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新世代バイク揃い踏み!「鈴鹿8耐」40回記念大会に向けた激戦始まる!

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
鈴鹿8耐合同テストで走行する中須賀克行(#21)とジャック・ミラー(#634)

いよいよ7月27日(木)から開幕する「コカ・コーラ鈴鹿8時間耐久ロードレース(鈴鹿8耐)第40回記念大会」に向けたテスト走行が鈴鹿サーキット(三重県)で開催されている。全69チームが出場する今年の鈴鹿8耐には現役MotoGPライダーのジャック・ミラー、Moto2のドミニク・エガーター、さらにスーパーバイク世界選手権などからトップライダーが多数参戦を発表。その多くが鈴鹿サーキットを走行し、レース本番にむけた緊張感がいよいよ高まってきた。

3人とも優勝経験者、盤石のヤマハファクトリー

2015年、2016年の鈴鹿8耐で2連覇を達成した王者ヤマハ。今季はヤマハ発動機としては初の3連覇を狙う。チャンピオンチーム「#21 YAMAHA FACTORY RACING TEAM」の体制は非常に堅実だ。全日本ロードレース選手権から中須賀克行(なかすが・かつゆき)、スーパーバイク世界選手権からアレックス・ロウズ、マイケル・ファン・デル・マークを起用。ヤマハYZF-R1に乗り慣れたライダー3人トリオは全員が鈴鹿8耐の優勝経験者だ。

YAMAHA FACTORY RACING TEAMの中須賀克行
YAMAHA FACTORY RACING TEAMの中須賀克行

このラインナップは堅実というよりは強固といった方が正しいかもしれない。熟成が進み、心配事が少ないYZF-R1と結ぶ方程式としては最高値を弾き出す計算と言える。マイケル・ファン・デル・マークはホンダからの移籍だが、2度の鈴鹿8耐優勝経験を持ち、スーパーバイク世界選手権では表彰台目前の4位フィニッシュを3度記録している。また、アレックス・ロウズは同選手権で今季2回表彰台を獲得するなど勢いに乗った状態である。

今年はヤマハで走るマイケル・ファン・デル・マーク
今年はヤマハで走るマイケル・ファン・デル・マーク

また、エースの中須賀克行は今季の全日本ロードレース選手権では苦戦が続いていたものの、鈴鹿8耐を前に開催されたオートポリス戦では感涙の優勝を成し遂げ、勢いそのままに鈴鹿8耐に向けたテストに挑んでいる。ヤマハは最も優勝に近いチームと言えるだろう。

かなり本気モードのホンダ陣営!

ケーシー・ストーナー、ニッキー・ヘイデンなど話題の元ワールドチャンピオンを起用しながらヤマハに2連覇を許すことになったホンダにとって、今年は絶対に負けられない戦いだ。ホンダにとって「F1」「MotoGP(WGP)」と並んでモータースポーツ活動の中で高いプライオリティを置いているのが「鈴鹿8耐」だ。今年は第40回記念大会ということで注目度が高く、負けは許されない戦いだ。

#634 のホンダCBR1000RR SP2
#634 のホンダCBR1000RR SP2

今年からホンダはCBR1000RR SP2を全日本ロードレース選手権に投入。鈴鹿8耐は「#634 MuSASHi RT HARC PRO」「#5 F.C.C. TSR Honda」をトップチームとして位置付け、電子制御で武装されたニューマシンで挑む。ピットにはかつて2000年代にセブンスターホンダを率いた山野一彦氏をはじめ、かつてのワークスチーム参戦時代を彷彿とさせるメンバーの姿も。FIM世界耐久選手権は旧型CBRで戦ってきた「#5 F.C.C. TSR Honda」にもニューマシンが供給され、必勝体制を敷く。

ジャック・ミラー
ジャック・ミラー

その選手層も厚い。「#634 MuSASHi RT HARC PRO」は国内のエース、高橋巧(たかはし・たくみ)、Moto2の中上貴晶(なかがみ・たかあき)に加え、MotoGPライダーのジャック・ミラーが加入。MotoGPに飛び級で参戦し、優勝経験もあるミラーの参戦は今大会最大の話題だ。ミラーは初回のテストで2分8秒台の好タイムをマーク。さすがはMotoGPライダーといえる素晴らしい順応性を披露した。高橋巧が作ったベースに中上、ミラーが合わせる形でマシン作りを進めており、トリオとして以前よりも良い方向にまとまりつつあるようだ。

ランディ・ド・ピュニエ
ランディ・ド・ピュニエ

またFIM世界耐久選手権をレギュラーで戦う「#5 F.C.C. TSR Honda」は鈴鹿8耐に向けてライダー編成を全面的に変更。ただ、これは当初の予定通り。ファクトリーマシン級の特別なバイクを使う鈴鹿8耐にはビッグネームを揃えてきた。昨年までMotoGP、今季からスーパーバイク世界選手権に参戦するステファン・ブラドルに加え、Moto2に参戦中のドミニク・エガーター、そして、テストウィークになって急遽、元MotoGPライダーのランディ・ド・ピュニエが加入することが明らかになった。ド・ピュニエは今季、EWCのボルドール24時間、ル・マン24時間に「SRC KAWASAKI」から出場していた。誰もが驚くカワサキからホンダへの電撃移籍。2週連続でテストに参加していることからベースはド・ピュニエが作ると見られる。

2日目に2分7秒7をマークした#5のドミニク・エガーター
2日目に2分7秒7をマークした#5のドミニク・エガーター

スズキも新型GSX。ヨシムラはギュントーリ起用!

新型GSX-R1000を投入し、2009年以来8年ぶりの優勝を狙うスズキ。今年も

「#12 YOSHIMURA SUZUKI MOTUL RACING」と「#71 Team KAGAYAMA」がトップチーム体制となり、新型GSXはこの2チームにデリバリーされている。

#12 YOSHIMURA SUZUKI MOTUL RACING
#12 YOSHIMURA SUZUKI MOTUL RACING

第1回大会のウイナーでありプライベーターの代表格である「ヨシムラ」は1980年代以来にオイルメーカーのMOTULと組み、津田拓也(つだ・たくや)を軸に全日本ロードレースを戦っている。全面的なリニューアルが行われた新車投入の1年目ということで産みの苦しみがあるようだが、今年の体制は経験豊富なベテランを揃えてきた。英国スーパーバイク選手権を戦うシルヴァン・ギュントーリ、そして鈴鹿8耐を昨年も同チームで戦ったジョシュ・ブルックスが津田のチームメイトに。

シルヴァン・ギュントーリ
シルヴァン・ギュントーリ

鈴鹿8耐に初登場となるギュントーリは今年最も興味深いライダー。2014年スーパーバイク世界選手権でチャンピオンに輝いたライダーであり、当時のアプリリアはじめ同選手権だけでも5メーカーを渡り歩いた経験を持つ。鈴鹿8耐には初出場だが、ジェントルな性格のフランス人ライダーはチームに溶け込み、豊富な経験を活かしてマシン作りに尽力している。

また、毎年話題のライダーを起用する「#71 Team KAGAYAMA」は加賀山就臣(かがやま・ゆきお)と浦本修充(うらもと・なおみち)の全日本JSB師弟コンビに加えて、今年はマレーシア人でMoto2に参戦するハフィズ・シャーリンを起用。シャーリンは昨年Moto2で何度もシングルフィニッシュを果たし、ランキング9位を獲得。東南アジアのライダーの中では最もMotoGPに近いライダーと言える存在が、鈴鹿8耐を通じてどんなパフォーマンスを魅せるか、かなり興味深い。

Moto2ライダーのハフィズ・シャリーン
Moto2ライダーのハフィズ・シャリーン

カワサキはレースウィークに向けて虎視眈々

昨年の鈴鹿8耐で2位表彰台を獲得したカワサキ。今年はニューモデルZX-10RRを投入しているが昨年からの正常進化版と言えるマシン。スーパーバイク世界選手権で他を圧倒するポテンシャルを備えたマシンの素性は抜群だ。今季はホンダから移籍した渡辺一馬(わたなべ・かずま)に加え、昨年の2位の立役者レオン・ハスラムを軸にマシン作りを進めている。3人目のライダーとして起用されたのはマレーシア人のアズラン・シャー・カマルザマン。鈴鹿8耐の経験がある彼だが、鈴鹿のアジア選手権レース時に負傷しており、まだまだそのポテンシャルは未知数。渡辺とハスラムが中心のレースになるだろう。今季からカワサキに移籍した渡辺は今季2度表彰台フィニッシュを獲得するなど早くも順応し、全日本JSB1000ではランキング2位につけている。

ZX-10RRを駆るレオン・ハスラム
ZX-10RRを駆るレオン・ハスラム

今季はかつてホンダのエースナンバーという印象が強い11番のゼッケンを使用し、「#11 Kawasaki Team GREEN」として戦う。合同テストでは連日2分8秒台前半をマークし、飛び抜けたタイムを狙うことはないが、渡辺とハスラムのコンビネーションは抜群で、チームの雰囲気はメーカー主力チームの中で最も良いといえる。

4メーカー互角の勝負になるか?

今年の鈴鹿8耐は現役MotoGPライダーの参戦がジャック・ミラーだけに留まったが、各メーカー主力チームの組み合わせはこれまでになく興味深い。鈴鹿8耐は毎年のことながら急ごしらえのラインナップの中でいかに3人のライダーが合わせ込んでいけるかが勝利への鍵となる。特に今年はプロフェッショナルな仕事に徹することができるライダーが揃っている印象で、テスト中に転倒して大きな怪我を負うライダーも今のところおらず、順調にテストを進めている。

ただ、ホンダとスズキは鈴鹿8耐のデータがないニューマシンでの戦いとなるため、特に電子制御の部分では不安がある。トラブルシューティングが難しい電気的なトラブルの心配もあるし、電子制御のセッティングに関してはもっともっと走り込む時間が欲しいところだろう。

また、タイヤに関してはFIM世界耐久選手権のレギュレーションでグリップ力の高い16.5インチホイールのタイヤが鈴鹿8耐まで使用可能。今季から全日本ロードレースが17インチとなり、16.5インチの方はタイヤの開発がストップしている状況であるが、灼熱の鈴鹿8耐でのデータと実績は16.5インチの方が充実しているはずだ。開発が進められ、来季以降も全日本JSB1000でも使用する17インチを使ってレースに挑むか、それとも今回限りの16.5インチでこれまでの実績を戦力と捉えて挑むか。ここは各陣営でアプローチが異なるところとなっている。どちらが有利かというよりは最終的なパッケージの合わせ込みがレース結果を左右することになるだろう。

7月27日(木)から始まる「鈴鹿8耐」本番に向けて、抜け出してくるメーカーはあるのか?ドラマの筋書きがレースウィークが始まるまで描けないのが今年の鈴鹿8耐だ。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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