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熊本復興にかけるチアリーダーの熱い思い

三尾圭スポーツフォトジャーナリスト
6月10日に熊本でのラクビー国際マッチで演技を披露するライムスガーデンのメンバー

震度7を観測して大きな被害が出た熊本地震発生から1年が経過したが、熊本の方々は今も復旧、復興に向けて懸命に働かれていると耳にする。しかし、そんな熊本の現状はマスメディアなどであまり報じられる機会もなく、被災地以外に住む人々の記憶の片隅に追いやられようとしている。

そんな熊本の現状を一人でも多くの方に知ってもらうために、チアリーディングを通して活動しているチームが「ライムスガーデン」だ。

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「チアを通して人のために活動をしたい」との気持ちから2008年に有志によって結成されたライムスガーデン。結成当初は養護施設や老人ホーム、地域のイベントなどを訪問して、チアリーディングの演技披露と地域の子どもたちにチアを体験してもらう「ふれあいチア」の活動を行っていた。

2011年の東日本大震災後は毎年被災地を訪れて、被災者の方々と心が繋がる交流を続けている。

「私たちが来るのを楽しみにしてくれる方々がいる。多くの人を助けることができなくても、数人の人生の中に私たちの存在が刻まれているので、この活動はずっと続けていきたい。被災者の方々に笑顔、元気、勇気をお届けしたいという気持ちで始めましたが、毎年訪れる度に私たちの方が多くの力を頂いています。子どもたちが成長している姿や、街が復興していく様子を見られるのも、継続して活動をしているからこそです」とライムスガーデンのメンバーの一人は今年で7年目を迎える被災地訪問に対する熱い気持ちを口にする。

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2016年に熊本地震が起こった直後には、熊本出身の福田一十三さんが中心となって熊本復興を応援している。

福田さんはボランティアする側だけが自己満足するのではなく、被災者の心に思いとメッセージが届くように、地元の行政と綿密な連携を取りながら応援メッセージの言葉一つに丁寧な気配りをしている。

「震災直後は『ガンバレ熊本』という言葉を使いたくありませんでした。熊本の方々が、とても頑張っている姿を見ていたので、さらに「ガンバレ」と言って彼らの気持ちを追い込みたくなかったからです。ガンバレの代わりに、熊本の人たちを思う気持ちを込めて「We Love熊本」というメッセージを届けました」

福田さんは地震直後に故郷の熊本に帰り、被災した実家の後片付けを行った。ご家族やご近所の方々が避難所を転々とするして生活する姿を見て、チアを通して元気を届けたいと思い、ライムスガーデンのメンバーに相談。

今年3月に熊本で開催された日本ハンドボールリーグの女子プレーオフ準決勝と決勝戦でライムスガーデンのメンバーと一緒に復興への熱い思いを込めた演技を披露。東京からやって来たライムスガーデンに地元の学校のチアチームとくまモンが加わるコラボ演技はとても好評で、試合を観戦に訪れた地元民から盛大な声援が送られた。

また、このときには演技の披露だけでなく、地元の学生向けチア講習会も行ない、子どもたちにチアの魅力を伝えると共に、楽しい時間も提供した。

少し落ち着きを取り戻してきたので、「ガンバレ熊本」と励ますことで復興に取り組んでいる方たちに力を与えると共に、「一人ではない。熊本のみんなだけでもない。支えたい、応援したいと思う仲間が、日本中にたくさんいることを伝えたい」とエールを送る。

ハンドボールでのチア演技と観客の反応が素晴らしかったために、今度は6月に熊本で行われるラグビーの国際試合でのパフォーマンスの話が舞い込んできた。

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ライムスガーデンは社会人によるボランティアのチアリーディング・チーム。常に活動している訳でも、固定のメンバーがいる訳でもなく、ボランティア活動ごとにメンバーを呼びかけ、その趣旨に共感したチアリーダーが集まって演技をする。

「学生時代には自分たちのためにチアをしてきたので、今度は誰か他の人たちのためにチアをしたいんです」

練習場所を探すのも自分たちで、集まったメンバーで練習場代を割り勘にする。熊本への旅費も宿泊費も自分たちのお財布から支払う真のボランティア・チアリーダーだ。

アメリカンフットボールのXリーグやバスケットボールのBリーグでチアリーダーとして活動する者や、競技チアで世界大会上位入賞経験を持つ者など、ボランティアのチームとは思えないほどにレベルは高い。

3月のハンドボールで熊本に行ったメンバーの大半は、今回のラグビーでまた熊本を訪れる。決して安くはない旅費を払ってまで、年に数回も熊本に行くのは、熊本の人たちがライムスガーデンの演技を楽しみにしており、彼女たちはこの機会を通して、熊本の現状を日本中に伝えたいとの思いがあるからだ。

「地震から1年が経ちましたが、私の実家はまだ半壊のままで、応急修理が終わったばかり。東京にいると『熊本は落ち着いた?』と聞かれますが、そんなにすぐ落ち着くほど復興は簡単ではありません。しかし、東京で生活していると熊本の状況を知る機会も少ないので、まずは日本中の方々に熊本の現状を知っていただくきっかけとなると良いなと願いながら、熊本でチアの演技を行ないます」と福田さんは熊本への思いを訴える。

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今回のラグビーの試合では、「日、出ずる国、日本。魅せよジャパニーズ・チアリーダーの美!みんなの思いを熊本へ」とのテーマで、日本、熊本、国際試合を意識したダンス構成を考案。熊本県益城町復興大使を務め、世界で活躍する津軽三味線演奏家、高崎裕士氏の生演奏に合わせてアクロバティックな演技を披露する。

演技構成を担当する松本真奈美さんは「世界にアピールできる演出にするために、三味線の音色に合わせて、日本のこれまでの歴史を表しました。ラグビーに合うダイナミックさと俊敏さに加え、日本人ならではの繊細な美しい演技となっています」と語る。

「地球誕生を表すトスから演技が始まり、奈良・平安時代の美しき日本文化を8騎のスタンドで表現したり、平和を楽しむ江戸時代はラインダンスで表したりしました。最後は世界平和を願い、地球は一つという思いを込めた演技構成にしてあります」

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東北での復興活動を毎年続けているように、「東北も熊本も復興には相当の時間がかかります。日本全体で協力して、乗り越えていけたらと願いますし、少しでも復興のお手伝いができればと思い、これからもこの活動を続けていきます」とメンバーたちは声を揃える。

熊本地震復興支援ラグビー国際テストマッチ

日本代表対ルーマニア代表

2017年6月10日(土) 午後2時40分開始

えがお健康スタジアム、熊本県熊本市

スポーツフォトジャーナリスト

東京都港区六本木出身。写真家と記者の二刀流として、オリンピック、NFLスーパーボウル、NFLプロボウル、NBAファイナル、NBAオールスター、MLBワールドシリーズ、MLBオールスター、NHLスタンリーカップ・ファイナル、NHLオールスター、WBC決勝戦、UFC、ストライクフォース、WWEレッスルマニア、全米オープンゴルフ、全米競泳などを取材。全米中を飛び回り、MLBは全30球団本拠地制覇、NBAは29球団、NFLも24球団の本拠地を訪れた。Sportsshooter、全米野球写真家協会、全米バスケットボール記者協会、全米スポーツメディア協会会員、米国大手写真通信社契約フォトグラファー。

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