「女性はいくらでもうそ」は言ってない? 杉田水脈議員の弁解ブログが輪をかけてひどい理由
杉田水脈議員が「女性はいくらでもうそをつけますから」発言を否定。しかし、報道のあとに更新したブログは、性暴力の被害者支援現場への無知を露呈するものだった。
ざっくり言うと…
(1)杉田議員ブログ:「再発を防ぐべきであり、その為には警察の関与と連携は不可欠」
→性暴力被害当事者のためのワンストップ支援センターは警察との連携をすでに行っており、この記述は誤解を招きます。
(2)杉田議員ブログ:「被害者が民間の相談所に相談して『気が晴れました』で終わっては、根本的な解決にはなりません」
→ワンストップ支援センターは、身体的・精神的医療ケアのほか、法的支援や警察捜査につなげる包括的ケアを受けるための場所であり、「気が晴れました」で終わりにする場所であるかのような記述は誤解を招きます。
(3)杉田議員ブログ:「警察の中に相談所を作り、女性警察官を配置することで敷居を下げ、相談しやすくすることができる」
→警察では、すでに性暴力被害のための全国共通相談ダイヤル「#8103(ハートさん)」が設けられており、各都道府県の性被害対応窓口につながります。警察の相談所が必要と言うなら、まず#8103を周知するべきです。
※2020年10月からは、各都道府県のワンストップ支援センターに自動的につながる全国共通ダイヤル「#8891(早くワン)」の運用が始まります。110・119などと同じように周知されることが必要です。
複数の関係者が証言するも本人は否定
自民党の杉田水脈衆院議員が、9月25日に行われた会議で女性への暴力や性犯罪に関して「女性はいくらでもうそをつけますから」と発言したことが報じられている。
共同通信などの報道によれば、杉田議員は会議後に記者団に対して発言を否定。しかし、参加した複数の関係者から発言が確認されたという。
杉田議員は26日午後に「一部報道における私の発言について」というタイトルで自身のブログを更新し、「報道にありましたような女性を蔑視する趣旨の発言(「女性はいくらでも嘘をつく」)はしていないということを強く申し上げておきたいと存じます」と発言を否定した。
ワンストップは包括的支援の場
報道では、杉田議員は「女性への性暴力に対する相談事業について、民間委託ではなく、警察が積極的に関与するよう主張」(共同通信・9月25日)したとされ、複数のメディアがこれは性暴力被害者のための「ワンストップ支援センター」を全国で増設する方針を説明した際の発言だったと報じている。
杉田議員が発言を否定したブログでも、杉田議員が相談事業に警察が積極的に関与するよう求めていることがわかる。
まったく支援現場のことをわかっていない人の発言だと感じる。
性暴力被害者のための「ワンストップ支援センター」は、現在47都道府県に最低1カ所はある。被害に遭った人が、医療や法的な支援を一括で受けるためのセンターであり、2010年に大阪で24時間ワンストップ支援センターSACHICOがスタートしたのを皮切りに、2018年に各都道府県に最低1カ所という目標を達成した。
警察との連携は行われている
まず、杉田議員はブログで「警察の関与と連携は不可欠であると考えています」と書いているが、すでにワンストップ支援センター(以下、ワンストップ)では、警察と連携が進められている。
性暴力被害に遭い、すぐに警察へ連絡できる人ばかりではない。ワンストップで精神的なケアや法的支援を受けてから警察へ相談できる人もいる。一方で、警察に相談したあとで、警察からワンストップで支援を受けることを勧められる場合もある。
たとえばSACHICOでは、2010年〜2018年までの間に支援を受けて警察へ通報した人は、相談者のうち43.5%に上ったという。一方、平成29年内閣府調査によれば、「無理やり性交等された被害経験」があると答えた男女のうち、警察に相談したと答えた人はわずか3.7%(女性2.8%、男性8.7%)。
警察に相談できる人の少なさを考えれば、ワンストップなどの支援機関がいかに必要であるかは明らかであるし、警察への相談件数を増やすためにもさらにワンストップが必要であることは明らかなのだ。
「民間の相談所」への軽視・偏見を感じるブログ内容
杉田議員は、ブログ内で次のようにも書いている。
「民間の相談所に相談をして『気が晴れました』で終わっては」という書き振りは、専門的な包括支援機関であるワンストップの取り組みを、あまりにも軽視している。医療機関、警察、支援弁護士などのサポートにつながることができる機関であるから「ワンストップ」なのだ。
ただ、始まったばかりの取り組みであるため、ワンストップの質について地域差があり、各専門機関との連携もまちまちであることはこれまでも指摘されている。
ワンストップがさらに質・量ともに拡充していくためには予算が必要だ。杉田議員は、男女共同参画の要求額の中でも「女性に対する暴力対策」への比率が高かったことにご立腹のようだが、そうであるならなおさら、支援現場で何が問題となっているかを把握してから発言してほしい。
そして「警察の中の相談所」はすでにある
また、「警察の中に相談所を作り」とあるが、各都道府県警察では性犯罪被害の専門相談窓口があり、2017年8月からは、全国共通の短縮ダイヤル「#8103」の運用が開始されている。#8103にかければ、最寄りの各都道府県警の性犯罪被害相談窓口につながる。
杉田議員は、警察の中に相談窓口がないと思っているのだろうか。聞いてみたい。
「女性活躍」とは?
性暴力被害者の相談に女性警察官をあてることが女性活躍につながるという発想もいただけない。確かに、被害当事者の中には女性警官の方が話しやすいと感じる人がいるのは事実だ。ただし、性被害当事者は女性だけではないし、本来であれば男性警官であっても性被害当事者に適切な対応ができなければならない。
また、「女性活躍」とは何なのか。「女性だから」という理由で配置される場所を作ることは、むしろ女性警官のキャリアを狭めることになりかねない。男性ばかりで行われてきてしまった意思決定の場に女性が増えることこそ必要なはずだ。女性警官だから性被害相談ばかり担当させられることになりかねない状況に懸念があることを、実際に女性警官からも聞いている。
支援はまだ足りない
前述の通り、各都道府県に最低1カ所ずつワンストップ支援センターができたのは最近のことだ。2018年10月に奈良県で「NARAハート」が開設され、これで全都道府県全てに1カ所以上のワンストップが設置されることになった。
このことに驚きはないだろうか?
内閣府調査によれば、女性の13人に1人、男性の67人に1人が過去に無理やり性交された被害経験があると答えている。被害はあるにもかかわらず、ケアを受けられる場所は非常に少ない。
国連は女性の人口20万人につき1カ所のワンストップ支援センターが必要と提唱しており、その基準では日本には300カ所以上が必要だが、2019年1月時点での弁護士会調べによれば全国に54カ所、そのうち行政が関与する(性犯罪・性暴力被害者支援交付金が出ている)ワンストップ支援センターは、47都道府県に49カ所。
日本は性被害の認知件数が少ないから……というのは順序が逆である。被害者が相談できる場所が少ないのだから、警察が認知する被害件数が少なくて当然だ。
2019年1月に行われたイベント「医療の現場からみた『性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの現状と課題』」の中では、パネリストが「通報されるレイプ被害は2〜3%。もし窃盗被害の2〜3%しか警察が対応できないのだとしたら大変恥ずかしいこととなるはず」と発言していた。
病院拠点型ワンストップセンターの少なさなど、課題は多い。以前、ある被害当事者は私に「傷だらけで血を流しているのに、治療してくれる場所がどこにもない状況」と語った。中長期的支援を受けられる機関も少なく、メンタルクリニックの中から性被害者に理解のある場所を自分で探し出さなければならない被害当事者も少なくない。
日本の性被害支援状況は、まだじゅうぶんに整っていない。また、これまでの数十年間でDVや性被害者を支援してきたのは、主に女性たちの草の根の運動だった。ようやく国が気づき目を向け始めた支援について、議員の立場にいる人が無知や偏見を振りかざさないでいただきたい。
9月25日のTBSラジオ「Session-22」では、杉田議員の発言について、会議で笑いが起こったとも言及されていた。本当ならばあまりにもひどい。しっかりと調査が行われることを強く望む。
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