日系英国人ハナ・タジマさんのムスリム・ファッションに注目
日本にルーツを持ち、英国で育ったファッションブロガー・デザイナー、ハナ・タジマさんは17歳でイスラム教に改宗し、自分のブログでムスリム女性のためのファッションを発表するようになりました。イスラムの伝統を守りながら女性の美しさを引き出す新しさが注目され、ユニクロの春夏コレクションに選ばれたことで英メディアに大々的に取り上げられました。
イスラムやムスリムと聞けば過激派、テロと結び付けられがちですが、ハナさんがデザインするスカーフ「ヒジャブ」やジーンズ、ズボン、ロングドレスはムスリム女性の控えめな美を自然に表現しています。ハナさんは自分でデザインしたファッションを着て、ブログやユーチューブなどで発表し始めました。
アジアにもインドネシアやマレーシアなどムスリム人口は多いのですが、高温多湿の国でヒジャブを着けるのは大変です。少し宣伝臭くなりますが、快適素材を売り物にするユニクロは昨年からハナさんとコラボして、ムスリムの女性向けファッションを開発してきました。
実はムスリム女性のファッション市場に注目しているのは日本のユニクロだけではありません。イタリア・ミラノの高級ファッションブランド、ドルチェ&ガッバーナも贅沢なヒジャブ・コレクションを発表しています。
昨年、中東の高級ブランド市場は87億ドル(1兆180億円)に達したと言われています。1人当たりの名目国内総生産(GDP)で見ると、マレーシアは2006年の6194ドル(72万4698円)から14年には1万1307ドル(132万2900円)にまで増えています。
産油国も多いムスリム市場はビッグマーケットで、放って置く手はありません。
しかしドルチェ&ガッバーナ流にムスリム女性を新たなマーケットとしてだけとらえ、非ムスリムのデザイナーやモデルを登用するやり方に反発を覚えるムスリム女性は少なくありません。ハナさんは英紙インディペンデントに寄稿し、「西洋とイスラムの美は散文と韻文の違いがあります」と指摘しています。
ムスリム女性は初潮を迎えると性的な目で見られるのを避けるためヒジャブをかぶるようになります。これを女性の自由に対する圧迫、苦痛ととらえる人がいますが、ハナさんはその日、どんなヒジャブをどのようにかぶるかを決めることで女性の自己表現につながると考えています。
ヒジャブを脱ぎ捨てることでオンナという性を解放するのではなく、その日の自分を表現するヒジャブをかぶることで内なる美を引き出そうというわけです。
イスラム世界にファッションを通じて欧米資本主義が入り込むことについて、ハナさんは民放のニュース番組チャンネル4ニュースで「ケバブ料理が欧米を席巻しているのに、その逆はいけないのでしょうか」と話しています。日本と英国という異なるカルチャーを持つハナさんだからこそ、ムスリム女性のファッションを新たな角度からとらえ直すことができたのかもしれません。
昨年11月のエントリーで、18歳のときヌード写真を発表してチュニジアで大論争を巻き起こし、フランス留学を経て、祖国でフェミニスト雑誌「Farida」を発行するアミナ・スブイさんの話を紹介しました。ハナさんは裁断バサミを、アミナさんはペンを持って、保守化するイスラム社会に新風を吹きこもうとしています。
筆者は、ムスリム排斥を公然と唱えて、米大統領選の共和党候補指名争いで支持率トップを走る不動産王ドナルド・トランプ氏やフランスの極右政党・国民戦線のマリーヌ・ルペン党首を支持しません。イスラム過激派やテロを撃退するのは、米国が主導する有志連合の爆弾ではなく、ムスリム女性の豊かな感性と静かな勇気なのかもしれません。
(おわり)