エースの残留と、大型補強と。アトレティコ・マドリーが見る新しい未来。
期待値を高めるには、十分だった。
アントワーヌ・グリーズマンがアトレティコ・マドリー残留を明言したのは、6月14日のことだった。ロシア・ワールドカップの結果を待たずして、彼は残留を決断した。
すると、アトレティコは迅速な対応を見せる。グリーズマンと2023年までの契約延長で合意。新契約で、契約解除金は2億ユーロ(約252億円)に引き上げられた。シーズンの開幕前に、ひとつの「勝利」を手にしたと言ってもいいかもしれない。
■グリーズマンの残留と補強
エースの残留は、何よりも大きな意味を持つ。選手の意思を尊重してきたディエゴ・シメオネ監督だが、グリーズマンの在・不在は戦術の抜本的な変更につながりかねない。
クラブ内では、着々と補強が進められた。トマ・レマル、サンティアゴ・アリアス、ジェルソン・マルティンス、二コラ・カリニッチらを次々に獲得した。
また、ガビ・フェルナンデスやフェルナンド・トーレスといったベテラン選手が退団を決意した一方で、コケ、サウール・ニゲス、ルカ・エルナンデス、トーマス・パーティー、ホセ・ヒメネスと多くの若い選手がアトレティコに残っている。指揮官が語るように、「クラブの発展とチームの成長」がその下地にある。
そして、タレントを活かすには、労働が欠かせない。それがシメオネ監督の考えである。
「才能を爆発させるには、厳しく働かなければいけない」
「全員が同じ方向に向かうために、ストラクチャー(構造)が必要だ。チームとして、クラブとして、コレクティブな仕事をしなければいけない。競争を目的にするのであればね」
■アルダの穴
2015年夏にアルダ・トゥランが退団して以降、アトレティコはサイドハーフの発掘に苦労してきた。ヤニック・カラスコやニコ・ガイタンは適応できず、中国に去っていった。ビトロは、いまだ爆発の時を迎えられずにいる。
ゆえに、クラブはシメオネ監督を満足させられる選手を探していた。その答えになりそうなのが、レマルだ。7000万ユーロ(約87億円)から8000万ユーロ(約100億円)といわれている移籍金は、ラダメル・ファルカオ、ジエゴ・コスタのそれを上回り、クラブレコードとなった。
レマルにアルダほどの突破力はない。だがレマルはシメオネが要求する能力を担保する。加えて、フランス代表の同僚であるグリーズマンとの相性も良く、新たな化学反応を予感させる。シメオネ監督のチームにおいて、サイドの選手には馬力が必要だ。オンの時のボールを前に運ぶ力に加えて、オフの時にチームのために走る労働力が問われる。連動したプレスを掛けた直後に、スペースに走り込む動き、あるいは自ら突破することが求められる。
アビリティと機動力を備えるレマルは、そこを補える。ロシアW杯ではポール・ポグバ、エンゴロ・カンテ、ブレーズ・マテュイディがいるフランス代表で定位置を奪えなかった。その悔しさを晴らすために、アトレティコでの成長を誓っているはずだ。
ファルカオが恩師シメオネに獲得を勧めたというレマルには、アビリティと機動力がある。CMF型でありながら、サイドに置かれても攻守において周囲と連携できる、まさに指揮官好みの選手だ。アルダは副審にスパイクを投げつけてしまうほどの獰猛性を備えていた。シメオネ監督のアドレナリンに浸されるように、レマルもまた、野生を解放しなければならない。
■シメオネ流マネジメント
大型補強を敢行できれば、それは喜ばしい。だが難しいのは、選手のマネジメントだ。
ただ、今季初めての公式戦となったUEFAスーパーカップのレアル・マドリー戦で、シメオネ監督から解決策は示された。
シメオネ監督はロドリやレマルという新戦力にチャンスを与えた。その一方で、先発から外れたアンヘル・コレアやトーマスに対しては、本来のポジションで起用するという「恩賞」を授けた。昨季、出場機会を増やしたコレアとトーマスだが、コレアはFWではなくサイドハーフで、トーマスはMFではなくサイドバックでの先発起用が多かった。これがシメオネ流のマネジメントなのかも知れない。
レアル・マドリーを4-2で破り、シメオネ監督はアトレティコで7個目のタイトルを獲得。クラブ史上最多タイトル数を誇る指揮官となった。リーガエスパニョーラ、コパ・デル・レイ、ヨーロッパリーグ(2回)、UEFAスーパーカップ(2回)、スペイン・スーパーカップで優勝を達成している。
「チョロに言ってたんだ。タイトルを勝ち取りたければ、オレを獲得しろ、ってね」
ジエゴ・コスタは試合後、饒舌に語った。選手たちと指揮官の信頼関係は揺るぎない。
今季のチャンピオンズリーグ決勝の開催地はワンダ・メトロポリターノ、アトレティコの本拠地である。
ロシアW杯を経て、弱者の兵法は世界のトレンドになる。そうであれば、アトレティコに流れがくる。シメオネ監督の下で、ずっと、そのフットボールを追求してきたのだから。