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カネロが圧勝で3階級制覇達成 3度のダウンはすべて急所へのボディ打ち

木村悠元ボクシング世界チャンピオン
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 ボクシングのWBAスーパーミドル級タイトルマッチが15日(日本時間16日)にアメリカのニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで行われた。ミドル級2団体王者のサウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)がミドル級からひとつ階級を上げて、王者のロッキー・フィールディング(英国)と戦った。この試合では王者のロッキーが185cmの長身に対して、下の階級から上げてきたカネロは173cmとなる。そのため両者の体格差がキーポイントとなった。結果的にはカネロが体格差を物ともせず、計4度のダウンを奪う圧勝劇で3ラウンドTKO勝利。3階級制覇を達成した。しかも、3度のダウンはすべて急所であるレバーへのボディ打ちで相手をリングに沈めた。

階級を上げることで体格、リーチ、パワーが変わってくる

 ボクシングは階級別に分かれている。一番下の階級は、ミニマム級 で105ポンド(47.61キログラム)、そこから軽量級は2キロ前後で階級が変わっていく。最重量級の無差別級のヘビー級まで17の階級に分かれている。ひとつ階級が変わるだけで、体格やリーチ、パンチ力、耐久力などが大きく変わってくる。階級を変えることで、無敵だったチャンピオンが勝てなくなる事がボクシング界では珍しくない。そのためボクサーは勝つために過酷な減量をして、少しでも体重を落として軽い階級で戦おうとする。今回のカネロの場合は主戦場であるミドル級の160ポンド(72.57キログラムまで)から、スーパーミドル級の168 ポンド(76.20キログラムまで)にひとつ階級を上げてのチャレンジとなった。ミドル級でも小柄な部類に入るカネロが、スーパーミドル級で、しかも身長差が12cmもあるロッキーにどう戦うかが注目された。

身長やリーチを超えたカネロの戦い

 階級を変えて一番の大きな違いになるのは身長とリーチ差だ。リーチが長いと自分のパンチが当たる距離で、相手のパンチが当たらない間合いで戦える。そのため、ボクシングではリーチがある方が有利に戦える。また相手の身長が高いとパンチを当てる的が高くなるため、強いパンチを打ち込みにくくなる。上に打つより下に打ち降ろす方が強いパンチを打ち込める。そのためボクシングでは、基本的にはリーチや、背が高い方が有利と言われている。しかし、これはあくまで一般常識的な話であり、必ずしも背が高い=有利とは言えないところがボクシングの奥深いところだ。カネロの場合は前に出る圧力と鋭い踏み込みがあるので、相手との距離を一気に潰してパンチを打ち込むことに優れている。今回の試合でも前に出ることで相手の距離を潰し、自分の得意な距離に持ち込み強いパンチを打ち込んでいた。

いくら鍛えても効いてしまうレバーブロー

 前に出る選手は相手のリーチを殺して戦うことができる。ボクシングは距離感のスポーツだが、中に入り込むことで自分のパンチが当たり、相手のパンチが伸びきる前の位置で打つことができる。しかし、相手の中に入り込むのは被弾も覚悟しなければならないので、勇気がいることでもある。今回の試合でも前に出るカネロに対してロッキーは下がって対応していた。ボクシングの場合は基本的には前に出る選手の方が強い。前進しながらパンチを打ち込むのに対して、下がりながらパンチを出すのは難しい。また下がりながら動く動作はスタミナを著しく消耗する。そのため今回の試合のように前に出るカネロと下がるロッキーのような試合展開になると、長身のロッキーは、どんどんペースを握られ、カネロのペースになっていく。また、カネロはメキシカン特有のボディ打ちが非常にうまい。上下の打ち分けが非常に巧みなので、意識が散らされてパンチをもらってしまう。急所であるボディブローは腹筋をいくら鍛えていても効いてしまうのだ。適切なタイミングでボディをもらうと、どんなに強い選手でも倒れてしまう。今回の試合でも4度のうち3度のダウンは、すべて急所であるレバーブローであり、メキシカンが得意とするパンチだった。

中重量級の中心は間違いなくカネロ

 今回のカネロは圧倒的なボクシングでスーパーミドル級のタイトルを獲得した。前回のゴロフキンとの試合に勝ったことが相当な自信になったのだろう。ゴロフキンはパウンド・フォー・パウンド(階級を越えたボクシング界最強ランキング)でも上位のランキングにつけていた。その選手に勝ったことで、知名度でも人気面でも頭ひとつ抜けた存在になった。ボクサーに自信は不可欠だ。自分のボクシングに自信を持っている時は独特のオーラが出る。その雰囲気に対戦相手も圧倒される。そのため今ノリに乗っているカネロが負けるのは想像できない。気になる今後については、5月にリングに戻ってくるようだ。ミドル級に戻ってゴロフキンとの再戦か、それとも他団体のIBF世界ミドル級王者のダニエル・ジェイコブスとの対戦か。はたまたスーパーミドル級のタイトルを防衛していくのか。今後の相手や階級選定も非常に注目だ。層が厚い中重量級の中心は間違いなくカネロだ。しばらくは、彼を中心に進んでいくだろう。

元ボクシング世界チャンピオン

第35代WBC世界ライトフライ級チャンピオン(商社マンボクサー) 商社に勤めながらの二刀流で世界チャンピオンになった異色のボクサー。NHKにて3度特集が組まれ商社マンボクサーとして注目を集める。2016年に現役引退を表明。引退後に株式会社ReStartを設立。解説やコラム執筆、講演活動や社員研修、ダイエット事業、コメンテーターなど自身の経験を活かし多方面で活動中。2019年から新しいジムのコンセプト【オンラインジム】をオープン!ボクシング好きの方は公式サイトより

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