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A級復帰を目指す羽生善治九段(52)B級1組で2連勝から3連敗 澤田真吾七段(30)に敗れて黒星先行

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 9月29日。愛知・名古屋将棋対局場においてB級1組6回戦▲澤田真吾七段(30歳)-△羽生善治九段(52歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は21時15分に終局。結果は95手で澤田七段の勝ちとなりました。

 リーグ成績は、澤田七段は3勝2敗。羽生九段は2勝3敗となりました。

澤田七段、乱戦を制す

 澤田七段先手で、戦型は相掛かり。前例のある進行ながら序盤早々から激しい戦いとなりました。29手目の段階で澤田七段が2筋から飛車を成り込み、その代償に羽生九段は3筋で桂を得します。

 35手目、澤田七段は飛車が成り込んだ逆サイドの8筋に歩を垂らします。まだ前例通りながら羽生九段の手が止まり、12時、昼食休憩に入りました。

 再開後、羽生九段は垂らされた歩を取り払います。ここで前例から離れました。羽生九段は一時的に角桂交換の駒損になりながらも、48手目、飛車の転換で角銀両取りをかけて切り返します。

 澤田七段からは角を捨てて攻めていく順も見えます。しかし澤田七段は1時間17分考えて、じっと角を引いて逃げました。両者ともに熟慮を重ね、バランスが保たれた難しい中盤戦が続いていきました。

 56手目。羽生九段は澤田玉の底をにらむ角を打ちます。澤田七段は長考。そのまま夕食休憩に入るかと思われた17時51分、澤田七段は自陣の金を引いて受けました。その時点で持ち時間6時間のうち、残りは澤田1時間31分、羽生3時間19分。形勢はほぼ互角ながら、時間では羽生九段がリードしていました。

 58手目。羽生九段はここで攻めるか受けるか。夕食休憩をはさんで1時間13分考えた結論は、自陣に銀を埋める受けでした。しかしこの手を境に、形勢の針は少しずつ澤田七段に傾いていきます。

 66手目。コンピュータ将棋ソフトは羽生九段側の最善手を、自陣に桂を埋める手と示します。

中村修「△4一桂とか(ソフトの候補手に)書いてありますけど、いやあ、ここで△4一桂は我慢できるかなあ・・・。つらいなあ」

 受けの達人の中村九段がそう言うぐらい、つらい辛抱に見えます。ほとんどの人であれば、たとえ負けるにしても、攻め合いの手を指して一手違いに持ち込もうかという場面だったかもしれません。そこを羽生九段は3分の考慮で、じっと辛抱をしました

中村修「いやあ、受けますか・・・。受けますねえ」

 中村九段はそう感嘆の声をあげました。本局では羽生九段の辛抱は実りませんでしたが、こうした場面から何度も、信じられないような大逆転劇が生まれてきました。

 澤田七段はあせることなく、着実にリードを広げていきます。攻防ともに見込みがなくなったところで、羽生九段は投了。澤田七段の勝ちとなりました。

羽生「ちょっと引かれて手がなかったですか・・・」

澤田「いや、ちょっと・・・」

羽生「うーん、そうかあ・・・」

澤田「いやちょっと、何指されるか・・・」

 終局後はそんなやり取りが聞こえてきました。「そうかあ」と言う羽生九段の口調には、少し悔しさが表れていたようにも聞こえました。

 初のA級昇級を目指す澤田七段は、再び白星先行となりました。

 A級復帰を目指す羽生九段は2連勝からの3連敗で、黒星が先行する形に。昇級を争うには、やや厳しい星取りです。しかし5戦無敗の中村太地七段以下は1敗者がおらず、混戦模様。順位1位というアドバンテージを考えれば、羽生九段もまだ十分に可能性は残されているといえそうです。

 羽生九段は次戦、屋敷伸之九段と対戦します。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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