アマゾン配達員がついに「労災認定」 世界中で「同時ストライキ」の計画も浮上
フリーランスで働く人が増えている。コロナ禍ではウーバーイーツといったフードデリバリーだけでなく、デザイナーやウェブライターなどのクラウドワークもひろがった。実際の数字を見てみるとその拡大傾向がよくわかる。ランサーズ株式会社の調査によれば、2021年10月時点で1,577万人がフリーランサーとして働いており、これは2015年の937万人から大幅に増えている。
フリーランスやギグワーカーのような個人事業主として働く人の中には、配送員も多く含まれている。ネット通販で商品を購入する際にその荷物を自宅のドアまで届けてくれるのは必ずしも大手宅配業者の社員ではなく、そこから配送業務をアウトソースされ自身で軽バンを用意して荷物を配っている個人事業主の場合が多い。
彼らは「個人事業主」や「フリーランス」であるがゆえに、最低賃金や労災、有給休暇など労働者に与えられる様々な保護の対象外となっているが、実際には、契約上フリーランスとなっていても働く側にほとんど裁量がなく、実態は会社に雇われて働く労働者と同じ場合が少なくない。
そのようななかで今回紹介する、アマゾンの下請け企業との業務委託契約を結んで商品配達をしていた男性に対して労災が認められたというケースは、プラットフォームを通じてギグワークを行う人々にとって大きなインパクトを与える事案である。事案の詳細や今後の動向についてみていきたい。
なお、以下に紹介する労働者の勤務実態については、10月4日付けのアマゾン労働者弁護団による「すべてのアマゾン配達員を「労働者」として雇用することを求める弁護団声明 ―アマゾン配達員に対する労災認定を受けて―」を参照した。
アプリで指示を受けて1日100件の配送を行う個人事業主
今回、労災認定を受けたのは、アマゾンジャパン合同会社(以下、アマゾン)から商品配送の委託を受けた株式会社若葉ネットワークと業務委託契約を結んで働いていた60歳代の男性Aさんだ。Aさんは2019年から個人事業主としてアマゾンの商品を個人宅などへ配送する業務に従事していた。
個人事業主つまりフリーランスとして配送業務を行うと聞くと、あたかも自分自身で働く時間や個数を決定できると思われるかもしれないが、実態はそうではなかったようだ。まず、Aさんはアマゾンから提供されたアプリから指示をうけて、1日あたり100件以上の配送を担っていたという。また、Aさんが業務委託契約を結んでいる若葉ネットワークからは出勤日や始業時間が決められており、毎日、10時間から12時間の長時間労働も恒常化していたようだ。形式的には「自由」な個人事業主だったが裁量もなく、実態はほとんど労働者と同じような働き方だったと言えよう。
そんな中、Aさんは2022年9月に、アマゾンの商品を配送中に階段から転落して腰椎圧迫骨折の大けがを負ってしまった。この怪我のせいで約2ヶ月間仕事をすることができなかったというが、契約上は個人事業主だったため、企業に雇われている労働者が対象となる労働災害保険の対象外となり、休業補償などを受けられない状態にあった。
ただAさんは、労働組合・アマゾン配達員労働組合横須賀支部やアマゾン労働者弁護団の支援を受け、昨年11月に自分は労働者として扱われるべきだと主張して、2ヶ月間の休業補償などを求めて労災を申請。そして、横須賀労働基準監督署長は先月26日、Aさんの勤務実態を個人事業主ではなく労働者と判断して、労災を認定した。アマゾン労働者弁護団によれば、Aさんのような個人事業主の配達員を労働者として扱って労災が認められたのは初めてだという。
参考:読売新聞:アマゾン配達中にけが、個人事業主でも労災認定…1日100件以上配送など「労働者」に該当
プラットフォームに支配されるフリーランサー
コロナ禍で急速に拡大したフードデリバリーやウェブライターやデザイナーなどのクラウドワークを含めたフリランサーの仕事は、自分で仕事内容や働く時間を決められる「自由」な働き方に魅力を感じて始めた人が少なくない。特に日本であれば正社員の仕事は過労死するほどの長時間労働が当たり前な状況で、自分の好きなときに稼ぐことができるというフリーランスやギグワークのイメージに惹かれても不思議ではないだろう。
しかし、そういったイメージとは裏腹に、特にプラットフォーム型の仕事ではプラットフォームを運営する企業が設計したアルゴリズムに基づいてなされる業務指示を遂行するだけのフリランサーは珍しくない。例えばウーバーイーツの場合、配達リクエストを複数回拒否することで一定期間配達が制限されるペナルティーを受ける可能性があるため、基本的にはすべての配達リクエストに応じざるを得ず、配達員が自由に配達を選ぶことができると言うのは難しい。
さらには、そもそもある配達を行った場合の報酬がいくらになるのかは事後的にしかわからず、しかも報酬の決定方法も開示されていないため、業務委託契約の内容はウーバーイーツ側が一方的に決めることになる。このような非対称な関係では、配達員に自由や裁量があるとは言い難い。
参考:「ウーバー配達員「おそらく死んでも無視される」。労働組合が訴える4つの問題点」
またAさんのアマゾンの場合でも、配達の指示はAさんが業務委託契約すら締結していないアマゾンからアプリを通じて行われ、作業の進捗状況の管理や業務に対する評価もなされているという。
このようなプラットフォームを通じたアマゾンもしくはその下請けの配送会社による業務指示を踏まえて、労働基準監督署はAさんが労働者と扱われるべきだと判断したと考えられる。そうであれば、今後はAさんにとどまらず、同じ様にアマゾンの指示を受けて働くアマゾンフレックスの配達員や、ウーバーイーツなどのアマゾン以外のプラットフォームの元で働く配達員も「労働者」と扱われていくことも考えらえれる。
世界で問題になるアマゾンでの働き方
Aさんのように怪我をしても一切の保障がない、また配達個数がどれだけ多くなり、再配達を繰り返しても日当が同じで負担だけが増えていく状況に対して、長崎でアマゾンの下請け企業と業務委託契約を結んで配達員として働く33人が、先日、報酬金の未払いを理由に業務をボイコットした。
参考:アマゾン配達員33人がボイコット、配送遅れる 報奨金未払いに不満
労務提供の拒否という意味でこれは実質的にはストライキだが、ストライキの動きは世界中で広がっている。
アメリカでは今年5月、国内で初めてアマゾン配達員が労働組合を結成した。アメリカにはアマゾンから配送を請け負う企業が3000あるとされており、その内の一つであるカリフォルニアの企業で働く84人の配送員は、アマゾンとの直接交渉を求めてストライキに突入している。
参考:‘We’re going to keep fighting’: delivery workers stand up to Amazon
また、アマゾンの倉庫でも問題が起こっている。アメリカのアマゾンの倉庫では2022年の1年間で3.9万件の労災が起こっているが、この労災発生率は他社の倉庫よりも70パーセントも多いとされている。
参考:Michigan Amazon Workers Stage Largest Delivery Station Strike Yet
このような倉庫での危険な作業の解消や、そもそもインフレ下で生活できないほどの低賃金の引き上げ、さらには倉庫内で求められる過酷な作業スピードの改善などを求めて、今年7月にはアマゾンプライムウィークに合わせて、イギリスやドイツの倉庫で働く労働者がストライキを行っている。
参考:Amazon Workers Strike in U.K. and Germany on “Prime Week”; Delivery Drivers Strike in SoCal
そして、昨年11月末には最大の商機であるブラックフライデーに合わせて「Make Amazon Pay」というキャンペーンが労働組合やNGOを中心に全世界で展開され、アマゾンは2022年第2四半期には3ヶ月間で1210億ドル(約18兆円)も売上があるにも関わらず、労働者の実質賃金が下がっているといった問題を提起した。
今年も11月末に同様のキャンペーンが開催予定で、日本からも環境団体や労働組合、私が代表を務めるNPO・POSSEもアクションへの参加を予定している。
日本のアマゾンでも4%の賃上げが実現
日本でも倉庫で働く労働者がインフレ下での賃上げを求めて労働組合を通じて交渉を行った結果、4%の賃上げを勝ち取ったケースもある。交渉に参加したのは関西にあるアマゾンの倉庫で働く20歳代の男性だ。彼は派遣会社を通じて、アマゾンの倉庫へ派遣されていたが、1時間で400個のペースで荷物を詰めなければいけないという過酷なノルマを課されていた。
しかしそれでも時給は最低賃金プラスアルファの1150円にとどまっていたため、一人からでも加入できる労働組合「総合サポートユニオン」に加入し、派遣会社と交渉した結果、賃上げを約束することができた。
参考:「私たちはロボットじゃない! 世界で広がるAmazonストライキ、ついに日本上陸」
日本のこのような動きは世界でも注目を集めており、英語のウェブ媒体でもその内容が取り上げられている。
続く労働問題、拡大する労使紛争
プラットフォームを経由したギグワークの働き方はますます劣悪になっている。アマゾンの配達員は2年前には1日120個だった荷量がアマゾンがAIを導入して配送先を決める方式になった後に1日200個となり業務内容が過酷になっただけでなく、報酬が1個いくらといった歩合制から日当に変更されたことで、運んでも給料が増えることはなく、ただ過酷になっただけだという。
このような状況下で過労運転や自損事故が起こっているようだが、配達員に指示を送っているアマゾン自身はまだその責任をとっていない。
それでも、配達員や倉庫の労働者による問題提起がきっかけとなり、会社側や政府も対応の必要性に迫られている。同じような問題を抱えている人がいれば、労働組合や労働NPOなどにご相談いただきたい。
無料労働相談窓口
*なお、私が代表を務めるNPO法人POSSEも、フリーランサーやギグワーカーの方向けの専門窓口(公式LINE ID:@390wgvbr)を設置し、フリーランサーの方向けの労災の申請やフリーランス新法の活用方法などに関するアドバイスを提供しています。ぜひこのような窓口もご活用ください。
03-6699-9359(平日17時~21時 日祝13時~17時 水曜・土曜日定休)
メール:soudan@npoposse.jp
フリーランサー/ギグワーカー専用相談 公式LINE ID:@390wgvbr
団体公式LINE ID:@613gckxw
*筆者が代表を務めるNPO法人。労働問題を専門とする研究者、弁護士、行政関係者等が運営しています。訓練を受けたスタッフが労働法・労働契約法など各種の法律や、労働組合・行政等の専門機関の「使い方」をサポートします。
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