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給料より高い中国のお年玉?

宮崎紀秀ジャーナリスト
春節で賑わう北京(写真:ロイター/アフロ)

紙幣カウンターでお年玉を数える少女

 中国にもお年玉はある。春節(旧正月)の休暇中に、お年玉をめぐる二つの映像が、お金の話が大好きな中国の人たちに、恰好の話題を提供している。

 一つは、幼い女の子の映像である。見た目から、年齢はおそらく7、8歳。子供らしいピンク色の服を着たその子が、中国版ポチ袋、赤い封筒からお金を出して、紙幣カウンター(銀行などで使っている紙幣を自動で数える機械)で札を数えるものだ。

 少女が、封筒から100元札(約1600円)の“札束”を出して、カウンターにかけると、ダーという音とともに紙幣がカウントされ、機械音が「19枚」と告げる。映像は15秒ほどで、別の1回は「29枚」とカウントされている。映っているのはその2回だが、他にも、カウンターにかけていないポチ袋があるから、この子の今年の春節の“収入”は、4800元(約76800円)を上回るという計算になる。

僕の給料より高い!

 中国メディアは、「僕の給料より高くて傷ついた」などの声が上がっているなどと、これを面白おかしく報じている。

 この映像に対する書き込みを見ていると、「お年玉は手で数えるのが、楽しいのだよ」「ちゃんとした銀行ならば、カウンターには必ず2回かけますよ」などと、“親切”なアドバイスもある。

 ちなみに、お年玉の金額は、親同士の関係性や子供の年齢によって変わる。とはいえ、私の友人たちに聞いても、今や数百元を包むのは普通のようなので、この映像についても「子供に大金を与えてけしからん」と目くじらを立てるというよりは、お正月の話題として微笑ましく思っている人も少なくないようだ。

 中国のお年玉は、圧歳銭と呼ばれ、年長者が年少者に対し、魔除けや平穏無事の願いを込める意味合いがある。経済水準が上がるにつれ、お年玉の金額も上がった。本来の意味が薄れて、大人同士の社交の道具になっている側面も捨てきれない。

お年玉は計画運用へ?

 当然、多額のお年玉は、親が預かるべきだとの声も上がるわけだが、「親がお年玉を没収するのは誤りで、そうしたやり方が子供の不満を引き起こす」とは、この映像について報じたある新聞が載せた財政教育の専門家の意見である。

 その専門家は、「お金を分けて管理することを、子供自身に学ばせる契機とすべきだ」と主張している。そして、次のようなモデルを示しながら、なんだか末恐ろしくなるようなアドバイスを展開している。

「お年玉の50パーセントは貯蓄や投資に当てる。20パーセントを慈善活動、30パーセントを消費支出に当てる」

74歳のお婆さんはお年玉をもらえるのか?

 もう一つは、二人のお年寄りが並んで座っている映像である。お婆さんが懐から何かを取り出し、戸惑うような表情を見せるもう一人のお婆さんの手にそれを押し付ける。

 実は二人のお婆さんは母娘。中国東部の江蘇省に住む105歳の母親が、74歳の娘に、お年玉を渡した場面という。この映像には、「お母さんから見れば、いくら大きくなっても永遠に子供なのね」などという感想が寄せられ、100万回以上の「いいね」が集まったという。

撮影したのは孫

 この様子を撮影したのは、105歳の女性からすれば、孫にあたる男性。中国メディアが報じた男性のインタビューによれば、このお婆さんには7人の子供がおり、孫たちが大学に通っている時には、「卒業まで生きていたいなあ」と言い、その孫たちが仕事を始めた時には、「結婚するまで生きていたいなあ」と話していたという。

 孫にあたる撮影者の男性曰く、今は自分の子供たちも10代に成長した。

「(お婆さんは)こんなに長い間、身体もしゃんとしていて、とても幸せに暮らしているのですよ」

 春節の休暇は明日まで。すでにUターンラッシュは始まり、ほんわかした気分は、日常の喧騒に間も無くかき消される。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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