なぜパリSGは“エムバペ問題”を抱えているのか?L・エンリケ監督との衝突と移籍の裏事情。
指揮官とスタープレーヤーの衝突は、時に避けられない。
パリ・サンジェルマンは今季、リーグ・アンで首位を快走している。2位スタッド・ブレストとの勝ち点差は12ポイントで、優勝に向けて前進中。チャンピオンズリーグでは、準々決勝でバルセロナと激突する。
だがパリSGに問題がないわけではない。キリアン・エムバペの周囲が、騒がしい。
■ルイス・エンリケとの確執
パリSGは先日、リーグ・アン第27節でマルセイユと対戦した。1点リードで迎えた後半、ルイス・エンリケ監督はエムバペに代えてゴンサロ・ラモスを投入したが、これを不服としたエムバペが暴言を吐き、ちょっとした騒動になった。
「私は何も見ていない。まったく、何も。パリで過ごす最後の日まで、私は同じように振舞うつもりだ」とはL・エンリケ監督の試合後のコメントである。
一方、フランス『レキップ』紙によれば、エムバペ側はL・エンリケ監督の起用に不満を抱いているという。リーグ戦直近7試合で、エムバペがスタメンフル出場したのは1試合のみだ。それは3月17日のモンペリエ戦にまで遡る。
指揮官は問題がないことを強調している。ただ、背景には、エムバペの移籍事情がある。
エムバペは2022年夏にパリSGと契約延長を行った。その際に「2年+1年延長オプション」で合意。しかしながら、その1年延長オプションを行使しない旨をクラブに通達したと言われている。
「エムバペは、数カ月前から、レアル・マドリーの選手だ。それを言わないのは、嘘になる。ずいぶん前からね。エムバペは監督を窮地に追い込み、(代理人の)母親にまで攻撃的な発言をしている。エムバペを手中に収めているとしたら、レアル・マドリー以外にあり得ない」とはイタリア人のダリオ・カノービ記者の弁だ。
そう、エムバペの移籍先として有力視されているのはレアル・マドリーである。それは、もはや周知の事実だろう。
■マドリーの補強方針
マドリーは近年、若い選手を積極的に獲得してきた。ジュード・ベリンガム(20歳/移籍金1億500万ユーロ/約171億円)、オウレリアン・チュアメニ(24歳/移籍金8000万ユーロ/約129億円)、エドゥアルド・カマヴィンガ(21歳/移籍金3100万ユーロ/約51億円)、注目のヤングプレーヤーを確保してきた。
その「始まり」はヴィニシウス・ジュニオールとロドリゴ・ゴエスだった。マドリーは彼らが10代の頃から目をつけていた。ブラジルA代表に呼ばれる前から食指を動かしていた。
マドリーには、フニ・カラファトという敏腕スカウトがいる。スペイン生まれブラジル育ちのカラファト氏は、南米のマーケットに強く、マドリーの補強に強い影響力を持つ。そのカラファト氏の“推薦”でヴィニシウスとロドリゴの獲得が決まり、そこから本格的にマドリーの若手推進プロジェクトがスタートした。
ベリンガム、チュアメニ、カマヴィンガ、ヴィニシウス(23歳)、ロドリゴ(23歳)、ブラヒム・ディアス(24歳)、アルダ・ギュレル(19歳)、現在のマドリーには若い選手が揃っている。
エムバペは現在、25歳だ。だがその年齢で、キャリア通算278得点をマーク。フランス代表では46得点を記録している。比類なき決定力を備えており、ヤング・チームに加わるストライカーとして圧倒的な実績を誇る。
■発表とEURO2024の開催
エムバペの移籍は時間の問題である。それが大方の予想だ。
ただ、現時点で公式発表はない。考え得るのは、両者に対戦の可能性があるからだろう。チャンピオンズリーグでベスト8に進出しているマドリーとパリSGは、決勝で激突するかも知れないのだ。
「僕から発表するようなものは何もない。何か言うべきことがあれば、その時に言う」先日の代表戦で、記者会見に現れたエムバペはそのように語っている。
「僕たちの目標は、すべての大会で集中すること。僕の将来は無関係だ。EURO2024の開幕の頃には、フランス代表に集中したいと考えている。その時までには、全部、解決しているだろう」
現地時間3日に行われたカップ戦準決勝では、パリSGはエムバペの決勝ゴールでレンヌを下している。
流石の決定力を示した格好だが、最も重要な試合はこの先に控えている。ビッグイヤー獲得がクラブの悲願であることを、2017―18シーズンからプレーするエムバペが知らないはずはない。