英国とEUの第2段階交渉、移行期間めぐり早くも暗礁に乗り上げ(1)
英国のEU(欧州連合)離脱をめぐって両者の専門家チームによる第2段階交渉が2月6日から始まった。しかし、双方の主張はかみ合わず非難の応酬合戦となり早くも暗礁に乗り上げている。3月には移行期間交渉で合意を目指すという当初の目標も7月にずれ込むという論調が地元英国メディアで出始めた。ロンドンの金融街(シティ)を中心とした経済界や政界でも離脱交渉の先行きが一段と不透明となったことで英国経済への打撃を懸念する声が強まり、テリーザ・メイ政権に対する風当たりは日増しに高まっている。
これより先、EUは1月29日に英国との移行期間協議に関する交渉ガイドラインを発表した。内容は(1)期間中、「人の移動の自由」のEUルールを認めなければEUの関税同盟や単一市場へのアクセスは認めない(2)移行期間は2020年12月末までの21カ月とし英国の24カ月を下回る(3)第1段階協議の合意内容の完全に実施する(4)期間中、英国は他国との貿易交渉はできるが調印はできない(5)期間中、新しいEU法・ルールの決定にあたり意見を述べることはできず、決定を受け入れる―というもので、英国にとってはかなり不利な要求ばかりだ。
一方、英国は(1)移行期間中、英国はEUにとどまりEU法に従うが、期間中のEUからの移民はそれ以前のEU市民とは別扱いし入国審査を受ける(2)期間中のEUの新法やルールには従わない―と提案し、EUに激しく応酬している。英紙ガーディアンも2月13日付で、「英国の提案に対しEUのブレグジット首席交渉官であるミシェル・バルニエ氏は驚愕した。しかし、その一方で、英国側はEUが驚いたことに驚いた」と報じたほど、両者の関係が険悪な状態に陥っている。
専門家チームによる第2段階交渉が始まった2月6日にも英紙デイリー・テレグラフはEUのリーク文書を入手し、「EUは移行期間中、英国がEU法・ルールに従わなければ、移行期間の2年間、単一市場へのアクセスを拒否するなど制裁措置を取る方針だ」とスクープ記事を報じた。EU法・ルールに従うというのは移行期間中、欧州司法裁判所(ECJ)の判決が英国法より優先されることを意味する。また、同紙は「制裁対象にはロンドンの金融街や英・EU間の貿易、英国の旅客機のEU域内の空港への着陸などが含まれる」と伝えたことから、両者の交渉は早くも暗礁に乗り上げている。
こうした両者の対立の波紋はEU加盟国にも広がっている。テレグラフ紙は2月10日付で、「EU加盟国はEUのバルニエ首席交渉官が英国をノーディール(自由貿易協定も何もかも合意できない強硬離脱)に追いこもうとしていると懸念を示している」と報じた。また、英国内でも経済界から懸念の声が高まっている。英夕刊紙イブニング・スタンダードは2月8日付で、「移行期間協議は7月まで遅れる見通しだ。経済界は3月までに合意しなければ英国から企業が流出すると懸念示している」と警告している。英経済紙フィナンシャル・タイムズは1月28日付で、「英経済界アンケート調査で3分の2以上が離脱交渉に悲観的」と報じていたが、移行期間協議の遅れでこうした悲観的な見方が一段と現実味を増してきたといえる。
一方、イングランド銀行(中央銀行)も2月8日に発表した最新の経済予測である四半期インフレ報告書で、「英国の大手企業は英国のEU離脱懸念から2017年上期(1-6月)の投資額をそうでなかった場合に比べて3-4%削減したが、2018年上期(1-6月)はさらに1.5-2%削減する見通しだ」と警告した。テレグラフ紙も2月5日付で、「ロンドンの金融街はノーディールで打撃」と今後の交渉の行方について悲観的に報じている。(続く)