Yahoo!ニュース

「犬の高齢化」徘徊、夜鳴き、トイレの世話、老老介護の現実 それでも愛せますか?

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:イメージマート)

コロナ禍で人と接する機会が減少し、その癒やしを求めて犬を飼い始めた人が多くいました。そうして飼われた犬たちも、現在では4歳前後になっています。あと数年経てば、高齢犬になる子も出てくるでしょう。

ペットフード協会の2023年全国犬猫飼育実態調査によると、犬の平均寿命は14.62歳です。犬も人間と同様に高齢化が進んでいます。

毎日新聞では、老犬のデイサービスを無料で提供する一般社団法人「はまじぃの家」(兵庫県川西市)の代表、加賀爪啓子さんが「老犬は昼夜逆転してしまっているケースも多く、世話が本当に大変」と語っていると伝えています。

飼い主が、犬の介護に疲れてしまい飼い続けることが難しくなるケースも増え、高齢犬の増加に伴ってさまざまな新しい課題に直面しています。これらの問題について見ていきましょう。

高齢犬のトラブル

写真:イメージマート

犬のことをあまり知らない人は、1週間ほど食べなくなって老衰で旅立つものだと考えるかもしれません。しかし、犬の寿命が約15歳になっている現在、高齢になるとさまざまな変化が見られます。

高齢犬の行動変化

  • 夜鳴き
    老犬のトラブルで最も問題となるのが、この夜鳴きです。鳴き声が近所に響くため、気を使うことが多くなります。昼間の鳴き声はあまり問題にならないことが多いですが、夜間は静かで寝ている人も多いため、夜鳴きは特に問題視されやすいです。高齢犬は昼夜逆転することも多く見られます。
  • 排尿問題
    筋力や関節の衰えにより、立ち上がったり歩行することが難しくなるため、トイレの失敗が増えることがあります。トイレに行っているつもりでも微妙にずれてしまい、トイレ以外で排尿してしまうことがあります。さらに進行すると認知機能が低下し、さまざまな場所で排尿するようになります。
  • 寝たきり
    筋肉、関節、神経に問題が生じると、寝たきりになることがあります。小型犬や猫は床ずれになりにくい傾向がありますが、中型犬以上では床ずれが大きな問題となります。その部位が化膿し、不衛生な状態や悪臭が発生することもあります。
  • 自力で食べられない
    嚥下機能が低下し、舌をうまく使えなくなることで、自分で食べることが難しくなる場合があります。このような場合は、フードを流動食にして介助が必要になることもあります。

高齢犬の病気

高齢犬は行動変化だけでなく、病気にもかかりやすくなります。

  • 心臓病
    猫は慢性腎不全が多いですが、チワワやトイプードルなどの小型犬は僧帽弁閉鎖不全症などの心臓病にかかりやすいです。
  • 認知症
    徐々にしつけていたことができなくなります。たとえば、トイレの場所を忘れたり、クルクルと回ったり、狭い場所に顔を突っ込んで後ろに戻れなくなること、さらには夜鳴きなどが見られます。人間と同様に年齢を重ねるとこのような症状が現れます。
  • がん
    若年でもがんになることはありますが、高齢になると免疫力が低下し、がんになるリスクが高まります。

飼い主の負担

イメージ写真
イメージ写真写真:イメージマート

今や犬は家族の一員です。若い頃は、飼い主の心を癒やし、一緒にいるだけで温かい気持ちにさせてくれました。

しかし、そんな愛犬たちも生き物である以上、「老い」や「病気」を避けることはできません。高齢犬になると、以下のような問題が出てきます。

経済的問題

犬の健康状態や生活の質を維持するためには、定期的な動物病院での検診や、適切な食事が必要です。また、介護用ベッドやスロープ、オムツなどの専用グッズを使うことで、高齢犬の生活を快適にすることが可能です。

しかし、これらの介護用品や治療費は決して安価ではなく、飼い主にとって経済的な負担が大きな課題となります。

さらに、介護だけでなく、高齢犬特有のがんや心臓病などの治療費も増加しています。たとえば、がんや心不全、認知症などの慢性疾患が高齢犬には多く見られ、これらの治療には高額な医療費がかかるのが一般的です。

獣医療の進歩により、MRIやCTなどの画像診断が可能になり、さまざまな病気に対する治療法が提供されるようになりましたが、その分、治療費も高騰しています。画像診断は病院によって異なりますが、治療費は10万円近くかかることもあります。包括的なケアは、飼い主にとって大きな経済的負担となることが多いです。

肉体的負担

経済的な負担だけではなく、肉体的な負担も大きくなることが多いです。

高齢犬になると昼夜逆転することがあり、飼い主の睡眠時間が減ることがあります。また、トイレの失敗が増え、1日10回以上世話をしなければならないこともあります。寝たきりになると床ずれの問題が生じるため、数時間ごとに体位を変える必要があります。

犬が高齢になっているということは、高齢の飼い主自身も年齢を重ねている場合が多く、飼い主が高齢犬を介護する「老老介護」の問題が発生します。体力が落ちている飼い主にとって、高齢犬の世話は肉体的にも非常に大変です。

まとめ

イメージ写真
イメージ写真写真:イメージマート

このような現状を踏まえると、犬の寿命が延びることで、今後ますます高齢犬のケアが重要になると考えられます。

飼い主としては、早い段階から愛犬の健康状態を把握し、将来の介護や治療に備えて適切な準備を行うことが大切です。ペット保険の利用や、介護に関する専門的なアドバイスを受けることも、経済的負担を軽減しながら愛犬をケアするための有効な手段となるでしょう。

犬の寿命が延び、飼い主と過ごす時間が長くなることは喜ばしいことですが、その一方で、高齢化に伴う新たな課題にも対応していく必要があります。

犬を飼うということは、終生飼養が基本です。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

石井万寿美の最近の記事