京都だからできた。映画『花戦さ』の豪華さは、東映京都撮影所のポテンシャルの賜物だった
撮影所と京都の名所をふんだんに使用
現在大ヒット上映中の映画『花戦さ』。豊臣秀吉が武力を行使して、天下統一に着々と近づいている戦国の世で、武器を使わず、“花”で秀吉に闘いを挑んだ世にも希な男・いけばなの名手・初代・池坊専好(野村萬斎)の姿に目からウロコが落ちまくり、今を生きるヒントや勇気をもらえる。
時代劇といえば、チャンバラという常識を塗り替えるような、鬼塚忠による小説を、日曜劇場『JIN-仁-』(2009年)や、連続テレビ小説『ごちそうさん』(2013年)というヒットドラマを手がけ、現在は大河ドラマ『おんな城主 直虎』が放送中の森下佳子が脚本化し、野村萬斎ほか、秀吉役の市川猿之助、信長役の中井貴一、前田利家役の佐々木蔵之介、千利休役の佐藤浩市など一流の俳優が参加して、華やかに彩った。
おりしも、今年2017年は、いけばなの源流・池坊が発祥555年という記念すべき年、専好と、京都の聚楽第を拠点とする秀吉が、宿命の縁で対峙することになるという物語の撮影は、京都で全面的に行われた。製作、配給を担う東映の京都撮影所のみならず、松竹京都撮影所の2箇所に分かれてセットを建て、あとは大覚寺、鹿王院、梅宮大社、仁和寺、光明寺、南禅寺など多くの名所でロケが行われ、ロケ地のスタンプラリーが、映画公開キャンペーンとして開催された。
世界中の憧れの場所・京都。春夏秋冬、いつでも観光客でいっぱいで、ホテルが足りないほどの人気の京都。東映京都撮影所に併設された映画のテーマパーク・東映太秦映画村も大人気だ。東映京都撮影所と映画村に関して、筆者は、かつて、WOWOWドラマ『ふたがしら』の撮影現場に密着し、現場レポートを書いたことがある。観光地として眺めていた場所で、ふいに時代劇の撮影が行われることがあるという、その場に居合わせたらラッキーという、二重の楽しさをもった場所である。
そんな、京都、時代劇とキラーワードを擁する東映京都撮影所にこの6月29日、新所長に就任した妹尾啓太所長に、京都で撮った『花戦さ』の魅力、京都撮影所の今後の可能性について聞いた。
スタジオだけでなくスタッフも貸します
'''1.『花戦さ』ではどのようなかかわりをされましたか。また、京都撮影所のスタッフの方はどれくらい参加していますか?
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妹尾「“製作協力”という立場で、私はその窓口でした。今回の作品は、松竹撮影所も“製作協力”に名前を連ねており、共同で分担する座組みでした。京都撮影所としては、主に美術関係をアシストし、信長を前にした岐阜城の大砂物(巨大ないけばな)のシーン、それにクライマックスの前田邸での大砂物のシーンなどが弊社のステージで撮影されました。スタッフとしては、“美術助手”、“持道具”、“殺陣師”などが参加しています。弊社ステージのセットは、もちろん弊社の装置班によるものです」
2.『花戦さ』で、東映京都撮影所の特性が生かされているところはどこになるでしょうか。また、撮影所のみならず、京都のロケ地のここが、見どころ、と いうようなこともあれば教えてください。
妹尾「クライマックスシーンのセットはかなり大きなサイズのデザインで、それは弊社のNo.11ステージの大きさ(約320坪)があってこそです。ロケについては弊社はノータッチで、松竹撮影所さんにお任せしていますが、一般論としては京都のロケ地は、世界遺産であったり、国宝・重文級のものが撮影できるという醍醐味はあります」
3.歴史ある東映京都撮影所。所長は妹尾さんで何代目になりますか。所長の主にお仕事はどういうものか教えてください。
妹尾「私で16代目になります。所長の主な仕事が何なのか、実は私にもまだよくわかっていません。ただ、後の質問の『撮影所をこれからどうしていきたいか』に、その答えがあるような気がします」
'''4.妹尾さんはこれまで、東映京都撮影所でどのようなお仕事をされていたのでしょうか。中でも忘れられない撮影所での思い出(映画の作品名なども)を教えてください。
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妹尾「基本的に入社してからずっと映画のプロデューサーでしたが、ここ10年はテレビのプロデューサー 業務や外部作品の窓口業務を並行して担当してきました。担当した映画にはそれぞれ忘れられない思い出がありますが、中でも20代にプロデューサーチームの一番下っ端で参加した『社葬』(89年 舛田利雄監督)という映画は今でも一番印象深い作品です。若い社員には『生まれる前の映画です』と言われるようになってしまいましたが……」
5.東映京都撮影所の役割について、教えてください。主に近年、使用されている作品なども教えてください。
妹尾「撮影所には、東映製作の作品を作る“プロダクション事業”と外部作品の製作協力をする“スタジオ事業”とのふたつがあります。もちろん東映京都撮影所なのでプロダクション事業優先ではありますが、可能な限り外部作品も受け入れ、“日本映画界”の“京都撮影所”という側面もあわせもちたいと思っています。実際、ここ数年でも『無限の住人』、『本能寺ホテル』、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』などといった作品は、弊社で製作協力をさせてもらっています。また東京で“スタジオ事業”というと、ほとんど“ハコ貸し”(場所貸し)の印象があるかもしれませんが、弊社でのそれは『スタッフをお借りできませんか』という申し出がついてまわる案件がほとんどで、“コラボ”してプロジェクトにあたる感じです。
プロダクション事業は、現在はテレビ作品が中心です。記録的な長寿番組となっている『科捜研の女』シリーズに代表される、テレビ朝日木曜8時枠をずっと担ってきました」
6.東映京都撮影所の魅力を教えてください。
妹尾「東京のプロデューサーや監督からよく言われるのは、時代劇を製作するなら ば“交通費”、“宿泊費”の問題を含んでも京都の方が予算的にも質的にもいいものが作れる、ということです。美術で、たとえば何もない空っぽのステージにいちから時代劇のセットを作るのに比べ、弊社には時代劇のパーマネントセットというものがあり“町家”、“武家物”の土台はあるので、美術費がはるかに安くつきます。また、隣には時代劇のオープンセットとして使える映画村があり、かつらや衣裳もあり、小道具もあり、また時代劇に精通したスタッフたちがいます。そして、時代劇の素養のあ る俳優陣が いるのも大きな武器です。たちまわりのからみはもちろんですが、戦国の合戦 シーンなどでも彼らがいかに活躍してくれるかは力説したいところです。更に、時代劇で使用できるロケ地が近所にあり、しかもその蓄積があります。また、スタッフの職人気質と家庭的な雰囲気を支持してくれる俳優の方々も多いです。そういう“よさ”はこれからも守っていかなければならないと思っています」
映画村は外国人観光客に人気
7. 近年は、テレビドラマの撮影が多く、映画制作をされることが少ないと聞きますが、今後もそうなのでしょうか。今時代劇をもっと見たい、作りたいと思っている人達も増えているように思いますが、そういう状況をいかが思いますか?
妹尾「テレビであろうが映画であろうが、京都撮影所で製作したいと思っていただける方々と作品をご一緒 させていただく、というスタンスです。時代劇を見たい、作りたいと思っている人たちが増えているのなら嬉しい限りで、作りたい人たちに最高の環境を提供したいと思います」
8.海外の観光客をはじめ、京都に来る人が増加の一途ですが、そういう状況と、時代劇が注目されていることなどと、京都撮影所との 今後を何か結びつけて考えていらっしゃいますでしょうか。
妹尾「ソフトとしては忍者モノとかでむしろ海外セールスに焦点をあてた企画もあるのだろうと思います。そういうもののヒットで映画村の外国人観光客を更に増やせたらいいのですが」
9. 所長として、今後、撮影所をどのようにしていきたいと思いますか。
妹尾「撮影所の最大テーマは、今までもこれからも“映画やドラマを作る最高の場所であること”です。そうあるために、またあり続けるためには、変わっていかなければなりません。人材、設備、システム等々、すべての見直しをはかっていこうと思います」
10.映画村にお客さんがたくさん来ていると伺います。イベントもいろいろやっているようですが、そちらとの連携はあるのでしょうか。
妹尾「撮影所と映画村は一心同体だと思っています。もちろん今までもイベントを含めて連携してきたので すが、更にそれを深めて“チーム京都”を作り上げていきたいと思っています」
11. 撮影所で働きたいと思う人にメッセージをお願いします。京都や関西の方が多いですか? 東京・関東から働きに来る人はいますか?
妹尾「映画やドラマが作りたくて作りたくて仕方がない人たちが集まっている場所です。熱い人、大歓迎です」
関西及び京都から西の人が多いのは事実ですが、実家は東京という人も結構います」
12. 京都の良さを教えてください。
妹尾「京都撮影所ではなく“京都”のよさ、ですか? 難しい質問ですね。さりげないところに伝統と歴史が潜んでいる、というところでしょうか?弊社でここ数年“製作協力”してきた『京都人の密かな愉しみ』(NHKBSプレミアム・2Hで第5弾まで製作、常盤貴子が老舗の和菓子屋の女将に扮し、四季折々の京都の魅力をドラマ仕立てで紹介する)などをご参照いただければ。パート1が4月にDVD発売されました(NHKオンデマンドで全作配信中)。ちなみに第32回ATP賞でグランプリをいただきました。更にちなみに、第4弾までは製作協力作品ながら私もプロデューサーに名前を連ねています」