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元世界王者の伊藤雅雪 現役時代の印象に残った意外な相手とは

木村悠元ボクシング世界チャンピオン
(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

10月下旬、元ボクシング世界WBOスーパーフェザー級王者の伊藤雅雪(32)をゲストに、ボクシングコミュニティ「オンラインジム」主催のトークショーが開催された。

イベントでは、ボクシングを始めたきっかけから現役時代のエピソードを語ってくれた。

──ボクシングを始めたきっかけは。

伊藤:小学6年生から高校生まではバスケをやっていました。部活少年みたいな感じでしたね。高校もバスケの推薦で入学しましたが、3年でバスケに飽きて、フラフラしようと思ってました。

そんな時、魔裟斗選手が活躍していた時代のK-1を見ていて、キックボクシングをやろうと。たまたま従兄弟が伴流ジムに通っていて、「半年くらいでプロのライセンス取れるらしいぞ」と聞き、プロボクサーめっちゃかっこいいなと思って始めたのがきっかけです。

──運動は元々得意でしたか。

伊藤:そうですね。3歳から器械体操や水泳、バク宙とかもしてましたね。運動神経が良いのか分かりませんが、ひたすらスポーツをやってました。

──ボクシングを始めた当時はどうでしたか。

伊藤:とにかく新鮮でしたね。伴流ジムでは入ってすぐスパーリングさせてくれて、同い年ぐらいの子とお互い鼻血をだしながら殴り合って、終わった後に「ありがとうございました」という環境が新鮮でした。そんな非日常が始まり、一気にハマりましたね。そこからは、学校が終わったらすぐジムに行く生活に変わりました。

──始めてどのくらいで自分の才能に気づきましたか。

伊藤:どこまでトップに行けるか、という確信はなかったですが、人よりはできるなとすぐ思いましたね。自信満々というほどではなかったですが、プロテストは取れるだろうと思ってました。先代の会長も期待してくれて、実際に始めて3、4ヶ月でテストに合格しました。

──2009年にプロデビューして引き分け一つ挟み、順調に勝ち続けてきましたが、新人戦あたりで印象に残っている試合はありますか。

伊藤:引き分けだった溜田剛士選手との試合ですね。初めて自分の精神的な弱さを感じ、引き分けでしたが僕にとっては負けた試合でした。メンタル面を見つめ直すきっかけになりましたね。

──その後、新人王を獲得しましたが、やはりキャリアに与えた影響は大きかったですか。

伊藤:もちろん。まさか自分がなれるとは思ってなかったですし、両親からも大学4年生まででボクシングはやめろと言われていて、新人王になっていなかったら間違いなく辞めていたと思います。しかしなったことで、もう辞めてもいいかと迷っていましたね。

──両親はどのような感じでしたか。

伊藤:最初母は大反対でしたが、だんだん応援してくれるようになって、「辞めちゃうの?」みたいな感じでした。父は就職等のこともあり、新人王になったことで「辞める良い節目になったね」という感じでした。最終判断は自分でしたかったし、就職先も決まっていたので、ギリギリまで悩んだ末に、ボクシングを続ける決断しました。

──初めてのタイトル戦(内藤律樹戦)は、0対2という判定でしたが、振り返ってみてどうですか。

伊藤:負けたと思いましたね。良くてドローかなという印象でした。試合前けっこう強気な発言をしていましたが、本音ではそんなこと思っていなくて、当時の内藤選手は国内トップで、アマチュアのキャリアも凄くて、正直勝てないだろうという気持ちでした。

試合中は意外に中距離で戦っても「けっこうパンチ見えるぞ」と思ってました。5ラウンド終わって取れていると思っていたけど、微妙な感じでした。1者僕、1者ドロー、1者相手かなぐらいでしたね。

その後、6ラウンドで相手がギアを上げてきて、アタフタしているうちに終わってしまいました。ダメージこそなかったですが、迷いながら戦い終わってしまったなという感じでしたね。

写真撮影 秋葉蘭之助
写真撮影 秋葉蘭之助

──海外へ強化練習に行ってましたが、トレーニング環境など違いを感じたことはありましたか。

伊藤:僕にとってはですけど、ボクシングに集中できる環境を作れました。日本にいる時は、会食のお誘いや色んな人の目があったりしたんですけど、アメリカでは、ジムでトレーニングして自分で料理してという規則正しい生活になりました。

また、トレーニングパートナーが多くいるのは良かったですね。同じ階級の選手層も厚く、様々なタイプの選手とスパーリングできました。

──この選手強かったなと印象に残った選手はいましたか。

伊藤:メイウェザーの天敵と呼ばれたマイダナ選手の弟、ファビアス・マイダナですかね。階級はスーパーライトぐらいだったんですが、とにかくパンチがやばかったです。14オンスでのスパーリングでしたが、ガード越しでも、これもらったら死ぬなと思いました。

オスカル・バルデスとも良くスパーしていました。左フックのセンスが抜群でしたね。ボクシングキャリアを通して、試合も含めて足が揺れたとか、今の効いたなとかっていうのは一度もなかったんですが、彼とのスパーリングで初めて足がガタガタってなったのを覚えています。

──世界戦(クリストファー・ディアス戦)が決まったときは、どうでしたか。

伊藤:正直ディアスとはやりたくないと思ってました。戦績も良くKO率が高い選手と認識していましたが、フェザー級にいたので関係ないと思ってました。いきなりスーパーフェザー級にあげてきて驚きましたね。

──実際、彼と戦ってみてどうでしたか。

伊藤:彼というハードルを最高まで上げて練習・試合に臨んでいたので、それを上回るものはないなと途中で思いました。全てを捧げて練習してきたので、自分のボクシングが通用すると思いました。

もちろんリング上はキツかったですけど、現実的に捉えられていました。アウェイということもあり、最後まで勝敗が分からなかったので、とにかく12ラウンド攻め切らなければという気持ちでした。

──試合が終わった瞬間はどうでしたか。

伊藤:「勝ったぞ!」というより「やりきった」という感じでしたね。なので、後悔はないと思ってました。

──判定を聞いた瞬間、自分が世界チャンピオンになったときはどうでしたか。

伊藤:ヤバかったですね。頭の中が真っ白になって、夢のようで本当に信じられなくて。僕みたいな普通の人間が、自分の限界を越えて試合に臨んで、それで結果もついてきたので、越えられないものはないんだなと感じましたね。

元ボクシング世界チャンピオン

第35代WBC世界ライトフライ級チャンピオン(商社マンボクサー) 商社に勤めながらの二刀流で世界チャンピオンになった異色のボクサー。NHKにて3度特集が組まれ商社マンボクサーとして注目を集める。2016年に現役引退を表明。引退後に株式会社ReStartを設立。解説やコラム執筆、講演活動や社員研修、ダイエット事業、コメンテーターなど自身の経験を活かし多方面で活動中。2019年から新しいジムのコンセプト【オンラインジム】をオープン!ボクシング好きの方は公式サイトより

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