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アルバルク東京からレバンガ北海道への移籍は、大学時代に味わった苦い経験が決断を後押し

青木崇Basketball Writer
伊藤は新天地でもリーダーシップを発揮 (C)LEVANGA HOKKAIDO

 プレシーズンゲームの関東アーリーカップで、伊藤大司は一度もアルバルク東京のベンチからコートに出ることがなかった。開幕まで1か月弱の時点で完全なローテーション外とわかってしまう状況は、今季から指揮を執るルカ・パヴィチェヴィッチコーチが伊藤にプレータイムを与える可能性の低さを暗示するもの。コーチが変わったことによって出場機会を失う選手が出てくるのは、プロの世界にだけでなく、アメリカのカレッジバスケットボールのNCAAでも起こる。当然、Bリーグも例外ではない。

 チームに残りながら次のチャンスが巡ってくるのを待つか? それとも、出場機会を求めて動くか? 伊藤が選んだのは、出場機会を得られる可能性のあったレバンガ北海道へのレンタル移籍だった。

「アルバルクという本当に素晴らしいプログラムの中で残るという選択肢というのは、僕のレジュメの中できれいに残ると思うんですよ、そこで8年間プレーするということは。あの時もそうですけど、プレーしたいということと、プロたる者は毎日バスケットボールをやる中でやりがいを感じたいというのがあります。試合に出るために練習も一生懸命やるし、チームを勝たせたいために試合も出たいし、練習もやるということ。その部分でもっとチームの成長に、勝ちに貢献したいという部分で…。もちろん、残ったら残ったで”大司の役割があるんだよ”ということも言われたんですけど、やはりコート上で発揮したいという部分が強かった」

 伊藤は中学卒業後に渡米し、モントロス・クリスチャン・スクールでケビン・デュラント(ゴールデンステイト・ウォリアーズ)と一緒にプレーし、エリック・レベノ(現ジョージア工科大アシスタントコーチ)の勧誘によってポートランド大に進学した経歴を持つ。1年生から先発PGとして活躍してきたが、3年生のシーズンが始まる前にジュニア・カレッジからT.J.キャンベルが3年生として編入すると状況は一変。先発の座を奪われただけでなく、2年生時の27.9分から8.7分まで出場時間が激減し、4年生になっても11.4分しか得られなかった。

 先のコメントにあるあの時とは、この出来事を意味する。NCAAでは出場機会が恵まれないことやコーチが変わったことを理由に、選手が転校していく例がたくさんあるが、1シーズン試合に出られなくなることを覚悟しなければならない。当時の伊藤は我慢してチームに残ったが、今回は出場機会を求めて移籍という決断を下した。

「あの時もジュニア・カレッジからTJが入ってきて、ここでも若い2人が入ってきてという感じでプレータイムが減った。正直うまいヤツはアメリカにもたくさんいますけど、そこで(そういった選手がきた時に)自分がどういった対応をするかというのは、あの時が正直初めてだった。高校の時も試合に出させてもらっていたから、結構なショック、挫折だったんですけど、今回も同じような形で入ってきた。もちろん残ってという部分もあったんですけど、何度も言っているように”やりがい”、”コートでプレーしてなんぼ”ということが強かったので、この決断に至りました」

 高校や大学でも激しい競争が日常のアメリカでやってきた経験は、伊藤にとって何物にも変えられない財産。ポートランド大での苦い経験がなければ、アルバルクで直面した事態にどう対処したらいいかわからないまま、やりがいを失ったまま時間だけが経過していたかもしれなかった。しかし、レバンガに移籍したことでプレーできる喜び、チームの成長に貢献したいというやりがいを感じられるのは、ポートランド大の3、4年生時にあった気持を決して忘れなかったことが大きい。

 10月21日の新潟アルビレックスBB戦の4Q残り1分で17点差を逆転する3Pシュートを決めて勝利に貢献するなど、レバンガにとってはすでに計算できる戦力となっている。「まだまだですね。プレースタイルの違いもありますし、何から何まで。追いついていない部分はみんながカバーしてくれていますからまだまだ。もっと学ばなければいけないですし、もっと成長しなければならない」と語るように、伊藤は現状に決して満足していない。11月17、18日に古巣アルバルクと対戦した際はいずれも0点、2アシストに終わったこともあり、「今週末のような試合になってしまったら、移籍した意味がないと思っていますので、もう1回目を覚まさなければ…。今回のホームカミングで恥ずかしい思いをしているので、もう一度やり直しですね」と続けた。

 とはいえ、この移籍は正しい決断だったと言っていいだろう。獲得したレバンガにしてみれば、アメリカとアルバルクでの経験によってもたらされるリーダーシップ、同じポジションでプレーする多嶋朝飛と松島良豪にとっていい刺激となっている点でもプラス。プロとしての自身の価値を高める新たな機会を得た伊藤が、新たなチャレンジの連続に充実した日々を送っているのはまちがいない。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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