Yahoo!ニュース

功労賞的なオスカーなんていらない!名女優グレン・クローズに訪れる8度目の正直の確率は?

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
(写真:Shutterstock/アフロ)

オスカーとラジーのWノミニーは過去にもいた!?

 今年のアワードシーズンでグレン・クローズ(73歳)はジェットコースターのような経験をしている。これは雑誌”People”に掲載されたフレーズだ。それが、Netflixの『ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-』での演技でラジー賞の最低助演女優賞候補になった1週間後、同じ作品でアカデミー助演女優賞にノミネートされたことを指しているのは言うまでもない。同じ演技でラジーとオスカーのWノミニーなんてジョークみたいなことってあるのか?あるのである。かつてジェームズ・ココは『泣かないで』(81)で、エイミー・アービングは『愛のイェントル』(83)で、同じジェットコースターに乗っかっている。どちらも結果的に落選しているが。果たして、クローズはどうか?

オスカーは今年で8度目の候補入り。で、過去7回は?

 その前に彼女にとってはもっと重要な課題がある。アカデミー賞の長い歴史の中で、クローズが候補に挙がったのは今年でなんと8回目。過去7回は何故か受賞に至っていない。エミー賞を3回、トニー賞も3回、さらにゴールデン・グローブ賞を3回も獲っているのに、不思議とオスカーには無縁なのだ。7回候補になって受賞していないのは過去最多。故・ピーター・オトゥールと並ぶタイトルホールダーである。どうせならこの機会に、過去7回を振り返ってみよう。

悪役でアカデミー賞に輝いた人はいっぱいいるのに

 最初に候補に挙がったのは映画デビュー作『ガープの世界』(82、受賞したのは『トッツィー』のジェシカ・ラング)、以下、『再会の時』(83、受賞したのは『危険な年』のヘレン・ハント)、『ナチュラル』(84、受賞したのは『インドへの道』のペギー・アシュクロフト)と、3年連続で助演女優賞候補に名を連ねている。映画デビューから3年連続でオスカー候補を勝ち取るなんて、並の俳優にはできないし、いかに彼女の演技力が秀でていたかが分かる記録だ。続く『危険な情事』(87)で浮気相手を執拗に追い詰めるストーカーを演じたクローズは、4度目にして初のアカデミー主演女優賞候補となる。映画は大ヒットして、一躍人気女優としてブレイクした彼女は、翌年、『危険な関係』(88)で2年連続の主演女優賞候補を勝ち取る。役柄は『危険な情事』のヒロイン、アレックスをさらにアップデートしたような内面に陰謀と悪意を秘めた貴婦人役。このあたりが俳優としてピークだったのかも知れない。しかし、オスカーだけは手に入らなかった。『カッコーの巣の上で』(75)のルイーズ・フレッチャー、『ミザリー』(90)のキャシー・ベイツ、『トレーニング・デイ』(01)のデンゼル・ワシントン、『ダークナイト』(08)のヒース・レジャーと、振り返ってみたら悪役でオスカーをもぎ取った俳優はけっこう多いのに、グレン・クローズに勝利の女神は微笑まなかったのである。

 その後は、豪華な舞台装置が話題になったアンドリュー・ロイド・ウェバーによるロングラン・ミュージカル『サンセット大通り』(95)でトニー賞に輝き、ディズニーの『101』(01)で再び悪女クルエラ・デ・ビル役を、『エアフォース・ワン』(97)では一転、アメリカ合衆国副大統領を演じるなど、舞台、映画、TVと幅広く活躍するが、『アルバート氏の人生』(11)で6度目のオスカー候補を勝ち取るまで、『危険な関係』から実に22年が経過していた。

彼女のオスカーに対する考え方が泣ける

 元々は舞台劇だった『アルバート氏の人生』でトランスジェンダーの主人公を演じてオビー賞に輝いているクローズは、映画化に際して製作と共同脚本を兼任。作品は数多くの映画賞に輝き、クローズは2011年の東京国際映画祭で主演女優賞を授与されている。しかし、注目のアカデミー賞では長年ライバルと言われてきたメリル・ストリープが『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』(11)の演技により、数えて17回目のノミネートで『ソフィーの選択』(82)以来2度目の主演女優賞を受賞する。壇上でストリープは『また彼女かってみんなが言っているでしょうね。でも、そんなの気にしない。これ貰っとくわ』とスピーチして万雷の拍手を浴びる。一方、6度目の候補入りを受けて、クローズはこう語っている。『自分が受賞するかどうか気にしている人がいるけど、私には理解できない。だって、映画業界には膨大な数の俳優がいて、毎年山ほど映画が作られている中で、5人の候補者の中に入れたことが幸運だと思うから。だから、自分のことを負け犬だなんて思わない』と。また、『天才作家の妻 40年目の真実』(18)で7度目のオスカー候補になり、ここでも受賞を有力視されながら、『女王陛下のお気に入り』のオリヴィア・コールマンにサプライズで黄金像が渡った時も、『演じたキャラクターが人々と共鳴し、繋がりを勝ち取った時、それが私にとってのオスカーです』とコメントしているクローズ。

以下は自虐ネタです

 でも、今年1月、業界紙”Variety”が企画したバーチャル・インタビューに参加した彼女は、”サタデー・ナイト・ライブ”で人気のコメディアン、ピート・デヴィッドソンから『オスカーをもらうためにはどうしたらいいか?』と聞かれると、『会場に車椅子で運ばれて(つまり歳をとって)、生涯功労賞を貰うのも悪くないかも。だってスピーチしなくていいから』とブラックなジョークで返している。

今年のクローズには受賞の可能性はある

 果たして、今年こそ、8度目の正直となるのだろうか?『ヒルビリー・エレジー~』でクローズは、過去の忌まわしい連鎖を断ち切るため、病を押して家族を守ろうとする祖母役を、実物そっくりのメイクを駆使して熱演している。メディアの作品評価は賛否両論だが、クローズに関しては「スクリーンを統率している」「シンプルでセンセーショナル」「クローズがいる限り映画は生き生きとしている」と絶賛されている。また、一部には今年こそアカデミー協会はグレン・クローズに功労賞的な意味合いを込めて助演女優賞を贈るのではないか?という見方もある。しかし、それだと本人がジョークのネタにしたのと同じこと。

過去の貢献度ではなく、今年の、今のクローズには受賞の可能性があるのだ。ライバルは『続・ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物物語』のぶっ飛び演技が凄いマリア・バカローバ、『女王陛下のお気に入り』から因果がある『ファーザー』のオリビア・コールマン、「Mank マンク」で女優開眼のアマンダ・セイフライド、そして、最も手強い『ミナリ』のユン・ヨジュン、以上の4人だ。

第93回アカデミー賞授賞式は日本時間4月26日に行われる。

Netflix映画『ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-』独占配信中
Netflix映画『ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-』独占配信中

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

清藤秀人の最近の記事