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信者ゆえの父の悲し過ぎる死、恐怖症のトラウマ。旧統一教会とは無縁の人たちが、宗教2世の心を救った!

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:イメージマート)

「父が『自分は癌です』と打ち明けたら、『もう病院には行くな』と言われました。さらに『日本にいると悪霊がつくから、清平(ちょんぴょん:韓国にある教団施設)に何度も来い』とも」

旧統一教会の信者である父と母、そして祖母。教団一家のもとで育った信仰2世の女性(仮名・山田さん)は、小学生の頃、信者として、あまりにも悲し過ぎる父の死を見てきました。

30代になってようやく、幼少期から教団に与えられたトラウマを乗り越えて、自分の心を取り戻し、普通の生活を送れるようになりました。そこには、教団とは無縁の人たちとの出会いが大きくかかわっています。

山田さんの家は資産家でした。教団内では「篤志家」と呼ばれて、多額の献金をする人として特別扱いされます。山田さんの両親は1980年代から信仰を始めたこともあり「家には壺だけでなく、多宝塔(6600万円)、釈迦塔まで霊感商法の商品で埋め尽くされていました。親は既成祝福(サタン世界で結婚した夫婦が参加する合同結婚式)を受けました」と話します。

「昔はお金持ちだったようですが、私が生まれた頃には多額の献金をしていて、小学校の時はビンボーな生活でした。教団への寄付などは1億円を軽く超えると思います」

「保険金はいくら入るの?」と訪問する信者

母は嫁いできた後に、祖母や父に誘われて入信しましたが、2人が亡くなると共に、教団から足が遠のきます。娘である山田さんも同じです。

それでも教団の関係者は、彼女の家を訪れてきたといいます。

「父や祖母が亡くなった後には『保険金はいくら入るの?』と信者は聞いてきました。昇華式(統一教会信者が亡くなった時に行われるお葬式)が終わったばかりなのに、もうお金の話をしてくる。母はぶち切れて『こないでくれ!』と追い返しているのをみたことがあります。今になって思うのは、人の心の痛みがわからない、お金目当てのとんでもない組織です」

文鮮明一家が住むイーストガーデンでみた、教組の姿は…

山田さんの父親は文鮮明教祖の家族が住むアメリカのイーストガーデンにもいったことがあると話します。

「多額の献金をしたためでしょうね。教団の幹部に父は大変かわいがられていました」

再臨のメシヤと信じている文鮮明教祖に直接会えるのですから、さぞかし感動したのかと思い尋ねると、そうでもなかったようです。

「教祖から『なんでお前たち、お金を持って来ないんだ!』と怒られたと言ってました。どうやら全員300万円の現金を持っていかなければならなかったようなんです。しかし父はそのことは聞いておらず、うつむくしかなかったそうです。帰国した父はその激高する教祖の姿を見て『まるでマフィアのボスみたいだった』と冗談まじりに話していたのを子供心に覚えています」

幼少期の体験でトラウマとなった、信者による連れ去り

彼女は信仰2世として教団内で育ちます。

「幼稚園ぐらいから、両親は伝道に行ってしまい、一人でずっと家にいて。ネグレクトな家庭でしたね。お腹が減ると、何か食べ物がないか、いつもあさっていました」

そうしたなかで「考えたら恐ろしいことですけど……」と、彼女がトラウマになった、ある事件を話してくれました。

「小学校前に上がる前でした。一人で遊んでたら、若い男性に『ちょっと遊びに行こう』といわれて『いやー!』っていったんですけど、無理やりに車に乗せられました。しかし夜になっても解放されず、子供心に『殺されるのかな』と思いました。しかし、真夜中に家の近所でポンと降ろされて、半泣きで家に帰ってきたんです。すると、両親が「なんで連絡しなかったの!」って、すごく怒るんです。必死に「連れてかれた!」と言ったんですけど、全然話を聞いてくれなくて。あとで両親も連れ回された事情がわかったのですが、その男性が信者だと知ると、何も言わなくなってしまったんです。その時に警察に通報してほしかった」

この経験は、長くその後の人生に暗い影を落とすことになります。

「子供頃から、恋愛したら地獄に行く。髪の毛を伸ばしたら悪霊(色情因縁)がつく。短いスカートはダメ。雑誌や漫画とか買っちゃダメ。音楽もサタン世界のものだからダメといわれ続けてきました。だから、友達の会話についていけなくて……。しかも、ビンボーでおさがりの服を着ていたので「変な服着てる」とイジメみたいなことはありました」

相当に心が追いやられていたことがわかります。しかし、一筋の光もあったと話します。

「でも、地元で数人だけ、私が統一教会の家とわかってるのに付き合ってくれた子たちがいて、すごく心が救われました。その子たちがいたから、たぶん自分はここまで生きてこれたのかなと思います

病をおして、清平に10回以上。父の早すぎる死

山田さんの心にはいつも「死」がよぎっていたともいいます。その影響を受けたものの一つに、40代後半で亡くなった父親の死の影響もあるかもしれません。

彼女が小学校の時でした。

「父が病院の検査で、大腸癌がわかりました。それを教団の上司に報告したところ『それだったら、清平に行け』といわれたそうです」

教団では病気になるのは、サタン(悪霊)が心に入ったから起こるものといわれています。筆者も信者時代、風邪をひいて高熱が出ても「善行をすれば、病気が治る」と言われて、街頭での伝道をフラフラになってさせられた経験があります。

特に清平(チョンピョン)にはテモニム(大母様・韓鶴子の亡くなった母親)の霊が降臨した人がおり、悪霊を払うなどの役事(除霊)を受けられるといわれています。

「父も信者ですから、清平で役事をうければ治るだろうと思っていたようです」

現在、清平では先祖解怨式などが行われていますが、当時は修練会が始まったばかりでした。

「建設中のものもあり、父は山道とか整備するのに、石などを運ばされました。病気でガリガリなのに。家に帰ってくるたびに、父は痩せていきました。ほんとにひどいなって」

当時は参加する人数も少なかったようで、その霊の降りた人物(テモニム)と直接話す機会もあったようです。

「父が『自分は癌です』と打ち明けたら、テモニムから『もう病院には行くな』と言われました。さらに『日本にいると悪霊がつくから、清平に何度も来い』とも。父は病をおして清平にいきました。母も付き添って10回以上は行っていると思います。もし清平に行かず、病院で手術すれば助かったかもしれないと思うと腹が立ちます」

日本に帰ってきたある日、父は倒れてしまいました。

「全身に癌が転移していて寝たきりになり、最後は早かったです。まだ40代でしたので」と悔しさをこめて話されます。

今度は、20代の頃、彼女も心の病で倒れる。

「20代の頃、職場で私は倒れました。過呼吸になったり、じんましんが出たり、急に発作が起こるんです。どうやらパニック障害だったようです。病院に行った時に先生から『もしかして幼少期に何かない?』と聞かれたんです。そこで『一家全員、統一教会に入っていて地獄でした』といったら先生(主治医)に『それだわ』といわれて。なんか雷落ちたみたいな気持ちなりました」

彼女は先生にすべてを打ち明けます。

「『ずっと一人で家にいたこと、男に連れ回された恐怖心、世間と違う常識を押しつけられてきた経験、それらの幼少期のトラウマがあとを引いて、大人になって病気となって出てきている。主にネグレクトが原因かもしれない。ネグレクトは虐待です』っていわれたんです」

先生の診断は、複雑性PTSD(心理的外傷後ストレス障害)でした。

恐怖心から男性と付き合えない日々が続く

教団では、男女間の自由恋愛は禁止と教えられますが、彼女の場合、幼少期の連れ回しのこともあって、その後はずっと男性恐怖症だったといいます。

「何人かから『付き合おうよ』っていわれるんですけど、罪悪感も重なって『もしかしたら地獄に落ちるかもしれない』との怖さから、なかなか恋愛ができなくて」

しかし30歳を過ぎた頃に、ある男性に出会います。

「他の人と比べて、話しやすかったんです。最初から『私、統一教会やっていて、こんな心の病気も持っている』って言ったら『別にいい、そんなの関係ないよ』っていってくれて。しかも男性恐怖症もわかってくれて、友達から始めようって。私もう、なんかその時泣きました」

それが今の旦那さんです。

「もしかしたら、今の夫がいなかったら、安倍元首相を撃った山上徹也容疑者のようには人殺しはしないけど、統一教会をすごく恨んでたんので、自分を殺していたかもしれません。でも、夫のおかげで、もう『死』について考えなくなりました。そういえば、主治医の先生も言ってましたね。『宗教2世の子には、パニック障害とかメンタル的な病気になる子も多いよ』って」

山田さんは今の旦那さんに会うまでには長い時間がかかりました。それに、彼女の心を本当に理解してくれる先生に会うまでも、何件も病院を回っています。

教団とは無縁な人たちによる支えの大切さ

小学校時代に色眼鏡をかけずに、友達になってくれた少数の友達や、心の状況を理解してくれた先生、何より、自分の生い立ちを話してもすべて受け入れてくれた旦那さん、こうした教団とは無縁な方々の力によって、彼女は自分自身の心を取り戻していきました。

最後に彼女は次のようにつぶやきます。

「山上容疑者は、たぶんそんな出会いがなかったんだろうな」

今、宗教2世の問題が大きく取り上げられています。彼女にように、本当の自分の心を取り戻すまでに長い時間がかかります。ですが、その道の合間に出会う良き人との心の触れ合いが、宗教2世の心を変えていきます。

これまでこの道は、一部の人しか通れないような狭き門でした。今こそ、宗教2世を救う道を社会全体で考えていかなければならない時がきています。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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