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パスワードの誤解 ~使っているパスワードはこれですか?~

森井昌克神戸大学 名誉教授
(写真:イメージマート)

先般、過去、漏えいした日本のサイトに関係する、おそらく日本人が利用していると考えられるパスワードの分析結果が発表されました。これは情報通信会社の「ソリトンシステム」が毎年発表している調査です。

情報通信会社「ソリトンシステムズ」は日本人ユーザーによるとみられるパスワードの漏洩(ろうえい)実態を調査し、最も多かった「123456」、2位は「password」、3位は「123123」だったと公表した。同社は「誰でも推測できるパスワードは機能として安全ではない。簡単なパスワードを設定できないようにしてほしい」と改めて訴えている。

毎年、誰も思いつく単純なパスワードが多く利用されるという傾向になっています。これは海外でも同様で、上位に位置するパスワードは次の3つに分類されます。

1.数字の繰り返し、あるいは連続する数字、例えば 123456, 333333

2.キーボードの規則的配列、例えば zxcvbn, qazwsx

3. 各サービスの名前、例えば password, dropbox

これらは決して利用してはいけないパスワードと言えます。これらのパスワードは数十年も前からランキングの上位に位置し、ほとんど変わりません。にもかかわらず、なぜ上位のままなのでしょうか。近年の別な調査では、数百万種類あるパスワードで上位20位だけで10%近くあったという報告も聞いています。大雑把に考えても、上記のような安易なパスワードを用いている人が数十万人以上いることになります。それほど不注意な人が多数いるのでしょうか。

実はこれらの調査では、一つの重要な指標が抜けています。つまりそのパスワードが洩れているサイトの重要性です。最近ではほとんどのサービスに対して、IDとパスワードによって個人認証を行うことが普通です。その目的は個人情報を収集すること、あるいはそれを目的としなくとも、利用者の傾向や特性を調査するために、クッキーによる識別以上の正確さを得るためです。利用者にとって、重要性はなく、またそのパスワードが洩れたとしても実害が全くないと考えているサービスも少なくありません。そのようなサービスにはごく簡単なパスワードをつけることも多いでしょう。その結果が反映されていると考えるべきでしょう。

今年2019年4月にイギリスの国家サイバーセキュリティ機関であるNCSC(National Cyber Security Centre)は危険な、すなわち世界中の多くの人が利用しているパスワードのリストとして、世界中の機関との協力の上、10万個のリストを公開しました。

よく利用されるパスワードとしては、誰もが思いつく単語、例えば地名や国名、製品名等が多いようです。少し調査ですが、イギリスの国家サイバーセキュリティ機関の調査によるとtokyo, osakaという地名のほかに国際的にも有名なkyotoの他にhiroshima, nagasakiもよくつかわれています。会社名やゲームソフト、アニメもパスワードとしてよく使われます。この調査は世界全体が対象ですから、必ずしも日本国内で使われているとは限りませんが、国内での割合は少なくありません。

常にランキング上位に位置するパスワードとしてキーボードの配列に基づく文字列を上げました。このキーボード配列というものはパソコンの配列です。最近ではスマートフォンを用いることが多くなり、様々なサービスもパソコンではなく、スマートフォン主体で利用するようになりました。スマートフォンのキーボード、入力方式は国内ではフリック入力が主となっています。フリック入力は海外ではほとんど利用されていません。国内ではフリック入力の簡単さに基づいた文字列が今後増加していくことでしょう。その一つの証左として、4位に「qwerty」、8位に「1q2w3e4r」というパソコンのキーボード配列に基づくパスワードが入っているものの、例年上位だったasdfghjkは17位に下がっています。フリック入力に基づくパスワードとしては例えば、adgjmptwあるいはdmwajtgp等です。

神戸大学 名誉教授

1989年大阪大学大学院工学研究科博士後期課程通信工学専攻修了、工学博士。同年、京都工繊大助手、愛媛大助教授を経て、1995年徳島大工学部教授、2005年神戸大学大学院工学研究科教授(~2024年)。近畿大学情報学研究所サイバーセキュリティ部門部門長、客員教授。情報セキュリティ大学院大学客員教授。情報通信工学、特にサイバーセキュリティ、情報理論、暗号理論等の研究、教育に従事。内閣府等各種政府系委員会の座長、委員を歴任。2018年情報化促進貢献個人表彰経済産業大臣賞受賞。 2019年総務省情報通信功績賞受賞。2020年情報セキュリティ文化賞受賞。2024年総務大臣表彰。電子情報通信学会フェロー。

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