「闇バイト」~なぜ若者は騙されるのか?~
明日(4月18日、日曜日)早朝のテレビ番組で、『#闇バイト 「捨て駒」にされた若者たち』というタイトルの番組が放送される予定です。その中で筆者はテレグラムやシグナルと言った特殊なSNSと闇バイトの関りを論じています。ここではその関りを詳しく補足します。
特殊詐欺の手口が多様化し、当初のオレオレ詐欺に代表される、電話等で親族や銀行員、あるいは警察官を騙って、相手を信用させ、現金やキャッシュカードを騙し取る手口だけでなく、詐欺の枠を超えて、やはり電話等で相手を信用させて、資産状況や自宅に滞在している時間、家族構成を聞き出して、更に訪問の約束までさせて、その時間に合わせ強盗に入るというアポ電強盗も珍しくなくなりました。コロナ禍の現在では、外出するという機会が著しく少なくなったことから、高齢者を狙って、銀行員や警察官を装い、現金ではなく、クレジットカードを搾取する手口も増えています。コロナ禍を理由に、ATMで現金を下ろせなくなったとか、新しいクレジットカードに変更になったと騙し、相手のクレジットカードを目の前でハサミを入れるふりをして騙し盗るなどの手口です。
コロナ禍で高齢者がATM(現金自動支払機)のある場所に向かったり、呼び出すことが困難になったことで、詐欺を行うものが相手先に出向く手口が主流になりました。しかし、騙す相手と相対することになり、その分だけ逮捕される機会が多くなったのです。そこで悪賢い犯罪グループは、騙す相手と相対する役割を負う手下を雇う必要になりました。いわゆる「受け子」という役割です。しかし受け子をその犯罪グループの直接的な知り合いに依頼することはできません。なぜならば、逮捕される可能性がある受け子が知り合いであるならば、犯罪を依頼したグループにも司直の手が及ぶからです。したがって、まったく見ず知らずのものを雇う必要があります。そのためにSNSや掲示板で不特定多数に対して受け子を募るわけです。
SNSや掲示板で、「犯罪の片棒を担ぎませんか」では誰も応募することはないでしょう。そのような直接的な表現ではなく、「手っ取り早く大金を稼ぐ仕事」とか「即入金、簡単な仕事」と募集をかけて、連絡してきた人に言葉巧みに誘うのです。「闇バイト」という直接的な言葉を使って、「絶対に安全」とか「リスク管理万全」と書いて誘う場合もあります。このような募集はほとんどの場合、犯罪に関わる作業で、特殊詐欺の受け子等を担わされます。
最初から犯罪を意識して応募する輩はともかく、コロナ禍で、正当なバイトも少なくなり貧窮している一部の大学生等がその魔の手に染まる事象が増えています。貧窮しているとはいえ、なぜ怪しいバイトに手を染めるのでしょうか。それはまず言葉巧みに誘う話術にあります。振り込め詐欺で培われた話術で騙すのです。貧窮していることとその話術に惑わされて、つい誘いに乗ってしまうのです。あるいは問い合わせただけで、「すでに犯罪の片棒を担ぎ、共犯者である」として、先に連絡先や身分証明書のコピーを渡していようものなら、それを質に警察や学校、勤務先に訴えると脅し、実際に受け子等の役割を担わせるのです。
受け子は犯罪を指示するグループから指示を受ける必要があります。スマホでの電話やSNSを利用した場合、通信会社に記録が残り、受け子共ども犯罪グループも摘発される可能性があります。そこで犯罪グループは自分の保身のために、受け子に対して、記録が残らず、互いの通信相手も通信会社でさえ補足できないテレグラムやシグナルと言った特殊なSNSツールを利用します。これらのSNSは通信が完全に暗号化され、さらに通信相手も記録が残らず、文章でさえ、スマホの記録から消されるような仕組みになっています。犯罪グループは受け子が逮捕されることにより、受け子のスマホの解析から自分や犯罪グループにたどり着くことがないように、それらのSNSを使うのですが、受け子には「犯罪の記録が残らないから証拠が残らず逮捕されない」と受け子の不安を拭う手段に用います。
しかし、あくまでもテレグラムやシグナルは犯罪グループにとっての安全を確保するための手段であって、受け子の逮捕リスクを拭うものでは決してありません。またテレグラムやシグナルは手掛かりを残さないわけではなく、操作の手違いや設定ミスで記録が残ることもあり、確実にスマホのメモリ(記憶装置)から消去されることも保証されません。何よりも通信相手や内容は分かりませんが、テレグラムやシグナルを使ったという記録は残ります。それだけでも犯罪の証拠の一部になり得るのです。
とにかく、安易にうまい話に乗らない、興味本位で闇バイトに問い合わせたりしないという当然のことを守ることが肝要です。