YOASOBI「アイドル」と鈴木雅之「道導」…Ayaseの芸風の広さに驚いた4月【月刊レコード大賞】
あらためて自己紹介をしますと、私は、東京スポーツ紙(東スポ)というオヤジ向け媒体で、ヒット曲評論を毎週連載している音楽評論家(56歳)で、その連載はこの4月で、何と8年目に突入しました(ありがたいことです)。
毎週毎週、ヒット曲を探して聴いていると、「不作だなぁ」と思う週もある、っていうか、そういう週の方が多いのですが、それだけにビビビッ!とくる曲が多い週、多い月は盛り上がります。
ビビビッ!と来たのです。その表現が古めかしければ、心の中で「キター!」と叫びました(こちらも古いか)。この4月、具体的には2週・2回・2曲「キター!」のですが、作詞・作曲は同じクレジットでした。
――「作詞・作曲:Ayase」
まずはYOASOBIの『アイドル』です。TVアニメ『【推しの子】』(TOKYO MX他)のオープニング主題歌。アニメ自体も好評価らしいのですが、私は音楽単体でヤラれたのです。
ビルボードジャパンのランキングも席巻。4月19日付・26日付のHot 100で2週連続首位。「【ビルボード】ストリーミング・動画再生・ダウンロードで1位、異次元の加点でYOASOBI「アイドル」2週連続総合首位」と記事タイトルも盛り上がっています。異次元って。
私が注目したのは、歌詞の内容及び音作りが、おおよそ2010年代女性アイドルのパロディとなっている点です。
まずは歌詞。これは、私(たち)世代的には「令和の『なんてったってアイドル』」と言っていいもの。『なんてったってアイドル』とは、小泉今日子が85年にリリースした曲で、作詞は「2010年代女性アイドル」界の一翼、いや主翼を担った秋元康。
「♪イメージが大切よ 清く正しく美しく」と歌う歌詞は、「1980年代(特に前半)女性アイドル界」を完全にパロディにしていて、『アイドル』の「♪誰かを好きになることなんて 私分からなくてさ」とつながります。
またサウンドも「2010年代女性アイドル界」で量産された、情報量の多いメロディとコード進行を、完全にパロディ化しています。実によく出来ていると思いました。
そうなんです。「よく出来ている」のです。さらに言えば、よく出来過ぎていて、「普通のアイドルソングよりもアイドルソングっぽい」という、ピリオドを超えたメタ構造にまで達していると言えます。
つまりはパロディを超えた「メタ・パロディ」――というと、小難しく聴こえるかもですが、ポップスの歴史の進化は、メタ・パロディこそが推進力になったとも言えるのです。世界最強のメタ・パロディ・ユニットの名前は、ザ・ビートルズといいます。
で、驚くなかれ、こちらの曲も「作詞・作曲:Ayase」。
何という芸風の広さでしょう。でもAyaseの手癖のようなものがしっかりと入っていて、根本の部分ではブレていません。それにしてもこの曲、カラオケで歌うのはめちゃ難しそうやな。
歌い出しの歌詞もいいですよ。「♪無駄なことはね 人間にしかできないの」。まさに。最近のAI騒ぎ、ChatGPT騒ぎに対する、いい感じの当てこすりになっていると思いました。ちょっと深読みかもですが。
そうなんです。今回取り上げたAyaseの2曲、いい意味での「無駄」が多いのです。無駄に凝っていて、無駄にサービス精神が旺盛。そこがいい。無駄にいい。
え? 本当にAIにはAyaseのような、いい意味での無駄が多い曲が作れないのかって? 分かりました。ChatGPTに尋ねてみましょう(4/29 17:30に問い合わせ)。
「2010年代の日本アイドルソングのようなコード進行を作ってください。16小節で、キーはAm、BPM160くらいで」
以下、ChatGPTからの回答です。
こちらのリクエストに応じて、2010年代の日本アイドルソングに使われるようなコード進行を作成しました。以下がその例です。
||: Am | G | F | E :|| Am | G | F | E | Am | G | F | E | Am | G | F | E |
(※以下略)
驚きました。「Am-G-F-E」をひたすら繰り返す――これ、井上陽水『傘がない』(72年)のコード進行です。いやいや、これじゃ無駄なさすぎ。シンプル過ぎるでしょう!
というわけで、無駄なことはAIではなく人間にしか出来ないことがよく分かりました。そしてこの4月、そんな人間たちの頂点に立ったのが、Ayaseだったのです。
- YOASOBI『アイドル』/作詞・作曲:Ayase
- 鈴木雅之『道導』/作詞・作曲:Ayase
- 小泉今日子『なんてったってアイドル』/作詞:秋元康、作曲:筒美京平
- 井上陽水『傘がない』/作詞・作曲:井上陽水