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藤井聡太挑戦者、わずかにペースを握ったか? 渡辺明王将、辛抱して好機を待つ 王将戦第4局2日目

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 2月12日。東京都立川市「SORANO HOTEL」において第71期ALSOK杯王将戦七番勝負第4局▲渡辺明王将(37歳)-△藤井聡太挑戦者(19歳)戦、2日目の対局がおこなわれています。棋譜は公式ページをご覧ください。

 76手目。藤井挑戦者はじっと雁木の銀を立ちます。これが好手だったようです。金を逃げる空間を作りながらじっと上部を手厚くしています。

 渡辺王将はここで長考に沈みました。封じ手を含めて5手ほど進んだところ。渡辺王将にとっては、どこまで想定の範囲内だったのでしょうか。

 すぐに目につくのは、飛車を2筋にまわして藤井陣に侵入させる自然な順です。龍(成り飛車)と、と金のコンビネーションで相手玉を追える効率のよさそうな攻めが見込めるのですが、それがどうなのか。藤井玉は盤面左辺に逃げていくと、広くて容易には捕まらない形です。

「王手は追う手」という将棋の格言があります。

 往々にして相手の玉を追いかけ回すむやみな王手は、勝ちを逃がすことにつながります。

 藤井挑戦者が離席中、渡辺王将は記録係に消費時間を尋ねます。

記録「この一手は1時間と25分使われました」

 渡辺王将が「はい」と答えるところ、少し苦笑がまじっているようにも聞こえました。

 考えること1時間49分。渡辺王将はまずと金を引きます。藤井挑戦者がすぐに金を逃げたのに対して、飛車を回る攻めではなく、相手の飛角に歩を打ち捨てる複雑な順を選びました。

 79手目。渡辺王将はじっと相手の攻めの拠点の歩を合わせて、歩を打ちます。自陣のキズを消しながら容易には崩れない姿勢を見せる渋い一手。忙しい局面でこうした手を堂々と指せるのは、だいたい強い人です。

 藤井挑戦者は小1の頃からこの「合わせの歩」の筋を会得していました。藤井少年が感想戦でそうした順を指摘していたのを見て、のちに師匠となる杉本昌隆現八段は、藤井少年の才能を確信したというエピソードがあります。

 12時30分、昼食休憩に入りました。局面は中盤の終わり、終盤の入口といったあたりでしょうか。コンピュータ将棋ソフトが示す「評価値」を見る限りでは、現状はわずかに藤井挑戦者がリードしています。

 藤井挑戦者は対局室から去るとき、渡辺王将の側からちらっと盤面を見ていました。

 再開は13時30分。夕食休憩はなく、通例では夕方から夜にかけて終局となります。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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