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8畳2間にワンコ164匹「多頭飼育崩壊」の衝撃... 繁殖学から見た問題の根深さとは?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
多頭飼育崩壊のイメージ(写真:アフロ)

猫多頭飼育崩壊は、今年の3月に札幌市の一軒家で238匹の猫が保護されたというニュースがありました。ブリーダーでもない一般家庭で、200匹を超える猫がいたことにびっくりしました。

そして、今回は島根県出雲市の民家で10月に160匹以上の犬が8畳2間にすし詰め状態でいて、多頭飼育崩壊になったというニュースも流れました。数としては、160匹以上なので、200匹はいっていません。しかし、これは猫ではなく犬なので、獣医師から見れば、さらなる問題の根深さを感じます。今日は、ワンコの繁殖学から見た多頭飼育崩壊を考えてみましょう。

島根県出雲市の民家で今月、160匹以上の犬が8畳2間にすし詰め状態に置かれていることが、県や動物愛護団体への取材でわかった。無秩序な飼い方で世話が難しくなる「多頭飼育崩壊」が起きていたとみられ、団体は飼い主の同意を得た上で、県出雲保健所と連携して、来月上旬、全頭の一斉不妊・去勢手術に踏み切る。

出典:8畳2間に犬164匹…「まるで満員電車」多頭飼育崩壊か

上記のような犬の多頭飼育崩壊が起きました。猫の多頭飼育崩壊の方が起こりやすく、犬の方がより予防しやすいものです。犬と猫の繁殖には、どういう違いがあるのでしょうか。 それを見ていきましょう。

なぜ、犬の方が猫より多頭飼育崩壊が根深いか?

犬と猫は、同じように思われているかもしれませんが、「種」が違うので繁殖学を通して見ると大きく異なります。まずは、犬と猫の発情の違いからです。

・犬と猫の性成熟の時期

性成熟とは、一般的に体が生殖可能な状態になったことをいいます。

犬の性成熟は、犬種や個体差などはありますが、一般的に生後6〜12カ月頃です(小型犬の性成熟は比較的早く、大型犬では遅く訪れます)。

猫は、最近では栄養状態もよく一般的には、生後6カ月ぐらいですが、早い場合は生後4カ月で来る子もいます。

・犬と猫の発情周期の違い

犬の発情のことをヒートとも呼びます。

■犬の発情前期(平均約9日間 約3〜27日間) 出血する

猫と大きく異なるところです。犬の雌の場合は、発情出血が確認できる時期があります。

猫は、発情になっても膣から出血をしないので、飼い主が見て、この猫が発情しているかどうかはわかりにくいです(鳴き声が違う、くねくねするなどはありますが、発情出血はありません。逆にそういうことがあれば、婦人科系の病気です)。

だから、愛犬をよく観察してれば、いつ発情前期なのかすぐにわかります。寝ているシーツが出血で汚れたりするからです。

多頭飼育していても、雌犬の様子をきちんと見ていれば、発情の時期が把握できるので、雄犬と隔離することもできたはずです。犬も猫もいつでも交配するわけではなく、発情のときしか交配をしません(これは人と違うところです)。

この時期、発情ホルモンが出ているので、嗅覚の鋭い雄犬は、ニオイが届くので発情中の雌のところに近寄ってきます。筆者が高校生のとき、実家でジャーマン・シェパードの雌を飼っていました。普段は雄犬が嫌いなのですが、発情中は家の前に、脱走した雄犬が寄ってきたのを出窓から外の雄犬を興味津々で覗いていました。この発情の時期に限って、雌犬も脱走することが多いです。

ワンちゃんの発情出血について触れておきます。

人の生理と同じメカニズムと思われがちですが、異なります。

人の生理は、妊娠が成立せず、排卵後に子宮内膜がはがれ落ちた際に出血します。一方、犬の場合は、妊娠の準備のために厚くなる子宮内膜が充血し、血液がにじみ出たことによる出血です。

■犬の発情期(平均約10日間、約5〜20日間) 排卵

犬では発情前期の発情出血後に排卵がおき、交配が可能になります。この時期になって、始めて雄犬と交配することを許容するのです。陰部は、ぽっこりと大きくなり柔らかくなります。雌犬がしきりに陰部をなめるような仕草をみせます。尿の回数が増えたりもします。

出血が止まり発情期に入ってから約3日目になると排卵が起こります。

このような発情が、犬は、ほぼ年に2回、つまり半年ごとにあります(もちろん、半年ごとに発情が来ない子もいます)。

■猫の発情期 排卵

猫の発情は、日照時間によって来ます。日照時間をコントロールすれば、猫は年に何回も発情がきます。つまり年間を通して人為的に照明の光を長時間浴びせ、何度も発情を起こすことができます。「 自然界には存在しない12月〜2月生まれの猫 発情期を悪用するブリーダー」という記事で書いていますので参照してください。

猫の場合は、排卵は交尾することで起こります。単独生活の動物なので、周りに雄猫がいないのに、発情して排卵するとエネルギーの無駄遣いになるためか、自然排卵は起こりません。交配の刺激で排卵するのです。そのためなのか、雄猫の生殖器は、滑らかな形状ではなくトゲのような突起があります(去勢手術をした雄猫の生殖器は、トゲのような突起はなくなり、滑らかになります)。

■犬と猫の交配時間の違い

雄犬は、発情中の雌犬をまずは、ニオイでみつけます。そして、陰部のニオイを嗅いで、雌犬の上に乗り交配が始まります。数分して、その後互いに後ろ向きにつながるような姿勢です(雄犬の生殖器が特殊な形になって、雌犬の膣から簡単に抜けないようになっています)。お尻が互いに付いたような状態になり、飼い主がそれを見つけて、引き離そうとしても、水をかけても、雄の生殖器が膨れているので、抜けることはありません。時間にすると10分~15分、長いときは1時間ぐらいになるときもあります。

これは、犬の精液が、他の動物と違って特殊だからです。犬の精液は、第3液からなっています。第1精液は精子を全く含まない透明な液です。第2精液は、精子を含んだ白濁した液です。第3精液は、前立腺液とわずかに精子を含む透明な液です。この第3精液まで、全部放出されて、子宮に届くことで妊娠が成立するのです。

そのために、数秒、雄犬が雌犬に乗ったということで妊娠はしません。犬で多頭飼育崩壊が起こっている場合は、このような猫に比べて、長い交配時間を何度か目撃しているのです。犬は人目を避けて交配するということはしません。飼い主のいる前でも堂々と交配をするのです。

一方、猫の交配時間は、数秒です。雄猫が雌猫の上に乗り、首元を噛んで一瞬で終わります。それが交配だったかどうか、わからないこともあります。

上記のように、犬の発情期は、人にもわかりますし、交配時間も長いので飼い主は、どの子が妊娠している可能性があるか、わかりやすいので、猫の場合より多頭飼育崩壊が起きにくいのです。

不妊去勢手術をしないで、雄犬と雌犬を隔離すれば大丈夫なのか?

犬は、猫と違って発情も交配もわかりやすいので、雄犬と雌犬を隔離しておけば、多頭飼育崩壊にならないという考えもあります。しかし、実際問題、雌犬の発情中は、雌犬も雄犬のところに行こうとするし、もちろん雄犬も雌犬のところに行こうとします。飼い主の隙をついて交配してしまうということは、よく起こります。そうなれば、望まない命を生み出すことになります。つがいで犬を飼育する場合でも、やはり不妊去勢手術をすることは、基本ですね。

まとめ

つまり、猫の方が繁殖サイクルは早く、犬の方が発情に気付きやすいわけです。そのため、犬でここまでの数になるというのはそれだけ、飼い主が犬を放置していた期間が問題の根が深いと考えられるのです。

筆者の病院は、島根県出雲市と割合に近いので、風のうわさが入ってきます。保護された160匹以上の犬は、全て成犬で、子犬はいなかったということなので、食事が足りず共食いをした可能性もあります。報道されている犬の写真を見ると、似ているので、近親交配をしている可能性が高いです。犬も猫も同じ空間にいれば、親子、姉弟でも交配します。結果的に、先天的な異常、内臓・骨格などの形成異常などが現れることが多いです。生まれてきても、このような状態だと疾患に悩まされますね。

犬や猫をかわいい、外にいるとかわいそうと思って連れて帰り、不妊去勢手術などをしないとこのように多頭飼育崩壊に陥り、満足な環境で飼育できず、空腹のために他の犬の排泄物を食べざるをえない状態になることを知ってほしいです。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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