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【米グラミー賞】(後編)「日本の音楽はセクシーじゃない。沢尻エリカのように踊り狂え」ノミネート作曲家

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
2回目のノミネートをうけた日向大介氏。写真提供:hyperdisc record

 今日は第62回グラミー賞の発表!

 昨日の拙記事【米グラミー賞】(前編)日本の80年代の環境音楽が、欧米に衝撃を与えるワケで紹介した、日本の80年代の環境音楽のコンピレーションアルバム『Kankyo Ongaku: Japanese Ambient, Environmental & New Age Music 1980-1990』がグラミー賞をとるかが注目される。このアルバムに楽曲が収録されている作曲家に、ロサンゼルス在住の日向大介がいる。

 日向は日本の音楽シーンを一言でこう斬る。

「日本の音楽はセクシーじゃないんですよ」

セクシャルな誘惑がない

 なぜセクシーではないのか? その理由について、日向はリズム感のなさを指摘する。

「世界には、ルンバやサンバ、ボサノバ、レゲエ、リズム&ブルースなど、奴隷として移住したアフリカのヨルバ人に由来する音楽が様々あり、これらの音楽はみな腰を振るなどのセクシーな動きを誘発するリズムを持っています。しかし、日本の音楽はヨルバ人の影響を受けなかったため、ポップソングの基本であるセクシャルな誘惑が感じられないんです。思春期のティーンがはまるような誘惑がない。動きが止められないようなグルーヴをさせてくれないんです。そして、JPopのアーティストたちがそのことを問題視しているかというと、そうではない。今のままでいいと思っている。JPopのアーティストに話をきくと、彼らは開き直るんです。『僕らは日本のJPopをやっているんです。関係ないんですよ、アメリカは』と

 日本の音楽が世界という舞台でなかなか評価されないのは、1つには、そんなところに理由があるのかもしれない。

KPopは米市場をよく研究

 一方、KPopのアーティストはJPopのアーティストより、世界で受け入れられていると日向は指摘する。

「KPopは国内市場が小さいため、アメリカ市場を重視しており、アメリカでうける研究をよくしています。腰を動かす訓練もよくしている。日本のミュージシャンは基本的にあまり踊りに行かず、どちらかというと踊りをバカにしているところがあると感じています。踊りに対してもっと自分を解放する必要があるのではないでしょうか。聴いた瞬間に腰が動き出すような音楽なら、海外でももっと受け入れられるようになるかもしれません

ダンスフロアを初めて提供した小室

 ダンスを重視しないというJPopのアーティスト。もっとも、小室哲哉はダンスを上手く取り入れたと日向は評価する。

「小室君がヒットを飛ばす前のこと、一緒にロンドンに行ったことがあったんです。ロンドンで、僕たちはダンスフロアで踊っている若者たちを目にしました。小室君はそんな若者たちの姿に衝撃を受けたのかもしれません、こう言ったんです。『ダンスですよ、ダンスフロアをやりましょうと』と。その言葉通り、彼は、コンサートをダンスが踊れる場にすることに成功しました。ディスコには行けない若い女の子たちが彼のコンサートで踊りまくりました。コンサートでダンスフロアを提供したのは彼が初めてだと思います」

日向(写真左)は小室哲哉(写真右)と親交が深く、2016年に横浜アリーナで共演した。写真提供:hyperdisc record
日向(写真左)は小室哲哉(写真右)と親交が深く、2016年に横浜アリーナで共演した。写真提供:hyperdisc record

日本人のおかしな道徳観

 日向はまた、日本のメディアの報じ方も、日本のアーティストたちを踊りに対する解放に導いていないのではないかと考える。

「昨年、沢尻エリカさんが違法ドラッグの使用で逮捕された時、彼女がどこかのクラブで“狂ったように踊っていた”と報じられましたが、それに違和感を覚えました。狂ったように踊ってはいけないのでしょうか。アメリカのクラブでは狂ったように踊って楽しんでいる人を多く見かけます。狂ったように踊ることは全然悪いことではない。日本人にはおかしな道徳観があるというか、解放されていないところがあるように思うんです。みな日頃のストレスから解放されたくてコンサートやクラブに行っているんだから、もっと解放されていいのではないでしょうか」

おごりを見せていい

 日向は日本のアーティストたちが謙虚過ぎることにも疑問を感じている。

「日本のアーティストを見ると、コンサートではみなお決まりのように『みなさんのおかげでここまできました』と非常に謙虚な姿勢を見せます。でも、もう少しおごりを見せてもいいのではないかと思います。だって、“みなさん”より前に、アーティスト自身の才能が存在するわけですから。その才能に“みなさん”が反応し、アーティストを応援しているのですから。アーティストはもっとナルシシズムを肯定していいと思います」

 確かに、アメリカのアーティストを見ると、目立ってやるぞとばかりに、余すところなく自分のかっこよさを見せつけている。控えめさは一切感じられない。それだけ自身の才能に自信があるのだ。そんな彼らからは自ずとオーラやカリスマ性が漂う。それは日本のアーティストに大きく欠けているものかもしれない。

才能や努力をリスペクト

 アメリカとは異なる日本のシステムも、優れたアーティストの出現を困難にしているようだ。アメリカでは音楽マネージメントは通常15〜20%のコミッションなので、成功するとアーティストの側に巨額な収入が入り、社会的立場や地位が確立される。アメリカではそれだけアーティストの才能や努力がリスペクトされているといえる。

「アメリカのアーティストはみなしぶといんです。小さい頃から一生懸命努力して、最初はわずかなファンしか掴めなくても、ギブアップせずに続けて、やっと認められたような苦労人が多いからです。アーティストがギャラを多く得るのは当然と言えます」

 日向は今、アメリカでも通用するような日本人アーティストを育てている。生み出したいのは本物のアーティストだ。

「今、アーティストはライヴをして、パフォーマンスしてなんぼ。そこで大きな感動を与えられるのが本物のアーティストだと思う。大きな感動を与えるには多少いいくらいではだめなんです。メチャクチャよくないと。今回、グラミーの8部門でノミネートされているLIZZOは、20年ほど前、プリンスのバンドで歌っていましたが、車上暮らしも経験した苦労人です。そんな苦労に裏打ちされた彼女のパフォーマンスは大きな感動を与えています。本物は常に感動を与えるんです

 大きな感動を与える、本物の日本人アーティストがアメリカの音楽シーンに登場するのか? 日向のこれからの活動に注目したい。

(日向大介)

東京都大田区出身。学習院大学在学中、バークレー音楽院に留学。1986年、テクノポップバンド「INTERIOR」の活動でプロデューサー・アーティスト部門でグラミー賞にノミネート、2020年、2回目のグラミーにノミネートされる。小室哲哉、松たか子などのトップアーティストたちのプロデュースを手掛け、自身のユニットCAGNETで作曲、プロデュースしたTVドラマ「ロングバケーション」のサウンドトラックは、シリーズでサントラ史上最高の150万枚という大ヒットとなる。2016年、小室哲哉とともに、The Chemical Brothersと横浜アリーナで共演。2019年「New King of Comedy」で、主演、監督を手掛けるStephen Chowと再タッグを組む。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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