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浦和レッズはなぜ入場者集計ミスをしたのか、どのような再発防止策を講じたのか

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
埼玉スタジアムでの浦和レッズホームゲーム開催日の様子(写真:伊藤真吾/アフロスポーツ)

そもそも入場者数を実数で発表するのはなぜか

Jリーグ最多の入場者数を誇る浦和レッズが、9月11日(金)=19時30分キックオフ=に埼玉スタジアムで行われたJリーグ第2ステージ第10節の柏レイソル戦で、入場者数を誤って集計・発表した出来事から1カ月あまりが経過した。

試合当日に発表された入場者数は2万9169人だったが、後日に訂正されて発表された人数は2万3957人だった。5212人もの違いが出たのはなぜか。浦和はどのようにして再発を防止しようとしているのか。

まず最初に理解しておきたいのは、入場者数を実数で発表する意義だ。

Jリーグはリーグ開幕に先立って開催した1992年のヤマザキナビスコカップから今日まで、入場者を実数で発表する方針を貫いている。これは、『スタジアムに来てくれるひとりひとりのお客様を大切にする』と言う考えに基づくものだ。

Jリーグが開幕した当時のスポーツイベントでは、入場者数は8500人とか1万5000人といった切りの良い数字で発表されていたうえに、賑わいぶりをアピールするために概算の人数にさらに上乗せした数が発表されるのが半ば常識だった。

だから、Jリーグが実数で発表する方針を示し、各クラブに徹底させたのは画期的なことだった。Jリーグが「スポーツ文化の振興」を理念としているからこその“こだわり”が、この実数発表だったのだ。

浦和が試合終了後間もなく集計ミスに気づいたのはなぜか

9月11日の柏戦を終え、浦和が入場者数に問題が生じていることを発表したのは、試合の翌日である9月12日だった。外部からの指摘ではなく、クラブ内部のスタッフが気づいて判明したことだった。

クラブは、Jリーグと浦和自身が四半世紀近くにわたって守り続けてきた理念を揺るがす問題であるとの認識から事態を重く見て、まずは「問題発生」の事実を迅速に公表するべきと判断。そのうえでミスが起きた原因を調べ上げることに着手した。

入場ゲートで係員がカウンターで計測
入場ゲートで係員がカウンターで計測
カウンターは一般的な手動タイプ
カウンターは一般的な手動タイプ

調査の末につかんだのが、「手動カウンターの計測ミス」だった。「手動カウンター」とはなんと原始的な…と思う向きもあるだろう。だがこれには、Jリーグは原則として各クラブに対し、「入場者数入場時にカウンターなどを用いて算定する」と定めているという背景がある。Jリーグは「ひとりひとりが大事なお客様である」との理念から、チケットを持たない未就学児童も来場者数に含んでおり、(※注1)そのためもあって採用しているやり方なのだ。

浦和は柏戦でも、いつも通りに入場開始であるキックオフ3時間前から南門と北門の入場ゲートにある計10のレーン毎にそれぞれ係員を配置し、手動カウンターで入場者数をカウント。30分毎の数字を各門にいるチーフスタッフが集計し、内線電話でスタジアム内の運営本部に報告した。そして、この数字を運営本部にいるスタッフが30分毎にホワイトボードに書き込み、後半30分の時点の数字をスタジアム内の大型スクリーンによって「本日の入場者数」として発表した。

ところが、この試合では集計される前のカウンター毎の数字の中に、通常ではありえない「異常値」があることを、運営本部が見つけた。

では、運営本部はなぜ「この数字はおかしいのではないか」と思ったのだろうか。それは、入場券の発券枚数と入場者数の相関関係に、通常のケースとは違う様子が見られたからだ。

浦和レッズホームゲーム時の運営本部(埼玉スタジアム内)
浦和レッズホームゲーム時の運営本部(埼玉スタジアム内)
各入場門のチーフスタッフから報告を受けた数字を書き記す運営本部スタッフ
各入場門のチーフスタッフから報告を受けた数字を書き記す運営本部スタッフ
ホワイトボードに書き込む
ホワイトボードに書き込む

Jの理念を汚してはいけない…執念で見つけた「誤作動」

浦和では試合毎に曜日、時間、天候などに応じた類似モデル試合の数値を運営本部に張り出し、参考資料としている。そのうえで、その日の試合の券売数に、類似モデルから見た着券率(発券数に対して何%の人数が来場したか)を加味し、入場者数の計測動向を見る。

問題となった柏戦は平日であるにもかかわらず休日並みに着券率が高く、「これは何か特別な理由があるはずだから、調べないといけない」ということになった。

そこで今度は各入場窓口で実際にカウントされた人数の推移をチェックすると、全部で10個あるカウンターの1つ(北門第1窓口)だけが異常に多い数値を示したことが判明した。

問題となるカウンターがどれであるかは分かった。そこで次に行ったのは、カウンター製造会社に対してヒアリングを行い、クラブと製造会社双方の立ち合いのもとで、そのカウンターがなぜ異常な数値を出したのかを調べることだった。

スタッフが0から順に一押しずつ数字を見て確認していくと、3000台のある数字から次の一押しで1000増える(千の桁が増える)瞬間を発見した。つまり、機器の不具合だったのだ。

それでは実際の入場者数は何人だったのか。浦和はさらに作業を進め、今度は、入場チケット半券の枚数と電子カード入場者数等によって再集計を行った。その差異が、柏戦から1週間後の9月17日に発表された「5212人」だったというわけだ。(この方法での集計では、入場チケットを保有していない未就学児童の数は特定できなかったが、少なくとも実際の人数より多くなることはない)

浦和はさらに念を押す形で、誤作動が生じたカウンターを購入した2013年5月より2カ月前の2013年3月までさかのぼり、ホームゲーム全試合の入場ゲート毎の入場実績を再調査。そこでは異常値は検出されなかった。

人員増強とチェック体制の強化

問題の確認から調査、再発表まで1週間。クラブの執念によって集計ミスの原因は判明した。次は、どのようにして再発防止に努めていくのかということが焦点となる。

迅速に対策を講じることが何より大切と考えた浦和は、運営本部が中心となって新体制を構築。10月3日のサガン鳥栖戦からすでに新しい体制で入場者の計測を行っている。

まずは、入場場者数のカウントから、集計、公表までの工程で専門の担当者を増強。今までの「チーフ+運営本部」によるダブルチェック体制から「チーフ+集計専任担当者+運営本部+承認者」というトリプルチェック以上の体制にした。さらには、入場者数と配布物の残数との差異をチェックするという新たな手段も講じている。これまではスタンドを見ればスタッフがおおよその入場者数を把握できたが、今回は見過ごされてしまったという事実も反省点だった。カウンターの保管環境も改善した。

これですべては解決するのかと考えたときに思い浮かぶのは、人は必ずしも正確ではないが、機械が絶対に完璧だということもないということだ。手動カウンターはコンピューターなどの精密機器に比べて耐久性は高いが、それでも永遠に不具合が生じないという保障はない。

ただ、ここで言えるのは、今回の問題が発覚したのは、すべてを機械任せにするのではなく、人が目を配っていたからこそだということ。その奥深くにあるのは、Jリーグの理念を守ろうという基本姿勢だ。

スタジアムに集うひとりひとりのお客様を大切にしてきたのがJリーグの歴史。集計ミスと再発防止という一連の流れの中で、浦和はあらためて土台となる理念の尊さを再認識したはずだ。

※注1:2015明治安田生命J1・J2リーグ戦試合実施要項の第39条(公式記録)より抜粋

(3) 入場者数とは、以下の各号に該当する者の合計をいう。

1:入場口から来場した観客で、以下に該当する者

イ:入場券を保有している者

ロ:入場券を保有していない未就学児童

2:入場口以外から来場した観客で、以下に該当する者

イ:車いす観戦者およびその付添人

ロ:VIP席の観客

なお、入場者数には選手、審判員、クラブ役職員、その他試合運営に関わる者、スタジアム管理者、売店関係者、報道関係者、フォトグラファーは含めない。

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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