応できるようにも考えている。
どのコーチも交替については当然考えているが、ジョーンズHCは誰よりもそれが臨機応変に判断できることが大きい。選手交替の意味合いは、先手を打つ、試合のペースを上げる、またはリアクションする、そして自分たちの強みを最大限に引き出すことにある」
つまり、ジョーンズHCが「勝負師」「W杯に強い指揮官」と称えられ、イングランド代表を見事に復活させたように、ヘッドコーチとして優れている点の一つは「リプレイスメントストラテジー(戦略的な交替)」にある。日本代表対南アフリカ代表戦でもオーストラリア出身の指揮官の采配は冴えており、常に先手を打っていたことがよくわかる。
◇常に先手を打っていた名将の采配
前半、日本代表は10-12で折り返す。後半2分にFB五郎丸のPGで13-12とするものの、4分に南アフリカ代表にトライを許して13-19で再び逆転された。
最初の交替は、リードされた直後の後半5分だった。No.8をツイからマフィに替えた。ケガから復帰したばかりのマフィは、日本代表の中で最もフィジカルが強く、突破力に長けた選手で、この場面までで最も点差が開いた場面で投入したというわけだ。
マフィが入った勢いもあり、日本代表は相手の反則を誘い、FB五郎丸が後半8分、12分にPGを決めて19-19で同点に追いつく。
同点になると、さらにジョーンズHCは動く。後半13分に右PR畠山を山下、LO大野を真壁に替えた。山下は国内屈指の右PRであり、真壁もマフィ同様、強いボールキャリアが持ち味の選手だ。
その後、相手も選手を替えてくる中で、19-22と再びリードされた17分に左PRを三上から稲垣に交代。稲垣は運動量豊富でタックルも強い選手だ。すると直後の19分にPGを得て22-22と同点に追いつく。
しかし、21分に再び相手にトライを許して22-29としてリードされると、ゲームのテンポアップするためにSH田中に替わり、攻撃的なSH日和佐を投入。球捌きに優れた日和佐は控えの中では唯一のW杯経験者であり、ジョーンズHCがサントリー時代から目をかけてきたSHだった。
すると27分、後半途中で入ったPR山下のビッグタックルで相手の反則を誘って、敵陣25mでラインアウトを得る。そのチャンスからサインプレーでFB五郎丸がトライを挙げて、自身でゴールも決めて29-29と再び同点に。
◇交替選手が躍動し、最後はWTBヘスケスが逆転トライ!
残り10分強、HOを堀江から木津に替えた。木津もしっかりとセットプレーの安定に貢献する。32分にPGを決められて29-32と3点リードされるが、32分にSO小野を田村に、38分にWTB山田をヘスケスに交替する。最後の勝負どころで、攻撃的な選手を2人投入したという訳だ。
ロスタイム、スクラムを起点にボール継続した日本代表は、最後はSH日和佐、SOの位置に入っていたCTB立川、No.8マフィとボールが渡り、No.8マフィが相手のタックルをハンドオフでかわしつつ、WTBヘスケスにパス。パスを受けたヘスケスは試合のファーストタッチだったが、タックルを受けながらも左隅に飛び込んで34-32で逆転。FB五郎丸のゴールは外れたが、そのままノーサイドを迎えた。
こうして日本代表の南アフリカ代表戦の勝利を振り返ると、ジョーンズHCの選手交替の人選、タイミングは「先手を打つ、ペースを上げる、リアクションする、自分たちの強みを最大限に引き出している」ことがよくわかるだろう。それが名将の名将たるゆえんであり、イングランドの地でもジョーンズHCはその手腕を思う存分に発揮し、イングランド代表を世界ランキング2位に押し上げた。
この試合の2年目にあたる9月19日(火)、ラグビーワールドカップ 2019 組織委員会では、日本代表対南アフリカの試合映像を大会公式ソーシャルメディア(Facebook、Twitter、YouTube)にてストリーミング配信する予定だ。ジョーンズHCの采配に注目しつつ、観戦してみるとまた違った感動が味わえるかもしれない。
◇RWC2015 イングランド大会 日本代表 vs.南アフリカ代表 フルマッチストリーミング配信 概要
放送開始時間:2017 年 9 月 19 日(火)19:00~(日本時間)
視聴可能プラットフォーム(下記のプラットフォームで生配信)
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※全て生配信。試合のキックオフを見逃した場合は試合終了後動画を再生可能
◇ラグビー日本代表 南アフリカの試合登録メンバー
(※数字は2015年9月19日当日のもの。☆は過去にW杯出場歴あり)。
1 三上正貴(27歳、29キャップ)
2 堀江翔太(28歳、38キャップ)☆
3 畠山健介(30歳、68キャップ)☆
4 トンプソン ルーク(34歳、59キャップ)☆
5 大野均(37歳、94キャップ)☆
6 リーチ マイケル(26歳、43キャップ)☆
7 マイケル・ブロードハースト(28歳、22キャップ)
8 ツイ ヘンドリック(27歳、32キャップ)
9 田中史朗(29歳、49キャップ)☆
10 小野晃征(28歳、29キャップ)☆
11 松島幸太朗(22歳、12キャップ)
12 立川理道(25歳、39キャップ)
13 マレ・サウ(27歳、23キャップ)
14 山田章仁(30歳、13キャップ)
15 五郎丸歩(29歳、53キャップ)
控え
16 木津武士(27歳、37キャップ)
17 稲垣啓太(25歳、6キャップ)
18 山下裕史(29歳、45キャップ)
19 真壁伸弥(27歳、31キャップ)
20 アマナキ・レレイ・マフィ(25歳、3キャップ)
21 日和佐篤(28歳、47キャップ)☆
22 田村優(26歳、33キャップ)
23 カーン・ヘスケス(30歳、10キャップ)