【JAZZ】VJOの新作にはバンドを見守り続けた恩師のムチと愛があふれていた
VJO(ヴァンガード・ジャズ・オーケストラ)が2014年にリリースした新作が『オーヴァータイム〜ミュージック・オブ・ボブ・ブルックマイヤー』だ。
日本発売はアメリカ発売より数ヵ月遅れて10月だった。アメリカ発売が早まったのは、関係者の話では「グラミー賞を意識して」とのこと。
基準が厳しいため、ノミネート自体が栄誉であるこの賞に関して、VJOはこれまでアルバムのリリースごとにノミネートを果たすという実績を重ねてきた(もちろん受賞も2作品あり)。本作は第57回のノミネートを果たしたが、惜しくも受賞は逃した。
止まっていた時計を動かした団員たちの熱意と敬意
タイトルからも察知できるように、本作は2011年に亡くなったJAZZのトップ・トロンボーン奏者、ボブ・ブルックマイヤーに捧げられている。
ボブ・ブルックマイヤーは、VJOの前身サド=メル・ジャズ・オーケストラの創立メンバーにして、のちにVJOの音楽監督も務めている。つまり、VJOにとって“祖父”とも“父”とも呼ぶべき人物なのだ。
本作では、彼に委嘱していた組曲と、1980年代に彼が書いて演奏されずにいた曲たちを取り上げている。
アルバムの企画は、2011年の彼の死よりも前に、委嘱した組曲の収録を前提に進められていたそうだ。しかし、彼が亡くなったことによって中断。その喪失感が大きかったことから、まったく進まないまま時間だけが過ぎてしまっていたらしい。
それだけボブ・ブルックマイヤーの作品は技術的にも精神的にも、世界に冠たるポピュラー・オーケストレーションに携わる俊英たちの集団であるVJOにとってさえ、高いハードルとなっていたということだ。もちろん、そんな迎合しようとしない姿勢こそが、VJOが伝統を受け継ぎながらも常にジャズのサウンドを更新し続ける原動力のひとつになっていたことは間違いない。さらに加えれば、そんな革新性を全面に表出させた本作とより汎用的であることを重視するグラミーの相性が必ずしもよくないことはムリもないことなのかもしれないと思ったりする。
しかし、その高いハードルこそが、“ジャズ好き”のツボ”であろうことは想像に難くなく、従って本作を旧来のビッグバンドの範疇で(良くも悪くも)とらえようとするのであれば、思いっきり否定してあげたい。
スキルが高い人ほどハードルを上げることでモエるということは、どの分野でも同じはずだ。まさに本作は、世界のトップに位置するビッグバンドのメンバーたちがモエにモエている、なりふり構わない姿勢を記録した“エピタフ(墓碑銘)”と言えるだろう。