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ハリルジャパンを蹴散らしたライバルに直撃!! 韓国代表Jリーガーがホンネで語る日本サッカーの○と×

金明昱スポーツライター
左からチョン・ウヨン、チャン・ヒョンス、キム・ボギョン(筆者撮影)

「川崎の中村選手は技術が高い」

 最初に話を聞いたのは、柏レイソルに所属するキム・ボギョンだ。2010年に大分トリニータでプロキャリアをスタートし、12年途中から3年半は英プレミアリーグのカーディフなどで活躍。切れないスタミナ、中盤で動き回ってチャンスを作り出すスタイルから”第2のパク・チソン”と称され、韓国代表でも中核を担った。16年には母国Kリーグでもプレー。アジアチャンピオンズリーグ(ACL)を制してクラブW杯にも出場した歴戦のツワモノである。

――昨季途中にJリーグに復帰しましたが、その理由は?

キム・ボギョン(以下キム)  Jリーグでプロ生活を始めたこともあり、チャンスがあればまた日本でプレーしたいと考えていました。実際に柏からオファーがきて、思ったよりも時期が早まりました。過去、いくつかのJリーグのクラブでプレーしましたが、整った環境、熱いサポーターも好き。戻ってくるにあたっては、プレッシャーよりも期待のほうが大きかったですね。

――具体的にJリーグの良さはどこにありますか?

キム  アジアのリーグの中では、欧州のリーグに近いと思います。サッカーに関するインフラは、Jリーグが誇れるブランドになっていると思います。また、Jリーグでプレーする選手たちは、技術面を最も重要視していますよね。基本的にすべてのチームのレベルが高く、技術を前面に押し出したサッカーをするので、ファンもそうした部分に関心が高いと感じます。

――以前と今で何か違いは?

キム  日本の選手もどんどん海外でプレーするようになったせいか、現在のJリーグには「うまい」と感じる選手が少なくなった印象がありますね。私が日本に来たばかりの頃は、能力の高い選手がもっと多かった。ただ、日本の選手が海外に出るということは、その分、ほかの選手に出場チャンスが増え、実戦で経験を積むことができるので、Jリーグ全体のレベルは上がると思います。そこは一長一短なのかなと。

韓国代表経験もある柏レイソルのキム・ボギョン(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)
韓国代表経験もある柏レイソルのキム・ボギョン(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

――プレミアリーグを経験したうえで、Jリーグに足りないものは何でしょうか?

キム  正直、技術ではプレミアリーグにも劣るとは感じませんよ。Jリーグの選手の技術は十分に通用します。しかしながら、やはり身体的な部分で差がある。欧州の選手たちはフィジカルが強い。それにメンタルもタフ。Jリーグに求められているのは、フィジカルやメンタル面の強化ではないでしょうか。

――Kリーグもかなりタフだと聞きます。

キム  JリーグとKリーグのいい部分が合わされば、相当レベルの高いリーグができるといつも思っているんですよ。Kリーグは闘志や精神力が強い選手が多いので、そこに技術が加われば強くなる。Jリーグはその逆で、技術が優れているので、フィジカルとメンタル面が強化されれば、よりよくなる。日韓がお互いにいい部分を吸収し、発展していければいいですよね。

――韓国ではJリーグはどんな評価を?

キム  細かくて正確なパス回しからのビルドアップが優れているチームが多い、ボールの扱いがとてもうまいといわれています。私も昨季、ACLでJリーグのチームと対戦したときには、とてもやりにくくてイヤでした。

――では、Jリーグで「うまいな」と思う選手は?

キム  川崎フロンターレのMF中村憲剛選手は本当に技術が高い。あとは同じ川崎のMF大島僚太選手もうまいと思いました。自分もMFなので、同じポジションの選手に目がいきます。やはり、Jリーグはしっかりと攻撃を組み立てられる選手が多いですよ。

――今年も多くの韓国人選手がJリーグでプレーしていますが、その理由は?

キム  理由は大きくふたつあります。ひとつ目は、サッカー選手なら海外でプレーしたいという欲求。ふたつ目はKリーグとは違う環境でサッカーをしたいということです。先ほども言いましたが、Jリーグはサッカーに専念するための環境が整っていて、お客さんもたくさん入る。やりがいを感じられるわけです。

――でも、中国や中東のほうが待遇面はよいですよね?

キム  中東でプレーしている韓国の選手にお金の話を聞くと、待遇は「かなりよい」と言いますね。でも、ACLを勝ち抜けるようなレベルが高いチームはいくつかだけで、全体的に見ればレベルは高くないそうです。確かにお金も重要ですが、サッカー選手としての未来を考えたとき、中東や中国よりも、自分はJリーグでプレーするほうが成長できると感じますね。

「G大阪の遠藤選手は以前からずっとうまい」

 続いてはヴィッセル神戸のMFチョン・ウヨン。11年に京都サンガからプロデビューし、その後、ジュビロ磐田、ヴィッセル神戸でプレー。15年には神戸でチーム史上初の外国人キャプテンも務めた。中国の重慶力帆での2年間を経て、今季は神戸に復帰。いまや韓国代表の中心選手でもあり、昨年12月の日本戦では豪快な無回転FKも決めている。

神戸でプレーするチョン・ウヨン。ロシアW杯でも先発での起用が濃厚。無回転FKは本大会でも見られるか(写真:長田洋平/アフロスポーツ)
神戸でプレーするチョン・ウヨン。ロシアW杯でも先発での起用が濃厚。無回転FKは本大会でも見られるか(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

――中国から今季、古巣の神戸に戻った理由は?

チョン・ウヨン(以下、チョン)  さまざまなクラブからオファーがありましたが、神戸が一番自分のことを必要としてくれたからです。中国で貴重な経験をし、これからも同国でプレーすることも可能でしたが、やはり日本でプロデビューした立場としては、良い思い出がたくさんあるので迷いませんでした。

――Jリーグの魅力はどういうところにある?

チョン  リーグの運営システムがしっかりと機能していますし、練習環境や選手へのサポートも整っています。フットボーラーとしては、サッカーだけに集中できる環境がいいですね。

――サッカーの特長は?

チョン  技術的な部分やパスの精度が高い。韓国の選手たちが共通して感じていることだと思います。

――では、中国と日本とでは何が違いますか?

チョン  中国は想像しているよりもフィジカルが強く、パスのテンポが速くなっています。優れた外国人選手が各チームにいることで、中国人選手がそこに慣れてきていますね。個人の技術のクオリティーが上がってきていること、それにスピードも速くなってきている。ACLでも中国のチームが勝ち上がってくるようになりましたが、日本や韓国のレベルに近づき、追い抜こうという意思を感じられます。選手たちに自信が見られます。日本とはスタイルが違うだけで、技術で大きな差はなくなってきているのかなと。

――では、KリーグとJリーグの違いは?

チョン  私はKリーグを経験したことがないので、比較するのは難しいです。ただ、代表戦になると、日本は韓国のフィジカルに押される部分がありますね。一方で、韓国にとって細かいパス回しを得意とする日本のサッカーは脅威で、そこを特に警戒しています。

――やはり、フィジカル面では韓国選手のほうが強いと。

チョン  まあ、そこは選手によりますけどね。韓国にも日本にも、フィジカルの強い選手がいれば、そうでない選手もいます。JリーグでもKリーグでも、そこで生き残るためには、例えばスピードが誰よりも速かったり、身体能力やパスのセンスが抜群に高いなど、何かの能力に突出していないと生き残るのは難しい。どちらがよい、悪いというのではなく、日本と韓国ではサッカーのスタイルが異なりますから。

――Jリーグのレベルについてはどうでしょう。

チョン  まだシーズンが開幕したばかりなので、以前と比較するのは難しいのですが、神戸はネルシーニョ監督時代とは確実にスタイルが変わりました。昨年、天皇杯でベスト4に入ったと聞いたときは驚きました。強化がうまく進んでいる証拠ですし、もっと強くなろうという野望や欲があると感じました。そうしたチームのビジョンも神戸に行く決め手になったんです。今年は副キャプテンを任されたので、チームの軸になっていかないといけない。

――では、Jリーグでうまいと感じる選手はいますか?

チョン  MFレオ・シルバ(鹿島アントラーズ)がスゴくうまくて、やりにくい相手だなと思いました。日本人選手だと、MF遠藤(保仁)選手(ガンバ大阪)ですね。長らく日本代表でも活躍していましたし、私のデビュー当時から、中盤で巧みなパスでゲームを組み立てるのがうまいなと感じていました。あ、当時、神戸で一緒にプレーしたMF森岡亮太(アンデルレヒト)も技術があって、才能ある選手ですよ。今後も伸びる選手だと思います。今、ベルギーで頑張っていることも当然知っています。

――最後に個人的な目標は?

チョン  チームのタイトルを取ること、もうひとつはW杯に出ることですね。あと、日本語は完全に忘れてしまったので、またイチから勉強し直します(笑)。

「怖いなと思うFWは鳥栖のイバルボ選手」

 最後はFC東京に所属するDFチャン・ヒョンス。韓国では育成年代から”第2のホン・ミョンボ”と注目され、現在では韓国代表の最終ラインに欠かせない選手となった。昨季途中、中国の広州富力から、12年にプロデビューを果たした古巣のFC東京に復帰。今季はチーム史上初の外国人キャプテンを任されている屈強なストッパーだ。

韓国代表には欠かせないCBとしてロシアW杯に乗り込むチャン・ヒョンス(写真:長田洋平/アフロスポーツ)
韓国代表には欠かせないCBとしてロシアW杯に乗り込むチャン・ヒョンス(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

――今季はキャプテンを任されていますね。

チャン・ヒョンス(以下チャン)(長谷川健太)監督に呼ばれて「キャプテンをやってくれないか」と言われたときは少し動揺しました(笑)。でも、すぐに頭を切り替えて、「日本語ができなくても大丈夫ですか?」と聞いたところ、「問題ない」と言ってくれたので「一生懸命やってみます!」と。

――中国での3年半を経て、古巣に戻った理由は?

チャン  中国スーパーリーグは2017年にルールが変わって、外国人選手の上限を4人から3人に減らしました。その結果、試合に出られない状況が続いたので、自分を必要としてくれるチームに行こうと考えたのです。中東、韓国、日本など、いくつかのクラブが声をかけてくれましたが、やはり、日本でプロデビューしたときの印象が強く、また日本でサッカーを学びたいという思いが強かったので、FC東京を選択しました。FC東京でプロになり、サッカーに対する姿勢を学び、技術やフィジカル面で大きく成長させてもらったのは自分の財産。Jリーグはレベルも選手の技術も高いし、熱狂的なサポーター、スタジアムの雰囲気は最高です。選手としてはいつも気合いが入ります。

――チャン選手が感じるJリーグの特長は?

チャン  選手を中心に考えられた運営は、Jリーグが誇れるものだと思います。監督やコーチ、クラブ関係者もチームを支えるために一丸となっています。それにJリーグには選手会があるので、そこを通して、選手が求めることを改善していけるのもいい。

――中国はどうでしたか?

チャン  中国はブラジル代表のMFオスカル(上海上港)、FWフッキ(同上)など、レベルの高い選手がたくさんプレーしていますし、優れた外国人指導者もたくさんいます。中国人選手は質の高いプレーを間近で見て学ぶので、年々、成長していくのが手に取るようにわかります。

――プレースタイルなどJリーグとの違いは?

チャン  私が中国に行ったときは、日本とのプレースタイルがあまりにも違うので、慣れるまでかなり時間がかかりました。フィジカル、ボディコンタクトがとにかく激しい。私はKリーグを経験していないのですが、韓国もタフなのは代表でプレーしているのでわかります。ただ、中国も球際が強く、そこに負けないように意識していました。

――日本に戻り、物足りなさを感じた部分は?

チャン  いや、やはりJリーグのレベルは高いですよ。私が日本でプロデビューしたときも、成功する保証なんてありませんでしたから。それにJリーグは特にMFの選手たちのプレーの創造性とアイデアは、かなり優れています。日本の選手は周囲にいる選手をいかに有効に使うべきかという意識が強く、うまくスペースを作り出した後、そこに選手が走り込んで攻撃を展開します。そのパターンがいくつもあって楽しいですね。

――昨季Jリーグに戻ったとき、何か以前との違いは感じましたか?

チャン  各チーム、サッカーのスタイルとテンポの違いが明確になっていることがとても新鮮でした。ひさしぶりにFC東京に戻って試合をすると、例えば浦和レッズはボールをキープして試合を展開しますし、鹿島アントラーズやサガン鳥栖は前線からどんどんプレスをかけてきます。昨年J1だったヴァンフォーレ甲府は全体的に引いて守備重視のスタイルだったりと、目指すサッカーの形がたくさんあって面白いなと。

――でも、お金の面だけ考えると、中国がいいですよね?

チャン  それは中国に大物外国人がたくさんいる現状を見ればわかりますよね?(笑)。正直に言えば、サッカー選手は年俸の額で評価してもらうことが自信になりますし、プライドも持てます。それは誰もが抱く現実です。ただ、中国に残ることはできましたが、いくらお金をもらったとしても、プロ選手が試合に出られなければ、それはまったく意味がありません。

――DFとして、Jリーグで「怖いな」と思った選手は?

チャン  サガン鳥栖の(ビクトル・)イバルボ選手です。身体能力の高さもそうですが、チームへの犠牲も惜しまない。積極的にゴールを狙うだけでなく、FWなのにかなり後ろまで下がって積極的に守備してチームにも貢献する。

――日本人選手では?

チャン  う~ん、同じDFなら、チームメイトの森重(真人)選手や横浜F・マリノスの中澤(佑二)選手はフィジカルが強くていい選手です。

――昨年12月のE‐1東アジア選手権では韓国代表のキャプテンとして、日本代表を4‐1で下して優勝しました。両国ともにロシアW杯に出場しますが、日本代表に何か感じたことはありますか?

チャン  やはり日本には絶対に勝ちたかったです。試合をすれば勝敗がつくわけで、やるなら勝ちたい。あの試合は本来の日本代表の姿ではないとは思いますが、韓国の方が勝利に対する欲が勝っていたのでしょう。ほかの選手たちも体を張ってボールに食らいつく、球際で負けないという気持ちで挑んでいましたよ。勝利への執着心や精神力が強い。それが韓国サッカーの長所だと思っています。両国ともにW杯で勝利して、アジアのサッカーが世界に通用するところを見せたいですね。

<2018年3月19日号『週刊プレイボーイ』掲載>

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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