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サンウルブズの苦戦が物語る「ウイングの大切さ」

永田洋光スポーツライター
今季9トライを挙げた山田章仁の不在は思いのほか大きかった(写真:ロイター/アフロ)

トライが獲れなければ、ファンの溜飲は下がらない?

サンウルブズは強いのか、弱いのか。

頑張っているのか、そうではないのか。

もっと言ってしまえば、応援し甲斐のあるチームなのか。そうではないのか。

9日(日本時間10日未明)のブルズ戦を見てそんな疑問を抱え、梅雨末期の日々を悶々としているラグビーファンも多いのではないか。

サンウルブズは、標高1500メートルのプレトリアでブルズと戦い、2日のワラターズ戦から休む間もなく南アフリカに遠征した疲れと、酸素の薄い高地という不利も重なって、3―50とほとんどいいところを見せられなかった。これで5月28日のブランビーズ戦から3試合続けて50失点以上。トライもブランビーズ戦で1つ奪っただけで、ここ2試合はノートライに終わっている。

この事実だけを書けば、いかにも“ダメなチーム”という印象だが、その原因は、実は簡単にして単純。トライを獲り切れるウイングがいないから――それが非常に大きい。

今季9トライを挙げた山田章仁(第16節終了時点でランキング2位タイ)がいたときのサンウルブズの成績と、山田がリオデジャネイロ五輪のためにセブンズ代表にシフトしてからの成績を比べれば一目瞭然だ。

山田は、第2節のチーターズ戦(31―32)でハットトリックを達成してトライランキングトップに躍り出ると、ブランビーズ戦まで12試合中10試合に出場。サンウルブズが初勝利を挙げたジャガーズ戦は欠場したが、それでもチーターズ、ブルズ、キングズの3試合で7点差以内負けのボーナスポイント獲得に貢献。さらには終了直前に17―17と追いつかれたストーマーズ戦でもトライを記録して、つまり今季の勝ち点9のうち5ポイントに大きな貢献を果たしている。

もちろん、貢献した選手は山田だけでは決してないが、ボールを渡せば何かやってくれそうな選手が1人チームにいるのと、そういう選手がいないのとでは、本当に雲泥の差がある。

サンウルブズにはもう1人、ビリアミ・ロロヘアという大化けしそうな“走り屋”がいたが、ジャガーズ戦で負傷して今季絶望に。結局のところ、あまり足が速いとは言えないパエア・ミフィポセチと、本職はフルバックの笹倉康誉の2人がウイングを務めざるを得なかった。

そして、サンウルブズが急激に失速したように見えるのも、実はこの走り屋不在に原因がある。いや、サンウルブズだけではない。6月にジャパンがスコットランドに連敗したのも、トライを獲れる選手――ラグビー用語で言えば「走り切れる選手」――がいなかったところに、敗因の、すべてではないが、かなりの部分があった。

ウイングの役割はボールを持って走るだけではない!

ウイングの大切さ。

それは、ボールを持って走り切ることだけでは、実はない。

マーク・ハメットは、ジャパンのヘッドコーチ(HC)代行を務めたスコットランド戦で、第2戦にパエアに替えて本来はセンターのマレ・サウを14番に起用したが、その理由をこう話した。

「ボールを持たないときの動きに期待している」

そう、ウイングにとって何よりも大切なのは、相手を警戒させることなのである。

そのためには突出したスピードが必要だし、ボールを持たないところでさまざまな動きをして、相手が予測していないところに突然飛び出してパスをもらうようなセンスが要求される。

相手が「危険だ」と警戒するようなウイングは、存在するだけで防御にわずかな狂いやほころびが生じさせることができるのだ。

そして、このほころびが、ムチャクチャ大切なのである。

今のラグビーの防御システムを思い浮かべて欲しい。

どのチームも、横一列にならんでグラウンドの幅70メートルを隙間なく埋めようとする。

しかし、攻撃側の左右両端にいるウイングが驚異的なスピードを持っていると、防御側のウイングは彼らの存在を無視することができないから、ボールがまだグラウンド中央にあるときでも、常に外側に視線を向けて注意を怠らない。その分、少しずつ立つ位置が外に引っ張られて、味方との位置関係が微妙にずれ、現に攻防が繰り広げられている中央部分の選手との間に、わずかな隙間ができる。

そのわずかなスペースを見逃さずに攻めるのが、スーパーラグビーやテストマッチのレベルなのである(サンウルブズもジャパンもこの段階にはかなり近づいている)。

たとえば、オフロードという、相手にタックルに入らせて体の上でボールをつなぐプレーも、外側に“超ヤバい”選手がいれば成功率がかなり高くなる。外側に引っ張られた防御の隙間に強力なランナーを走り込ませることが可能になるからだ。そして、防御側が全員、しかたなしに内側に集中したところで外側にボールを運べば、大きなトライチャンスが生まれる。

あるいは、ウイングがトライを獲りきればターンオーバーから逆襲されるピンチを防げるし、攻撃時間を長くして防御に回る時間を短くすることができる。

反対に、防御側のウイングが攻撃側のウイングを見て「こいつならスピードで負けない」と思ってしまえば、彼は外側を警戒せずに内側の防御に集中できる。もし、ボールがウイングまで回っても、スピードで追いつける自信があるから、あわてる必要がない。

つまり、ウイングが危険であればあるほど相手防御には余裕がなくなり、その逆ならば余裕ができる。

これが、アタック全体に影響を及ぼすのだ。

歴史に名を残すチームには必ず名ウイングがいる

もっと簡単に言えば、昔の大西鐵之祐監督時代のジャパンには、「世界のサカタ」と言われた坂田好弘がいた。

宿澤広朗監督時代のジャパンは、11番の吉田義人でトライを奪うのが定番だった。

そして、昨年のエディー・ジョーンズが率いたW杯では、山田と松島幸太朗がその役割を担った(南アフリカから決勝トライを奪ったカーン・ヘスケスもお忘れなく!)。

歴史に名を残したチームには、必ず名ウイングがいたのである。

今年は山田をはじめ、福岡堅樹、藤田慶和、松井千士と、名だたる走り屋がリオ五輪を目指してセブンズに行ったため、サンウルブズもジャパンもフィニッシャー不足に泣くことになり、ワラターズ戦では、スタンドオフに入った田村優とセンターの立川理道がループプレーからきれいに相手防御を崩したが、結果はトライに至らずペナルティゴールの3点に終わっている。

つまり、多くのラグビーファンが、サンウルブズやジャパンに、どこかもやもやっとした思いを抱くのは、スカッとトライをとってくれる男たちがいないから、なのである。

冒頭の疑問に戻れば、サンウルブズは強いとまでは言えないが、走り切れるウイングが加わる来季は今季以上に活躍が期待できるだろうし、今現に頑張ってチャンスを作り出しているからこそ、それを生かせずにファンがフラストレーションを溜め込む結果となっている。

来季に「応援し甲斐のあるチーム」となるべき下地は整っているのだ。

15日(日本時間16日未明)に今季最後のシャークス戦に臨むサンウルブズだが、こうした時期だからこそ、山下一や児玉健太郎といった新しい走り屋に、失敗を恐れず活躍してもらいたい。

スポーツライター

1957年生まれ。出版社勤務を経てフリーランスとなった88年度に神戸製鋼が初優勝し、そのまま現在までラグビーについて書き続けている。93年から恩師に頼まれて江戸川大学ラグビー部コーチを引き受け、廃部となるまで指導した。最新刊は『明治大学ラグビー部 勇者の百年 紫紺の誇りを胸に再び「前へ」』(二見書房)。他に『宿澤広朗 勝つことのみが善である』(文春文庫)、『スタンドオフ黄金伝説』(双葉社)、『新・ラグビーの逆襲 日本ラグビーが「世界」をとる日』(言視舎)などがある。

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