二種類のあんこを包んだ引網香月堂さんの「家持まんじゅう」小豆色と白色の断面は王道の中に光る職人技
高級食材に季節限定。明確な四季が存在する日本において、旬とよばれる味覚は多数存在します。勿論それを逃したくないというのは本心ではありますが、一年を通して変わらない美味しさというのもまた愛おしい存在。
和菓子の中でもお饅頭が大好きな私。お饅頭にも酒饅頭に薯蕷饅頭、上用饅頭、かりんとう饅頭と意外とバリエーションに富んでいるのですが、今回は黒糖のお饅頭。その中でも特にお気に入りのひとつ、富山県に本店を構える「引網香月堂」さんの「家持まんじゅう」をご紹介。
艶やかでふっくらとしたお饅頭には、「家持さん」の焼き印入り。家持さん、とは引網香月堂さんが産声を上げた富山県は伏木地区を拠点に一帯を治めていた大伴家持(百人一首では中納言家持)のこと。歌人としても優れた才能を発揮し、万葉集の編者ともいわれている方です。
オーソドックスな黒糖のお饅頭ではりますが、半分に割ってみるとあら不思議。小豆のこし餡の中には、白餡…?
実はこちらのお饅頭。芯に白餡を包んでいるのですが、そのバランスがまた秀逸。蒸かしている最中に混ざり合わないよう、そして割った時の見た目も美しく食感も同じ滑らかさになるよう双方の水分バランスが計算されつくされているのです。ぴったりと隙間なく隣り合っているにも関わらず、滲んでいないというのが何よりの証拠。
ほわほわっとした黒糖を鼻腔で感じつつ、上品なあんこを舌の上で溶かしていきます。すると不思議なことに、黒糖の華やかさやこし餡の甘味が満足しきる一歩手前でスゥっと引いていくのです。一番小さく、それでいて一番優しい口当たりの白餡が全体のアクセントになっているという今までにない感覚のお饅頭です。だからこそ、もう一口と止まらなくなってしまうのでしょうね。
更に本領を発揮するのはここから。ふんわりラップをして電子レンジで約10秒加熱するのもとろりとしてこれはこれで良きかな、ですが、私のイチオシはオーブントースターで少し上面が焦げるくらいかりっと加熱すること。皮のサクサクっとした歯応えを楽しんでいると熱に押し出されるようにこっくりとした飴のよう黒糖に香ばしさが上乗せされ、何倍も深みのある黒糖に変化。そこへより一層丸みを帯びた二種類のあんこが流れるように口の中を占領していくのです。お饅頭ひとつで、こんなに沢山の楽しみ方ができるなんて…。
ちなみに、引網香月堂さんの四代目・引網康博さんは「薄く衣をつけて天ぷらにしても美味しいんですよ。」とのこと。
お饅頭って一度にいくつでも食べられてしまうような大きさのお菓子ではありますが、だからといって5個、10個と一度に沢山食べてお腹を満たすような立ち位置ではないと思うのです。(焼いたり蒸かしたりあれこれしていたら、一度に4個食べた自分が言うのも説得力がありませんが…)
手の平にすっぽりと納まってしまうような大きさのお饅頭は、あんこはもとより、お腹よりも心を満たしてくれる力をも包んでいるような気がします。決して目には見えませんが、「ほっとする」というあの感覚そのものが何よりの証なのではないでしょうか。
どうかな?と思った方。ぜひ、家持まんじゅうはもとより身近なお饅頭でお試しあれ。
こちらはオンラインストアでは品切れになっておりますが、本店のほか高島屋さんの銘菓百選にて定期入荷されていることもあるそうです。
ちなみに私は、新宿高島屋さんの銘菓百選にて購入することができました。
最後までご覧いただきありがとうございました。
<引網香月堂・本店>
公式サイト(外部リンク)
富山県富山市古沢111-3
076-471-8755
9時~18時
定休日 月・火