全豪OP予選:12度目の挑戦で本選出場の穂積絵莉。無欲と向上心から生まれた「スタートライン」への到達
○穂積絵莉 7-5, 6-2 トモバ
相手のショットがベースラインを割った瞬間、ラケットがフワリと宙を舞い、穂積は両手で顔を覆うと、全身の力が抜けたようにその場にしゃがみ込みました。
時間にすれば、僅か1秒ほどだったでしょうか……少しの間そのまま動けずにいましたが、立ち上がると足早にネットに歩みより、対戦相手と握手を交わした後に、勝利のマークのようにベースライン付近に横たわるラケットを拾いに戻ります。コートサイドで応援していた関係者やファンへ向き直った時、彼女の大きな瞳から、大粒の涙がいくつもこぼれ落ちました。
12回目となるグランドスラム予選の挑戦で、初めてつかみ取った本戦への切符――。しかしそれはもしかしたら、本人が最も予期せぬ時に訪れたかもしれません。
昨年の全米でも予選決勝に進んだ穂積ですが、10月頃からテニスが崩れ出し、精神的にも落ち込んでいたと言います。
そもそも約10日前にメルボルンに足を運んだ時、穂積は、まだ自分が予選に出られるかどうかすら分かっていませんでした。その時点の出場者リストでは、穂積はボーダーライン外。それでも「ダブルスでは出るのだから、とにかく行こう」と決め、試合で戦う自分をイメージしながら現地に到着した正にその頃、予選に入れたとの吉報が届きます。そこからは、試合で勝つイメージを抱きながら、隙のない日々過ごすことを心掛けました。
「性格的に、なんとかなると思う楽観主義者で、アバウト」と自己分析する彼女が、コーチたちと細かく話し合い、戦術を練り、練習コートで課題を一つ一つ詰めていくようになります。2014年の全米で西岡良仁が、直前で予選入りした状況から本選に勝ち上がったことも、彼女に良いイメージを与えていたかもしれません。
初戦も2回戦でも、試合前に立てたプランを完遂し勝った穂積は、この日の予選決勝でもやるべきことを明確にして、コートに入っていました。
「相手はクレーが好きな選手なので、攻め急がず、自分もスピンを掛けて高い弾道を維持することを心掛けました」
これまでは、守備が固い選手相手だと攻め急ぎ、ミスして負けることが多かったという穂積。
「でも今回は、走って粘り、攻守を見極められていた」。
その手応えが鮮明に映し出されたのが、第2セットの2-2で迎えた相手サービスゲーム。打ち急ぐことなく相手を走らせ、自らも走る長い打ち合いを繰り返し、5度のデュースを重ねた末に、最後は11本のラリーを制してもぎ取ったブレーク。勝利への道を切り開いたこのゲームには、彼女の成長の理由が凝縮されていました。
11回の予選敗退を重ねた道のりを、彼女は「長かった」と振り返ります。同時に、胸の内をふーっと大きく吐き出すように、彼女は感慨深げに言いました。
「やっと、スタートラインに立った~」。
涙に彩られた勝利と共に到ったその場所は、目的地ではなく、出発地点です。
※テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookより転載。連日テニスの最新情報をお届けしています。