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テレビは複数の「画面」の1つだし、お金儲けのためだけには存在していない 

小林恭子ジャーナリスト

放送批評懇談会が発行する月刊誌「GALAC(ぎゃらく)」の4月号が、現在発売中だ。

今月号の特集は「独立局のサバイバル術」。独立局と言うのはネットワーク系列に入らない放送局を指す。東京近辺で言えば、東京メトロポリタンテレビジョン、テレビ神奈川、テレビ埼玉、千葉テレビ放送など。現在、こうした独立局が全国に13局ある。誌面では、それぞれの局の特徴と看板番組が紹介されている。

巻頭の人物インタビューの一人が、「ロンドンハーツ」、「アメトーク!」などの人気バラティー番組を手がける、テレビ朝日の加地倫三氏。

同氏はテレビ業界の仕事のやり方を書いた「たくらむ技術」(新潮新書)を昨年末、出版した。若い人のために書いたそうだ。

インタビュー記事の最後のほうで、このような箇所があった。

「不安だからと、人気のタレントをとりあえず並べたり、旬の話題を取り入れたりと、いろいろな要素を加えていったら結局個性がなくなって、誰が作った番組か分からなくなる。そんな番組ばかりでは、テレビを目指す若い人がいなくなりますよ」

「制作者はときには0点を恐れずにチャンレジし続けないといけないんです。作り手の顔が見えるような番組が増えてほしい」―。

「あやとりブログ」でたくさんの人が「いいね!」を押した、「テレビがつまらなくなった理由」の答えの1つになっているかのような、インタビューである。

数人の書き手が交互に書く、「海外メディア最新事情」(私も時々参加)のコーナーは、在米ジャーナリスト、津山恵子氏の番だ。タイトルは、「なぜ日本のテレビはグローバルじゃないのか」。

ラスベガスで開催される家電ショーを取材した津山氏は、日本のメーカーのブースで既視感におそわれる。高画質、最先端のテレビが展示されているのだが、「画質の向上での勝負にひた走っている」と感じたからだ。画質は変わっても、コンテンツに目新しさがないから、前にどこかで見たような思いにかられたという。

逆に、新鮮な印象を与えたのはサムソンなど外国のテレビメーカー。コンピューターと結びつけて、「テレビをどう使って欲しいか」を、利用者の立場で提案していたからだ。

世界を見渡せば、今やテレビ(受信機)は、コンピューター、タブレット、スマートフォンと並ぶ、画面の1つに過ぎない。こうした潮流の中のグローバル戦略を、果たして日本のメーカーは十分に認識できているのだろうかと津山氏は問いかける。

英国のテレビ界は、まさにこの潮流に乗っている感じがする。テレビがコンピューターと結びついており、視聴者のために様々なサービスを展開している。

「視聴者のために」というのは、重要なポイントだ。タブレットや携帯電話で見たければそこに向けて、また、時間をずらして見たければ、それにあわせて再視聴サービスを提供し、常に利用者の利便性にテレビ局が心を砕いている感じがする(利他的にそうしているのではなく、そうしないとほかの画面やほかのチャンネルに視聴者が移動してしまうからだ)。

思い出したのは、日本のある勉強会で、英国のテレビについて話したときのことだ。

ある放送局のデジタル戦略について説明し、見逃し番組の無料再視聴サービス、生番組のまき戻しサービスなどを紹介したところ、「どうしてそこまでやる必要があるのか」と聞かれて、言葉に窮した。

「テレビ局だったら、リアルタイムの、テレビ受像機での放送にあわせて番組を制作し、放送するのが本筋だろう」、「余計なことをしたら、リアルタイムで見る人が減るし、広告主も嫌がるだろう」という趣旨の質問だった。

私が言葉に窮したのは、すぐに理由は頭に浮かんだけれども、「テレビが何故、コンピューターと結びつくのか、なぜデジタル戦略を中心にするのか」を説明するために、ある共通の認識がないと話が進まないことに気づいたからだ。

この「共通認識」とは、テレビの番組放送はお金儲けのためばかりではないこと、放送局やそこに働く人のため、あるいは広告主を喜ばせるためだけにあるのではないこと、そもそものテレビの存在目的は「番組を放送して、視聴者を楽しませること」であること(きれいごとではなく、本当に単純な話として)。

メディア環境が変わったら、テレビの側もそれに合わせて、変わらざるを得ない。ネットで何でも情報を取ることに慣れた視聴者が、「ほかの画面(端末機器など)でも見たい、後でもう一度視聴したい」と言うならば、それにできうる限り応えるように、やり方を変えたり、組織を変えたりするしかない。

こういうもろもろの部分が、日本に住む質問者と、普段は英国に住む私の間で共有されていないことを察知した私は、愕然とし、言葉を失った。「ああ、一体、どこから説明したらいいのだろう」と思い、しどろもどろに「視聴者のためにやっているのです」などを繰り返すだけであった。意味が通じていないだろうなあと思いながら。

話がずれたが、津山氏の記事(世界の時流に乗ったテレビ・メーカーが「コンピューターと結びつく」、「テレビを使って何ができるかを利用者の立場で提案する」など)には、大いにピンと来るものがあった。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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